第123話 魔王軍離反作戦
意識を回復するとダンジョンに入る前にいた中洲の島に出ていた。祠は崩れ落ち、入り口となっていた場所は穴も何も存在しなくなっていた。
「ツクルにーはんはまたイクリプス様とお話してたんですか? うちはいつもお話したいなーと思ってるんですけど、できないんで困ってます」
ルシアが膝枕してくれていたおかげで頭の後ろは至極快適であった。ルシアがイクリプスと話がしたいと思っているようだが、あのポンコツ女神に合わせてルシアに悪影響が出るのは願い下げなので、適当に誤魔化しておくことにした。
「イクリプスと会うには色々と面倒な手続きがあってね。イクリプスもルシアに会いたがっているよ。そういえば伝言があった『美味しいご飯をいつもありがとう』と伝えてくれと言われていたなぁ。イクリプスもルシアの飯は楽しみしているみたいだぞ」
「ほんまですかぁ。嬉しいわぁ。イクリプスはんに喜んでもらえるように今日の晩御飯も美味しいのを作りますわ」
ルシアがイクリプスの言葉を聞いてニコニコと喜んでいる。『うちとツクルにーはんを引き合わせてくれた大切な神様』とルシアがイクリプスの神像を敬うため、我が家では自然と住民達が食事前に礼拝を捧げていくようになっていた。
我が家の料理番のルシアが信仰イクリプスは、住人に『美味しいは正義』の神として認知されてしまっているのかも知れない。管理者としては無能であるが食い意地と転生の腕前だけは超一流なのであながち間違っていない二つ名なのかもしれない。今度会ったらその名前でからかってやることにしよう。
「ああ、そうしてやってくれるとイクリプスも喜ぶと思うぞ」
ピヨちゃんの視線を感じたので、額を貫かれないうちにルシアの膝枕から起き上がる。第三の修練のダンジョンをクリアしたが、今回は時間が進行していたようで日が暮れかけていた。
「もう、日暮れみたいだね。一旦、屋敷に帰って、明日からワイバーン狩りをしようか?」
「「「はーい」」」
みんなもお腹が空いているようで、反対者がいなかったため、俺達は転移ゲートを使って屋敷に戻っていった。
屋敷に戻ると、わっと歓声があがりバーニィー始め、屋敷の住人達が出迎えてくれていた。彼らも俺達が帰ってきたことで修練のダンジョンをクリアしたと理解しているようだ。
「ツクル様っ! おめでとうございますっ! これでまたしばらくこの世界は続いていくことになるんですね」
ミックに未来を与えたいと言っていたバーニィーが喜びの余りに男泣きしている。子供ために未来を残すことができたと知り泣いているのであろう。
「ああ、今回でまた少し伸びたぞ。だが、まぁ色々と大変なことが判明した」
「はぁ、大変な事とは?」
「魔王を討伐しないと完全なる静穏をやってこないらしい……。だから、俺は魔王を討伐しようと思う」
「ま、魔王討伐ですって!?」
「ああ、討伐と言っても強大な魔王軍に喧嘩を売るわけじゃなくて、魔王軍幹部に魔王の目論見を吹き込んで離反させていき、魔王とはこの屋敷の迎撃能力をフル稼働させつつ最終決戦をしようと思っている」
「魔王軍と戦うのでなく、魔王と戦うというわけですか……。今の魔王様は力で各魔族を束ねている方なので、幹部を離反させていくのは容易ではないかと思いますよ」
バーニィーはクリエイト商会で番頭をするようになって、色々と情報を仕入れる立場にあり、魔王軍の動向に詳しくなっていた。
「バーニィーは世界が滅ぶことを望む幹部が多数いると思うか? 幹部に昇りつめているんだぜ。この世界が続く方がいいと思うやつが多数だと俺は思っているが」
「まさか、魔王軍幹部は世界が滅ぶことを知らされていないとでも言われますのか?」
「ああ、きっと幹部にすらも世界が滅ぶことは伝えていない気がする。ちょうどいいことに魔王軍の幹部であるアモイがフェンチネルにまで出張ってきているので、彼に取り入ってその辺りの事情を探ってみようと思うんだ。もし、知らされていなければこちらに引き込める可能性もあるからね。魔王軍とは戦わず、魔王個人との戦いをこの屋敷を使ってすれば勝てない相手ではないと思われるけど」
バーニィーも俺の言ったことを考え込んでいる様であった。魔王軍と戦うとなれば膨大な数の敵を作ることになるが、魔王個人と戦うことにすれば、そこまで大げさなことではないと思われる。
魔王軍という組織を崩壊させて、魔王を孤立させ、その頭のいかれた自殺願望のある魔王を討ち取れば、このクリエイト・ワールドは守られるはずであり、損害も少なくて済む。そうすれば、俺はこの世界でルシアと一緒に一生笑って暮らしていけるはずなのだ。
「なるほど。魔王軍を解体させるのですね。ならば、クリエイト商会の力ももっと強めていかないといけませんなぁ」
「そうだね。魔王軍幹部に伝手をつくるためにまずはアモイを口説き落とそう。彼を入り口に魔王軍の幹部たちに魔王のことを吹聴していくべきだと思う」
「分かりました。ツクル様がワイバーンを狩るまでに色々とアモイ殿に付け届けをして歓心を買っておきます」
バーニィーは買収の下準備を進めてくれるようで、ワイバーンを討伐して要求していた武器を手渡せれば、こちらの話に耳を傾けてくれるような気がしている。最悪、聞く耳を持たないのであれば、屋敷に誘い込んで砲撃とゴーレムによって殲滅するしかない。
「任せたよ。俺はルシアと暮らせるのであればどんな汚い手段でも使って未来を勝ち取るつもりさ。カッコよくしていても魔王に世界を滅ぼされたら何の意味もないからね」
「分かっております。私も一度は死んだ身ですからね。魔王を倒して子供達に未来を残すためなら汚れ役はいといませんよ」
「すまないけど、そうしてくれると助かる」
俺は汚れ役を買って出てくれたバーニィーの手をガッチリと握っていく。俺達は魔王を倒すことに全力を注ぐことにした。
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