第97話 実戦テスト


 完成させてしまった新型ゴーレムは白銀に光り輝くボディにより、遠くにいると視認しにくい特性を持ったことで『不可視の蜃気楼インビジブル・ミラージュ』と名付けた。高価なレア素材を大量に消費投入して試作ゴーレムであるため、どうしても俺の中に眠る厨二魂が抑えきれずに個体名を付けてしまったのだ。


「『不可視の蜃気楼インビジブル・ミラージュ』……カッコ良すぎる名前付けちゃったなぁ……実際カッコいいのだが」

「いんびじぶる・みらーじゅはんですか。なんや、強そうな名前ですわぁ。これは人が乗れるゴーレムなん?」

「いや、乗れないよ。自立型ゴーレムだからね。仮に乗る場所作っても、コイツの機動性だと人間の方が持たないよ。常時、重力が掛かってゲロまみれになるだろうさ。この屋敷の自立防衛システムから遮断されるとコイツ自身で判断するようにはしてあるけどね」

「へぇ~、この子は特別なんですなぁ」


 ルシアも完成してしまった試作強襲駆逐型ゴーレム『不可視の蜃気楼インビジブル・ミラージュ』に魅入っていた。とにかく、金の掛かったゴーレムであり、趣味に走った装備を詰め込んだので、実戦テストがしたくてたまらなかった。

 

「あー、ルシア君。お時間があれば、今からちょっとお散歩デートをしないか?」

「ひゃあ!? ホンマですか? ツクル兄さんと、デ、デートですか……。い、いいですよ。どこいきます?」


 ルシアは俺がデートに誘ったことを恥ずかしがっているのだが、もうそろそろ慣れて欲しいと思う一方で、この初々しさをいつまでの継続して欲しいと思う俺もいた。


「そうだね。ちょっと火山の方まで行って、色々と素材を補充したいし、コイツの実戦テストもしたいんだ。あそこなら、それなりの強さの敵も出るし」

「火山ですか。ええですけど、途中で色々と食材を探してもええですか?」

「もちろんさ」


 こうして、オレはルシアと二人でお散歩デート兼『不可視の蜃気楼インビジブル・ミラージュ』の実戦テストをするために火山地帯へ向った。


 

 途中の草原でハーブマスタールシアの目利きによるハーブ採取が行われ、【痺れな草】、【ラベンダー】、【ローズマリー】、【ジギタリス】などに加え、【ショウガ】や【ナツメ】も採取していた。これらは、持って帰ってバニィー達の畑に植えるつもりなので、苗化しておいてある。そうして、トコトコとルシアと腕を組んでおしゃべりをしてお散歩しながら、火山地帯へ到着した。


 素材が切れかけていた【溶岩】や【硫黄】、【玄武岩】、【安山岩】なども素材化してインベントリにしまい込んでいく。たまにしか来ないので、採取できるものは何でも素材化して持ち帰ることにした。そうこうしていると、以前に退治したストーンゴーレムが復活していたようで、火とかげサラマンダーを数体引き連れてこちらに向かってきていた。


「ツクルにーはん、敵が来ましたよ。どうしはります?」


 ルシアが杖を構えて戦う様子を見せたが、俺は手で制して、インベントリに格納してきた『不可視の蜃気楼インビジブル・ミラージュ』を取り出していた。


「大丈夫、コイツが戦ってくれるさ。とりあえず、どれくらいの強さか分からないから実戦でテストしようと思ってね。これくらいの敵に苦戦するようだと、性能不足かなと思って……」

  

 序盤のボスクラスであるストーンゴーレムと火とかげサラマンダーが複数体いるとはいえ、開発に投じた資金と素材を考えれば、苦戦せずに圧勝できる能力を示して欲しかった。


 新型ゴーレムの試作機なので、『不可視の蜃気楼インビジブル・ミラージュ』の出来次第では、強襲駆逐型ゴーレムの量産型計画も頓挫する可能性もあった。


「ツクルにーはんが作った、いんびじぶる・みらーじゅはんなら、きっと大丈夫やね」


 ルシアは俺の作ったゴーレムに全幅の信頼を寄せているようで、構えていた杖を下ろし、初陣を見守るようにジッと目線を新型ゴーレムに注いでいた。


 そして、俺は『不可視の蜃気楼インビジブル・ミラージュ』を起動状態に変えるための起動詠唱コマンドワードを呟く。


「我の作りし『不可視の蜃気楼インビジブル・ミラージュ』よ。我を狙う敵を全力で撃ち滅ぼせ」


 兜と面貌の奥に起動状態を示す赤い光が灯った。そして、極大魔結晶が放つエネルギーを全身に伝えるために張り巡らされた魔素糸マナラインから淡い光が放たれ、全身が淡い光に包まれていく。


 同時に各部位が稼働チェックを始めていた。チェックを終えると、背中から高硬度大太刀を引き抜き、近づいてくる敵に向けて魔導輪を使ったローラーダッシュを始める。先頭を走っていた火とかげサラマンダーはすれ違いざまに真っ二つに切り裂かれ、仲間を守ろうとした別の火とかげサラマンダーも返す刀で斬り捨てられていく。


 ヴォオオオオオオ!!!


 味方を斬られて激高した様子のストーンゴーレムのパンチを華麗に躱すと、一気に距離を詰めて両手の手甲に仕込んだ杭打ちパイルバンカー機構で、呪器の収められていると思われる胸部を打ち抜いていた。そして、瀕死のダメージを負ったストーンゴーレムからパイルバンカーを引き抜くと、少し距離を取り、両肩の大袖部に格納した三〇ミリ機関砲を展開させるとストーンゴーレムに向けてトドメの射撃を加えていくと、ストーンゴーレムは絶命しタダの岩の塊に戻ってしまう。


 『不可視の蜃気楼インビジブル・ミラージュ』がリーダーであったストーンゴーレムを一瞬で葬ったことで、恐れをなした残りの火とかげサラマンダーが逃げ出そうとしたのを見て、背中から二丁の無反動砲を取り出すと逃げ出した火とかげサラマンダーに向けて放ち、命中させると一発で絶命させていた。


「……えらい早業やねぇ……瞬きの間に敵さんが消えてしもた……」

「よ、予想以上の性能だったな……化け物クラスのゴーレムかもしれん……」


 圧倒的戦闘力を見せた試作強襲駆逐型『不可視の蜃気楼インビジブル・ミラージュ』に驚きを隠せないでいた。高性能なのは分かっていたが、予想していた以上の強さを発揮して敵を瞬殺していた。このゴーレム自体の量産は使用素材のレア度を考えると無理だが、廉価量産版は大いに生産する価値があるゴーレムとなりそうな気がしていた。その後も火山地帯に生息する魔物と戦闘を繰り返したが、一対多数でも苦戦をすることは全く見せず、相手を殲滅していった。


 ルシアも『不可視の蜃気楼インビジブル・ミラージュ』の強さを気に入ってくれたようで、作った俺を手放しで褒めたたえてくれていた。


 火山での実戦テストを終えた『不可視の蜃気楼インビジブル・ミラージュ』は、我が家の機動防衛力を担う大事な戦力として自立型防衛システム網の中に組み込まれることとなり、のちの魔王軍からは『白銀の悪鬼』との異名を賜る得意なゴーレムとなる運命が待ち受けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る