第3話 崖の上のヒロイン


 小屋の近隣を歩き回っていると、不意に人らしき声が崖の上から聞こえてきていた。


「誰かぁ~! 誰か、いませんかぁ~! もうあきまへん! 助けておくれやす~!」


 助けてという割に、妙にゆったりとした若い女性の声がした。だが、助けてと言われて助けないわけにはいかないので、土ブロックを崖にくっつけて階段を作成していき、一気に崖上まで登っていく。声の主は黒い大きな黒帽子と黒服をまとった若い女性だった。金色のウェーブの掛かった髪が、少女らしい幼さを残す顔とのアンバランスさを際立たせて不思議な魅力を感じさせる女性だった。


 身長が余り無かったので幼い少女かと思ったが、黒服の胸の部分を押し上げている塊の大きさは大人の女性に匹敵するほどの隆起を見せていた。


 これはフラグという奴だろうか? この場面を華麗に乗り切り、女の子を救出するともれなく、お付き合いできるという伝説の恋愛フラグというものか。


 だが、こんなイベントは『クリエイト・ワールド』の中では発生しなかったイベントだ。


 どうしようか逡巡している間に、金髪の少女が角ウサギに取り囲まれていた。少女がこちらの存在に気付いて転がるように助けを求めてくる。


「そこのおにーはん! お頼み申します! 助けておくれやす~!」


 縋るような眼でこちらを見られてしまえば、見殺しにするわけにもいかずに石の剣に持ち替えて、少女の周りを囲んでいた角ウサギ達を攻撃していく。


 ズバッ、ズバッ、ズバンッ!


 我ながら見事な剣さばきで角ウサギを退治すると、倒されたウサギから毛皮と肉がドロップしていた。あまりに手早く魔物を仕留めたので、少女は呆気に取られた顔でこちらを見ている。

 

 >ウサギの皮を入手しました。


 >ウサギの肉を入手しました。


 ドロップした皮と肉をインベントリにしまい込みつつ、少女に話しかける。


「大丈夫?」


「助けて頂きおおきに~。おにーはんの名前はなんちゅうのどすか~?」


 妙にゆっくりとした語調の喋り方をすると思っていたが、どうやら、少女は京都の方言を使っているらしい。異世界に来て、京都弁に出会うとは思っていなかったが、洋風な出で立ちの少女が使う京都弁は不思議な魅力に溢れている。


「創、村上創むらかみ つくるだよ。君の名前は?」


「ルシア・カバーサと申します。ほんにありがとうございます~。行くあてもなく彷徨っとるうちに、魔物に取り囲まれてしもて、困っとったとこどすねん~」


 ルシアと名乗った少女は頭に被っていた黒い帽子を取り、頭を下げてお礼をしていた。その頭にはモフモフの毛に覆われ、尖り気味の三角の耳。通称、狐耳がピンと立って生えていたのだ。


 自分が望んでいた異世界に転生したしたことで、気持ちが浮ついていたこともあり、つい魔が差して一生懸命にお礼をいうルシアの狐耳を無断で揉んでしまった。


 フニフニ。

 

「あきまへん。堪忍して、それだけは勘忍しておくれやす~! あふぅ、そないに激しく揉まれたら、気持ちようなってしまいます~。あぁ、あぅん」


 狐耳を揉まれて身をよじらせるように喘ぐルシアの姿に、男としてグッと来るものがあったが、助けた少女に襲いかかるのは道徳的に許されることではない。


 もう少しだけ悶えさせたくもあったが、これ以上は自分が犯罪者になったような気がするので、ルシアの耳から手を放した。


「すまない。つい魔が差した。深い意図はないんだ。気を悪くしたら申し訳なかったです」


 少しだけ上気して顔を赤らめていたルシアが、翡翠色の美しい眼をパッチリと開き、上目遣いで呟いてくる。


「おにーはんなら、もうすこしだけ、触らせてあげても良かったんやけど……でも、女の子の耳は勝手に触っちゃあきまへんよ~。うちは街から追放者やから問題はありしませんけど~」


 あかんがなっ! 最強にカワイイ! こんな子に毎朝『おにーはん、朝ですよ~。起きておくれやす~』とか起こされたら、マジ天国なんだけどっ!!!


 異世界で出会った最初の住人が、超絶にカワイイ狐娘だったことで、興奮を抑え切れない自分がいた。『クリエイト・ワールド』でも住民こそいたものの、世界構築に処理パワーを取られていて、登場人物の3Dモデリングは最小限に抑えられていたのだ。


 だが、この世界ではルシアのように見目麗しい美少女が住んでいると分かると、あのインチキ女神には感謝の祈りを捧げても良かった。


「おにーはん? まさか、うちが追放者やと知ってドン引きしているんやろか~?」


 ピンと立っていた狐耳を伏せて、ルシアが不安そうな顔でこちらを見ている。


 カワイイっ!! ルシアたんカワイイおぉ!!! もう、あの小屋にお持ち帰りして、一日中、狐耳をモフりまくってやりてぇええ!!


 脳内で一日中、狐耳をモフられてあられもない姿になったルシアの妄想が膨らんでいく。


「おにーはん?」


「ひゃいっ!! けして、やましい事は考えてませんっ!! ルシアさんの狐耳は素敵ですっ!! 以上、終わりっ!!」


 妄想に耽っていたところ、ルシアに呼びかけられて焦ったため、しどろもどろな回答をしていた。


 クゥウウウ~~。


 一瞬の静寂が訪れて、誰かの腹の虫がなった。自分の腹が鳴った感覚は無かったので、鳴ったのはルシアのお腹だと思われる。


「恥ずかし、おにーはんに聞かれてしもた~。うち、恥ずかしわ~」


「モモノ実でよければ差し上げますよ。今日のおかずは手に入りましたからね」


 ルシアの目の前にモモノ実を差し出す。


 クゥキュルルル~。


 ジーッとモモノ実を凝視していたルシアの腹が再び鳴った。


「おにーはん、堪忍、堪忍しておくれやす。うち、三日間ほどなんも食べておらんのどす~」


 ルシアが差し出されたモモノ実を受け取ると、もの凄い勢いで食べ始めていた。


「あぁ、美味しい。モモノ実がこんなに美味しいものとは思わへんかったわぁ~。おにーはん、食べてるとこ、そないに見つめられたらかなわんわ~」


 相当にお腹が空いていたようで、一気にモモノ実を平らげたルシアが、口に付いた果肉を指で取って大事そうに口に運んでいた。


 実にエッチィ姿である。もう、完全にモンスター級のエロさである。ルシアがもっと食べたいと言えば、喜んで残りのモモノ実を差し出すだろうし、肉も差し出してしまうかもしれない。


 ルシアの愛らしさと、エロさに魅了されたことで、何とか一緒に生活できないかと、黒い欲望の塊が自身を突き動かしていく。

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