第124話 オルグス山脈
翌日からは再びオグニス山脈にあるワイバーンの営巣地に向けて愛馬イワンになると移動を始める。すでにかなり近づいてきているが、ワイバーンの営巣地はオグニス山脈でも標高の高い場所にあるため、魔物を狩る者達が作った山道をゆっくりと上がっていく。
「今のところは、道幅まぁまぁあるから大丈夫そうだね」
ルシアを乗せたピヨちゃんも足元を気にしながら山道を登っていく。俺もまだイワンの上に乗って山道を登っていた。ゲームだとワイバーンの営巣地は魔物の村とは違い、キャラクターが侵入できるマップであるため、ワイバーン討伐とともにレアな素材の収集場所にもなっていた。しかし、その営巣地に入るためには細く険しい山道を慎重に進んでいくしかないのである。
見上げると、オグニス山脈に沿うように作られた山道が徐々に細くなっていくのが見えていた。
一度、どこかでイワン達を置いておかないといけないかな。いや、乗れなくなったところで転移ゲートを使い屋敷に戻しておくか。置いておくとワイバーンの餌食にされてしまうかもしれないからな。
イワンの背に揺られながらしばらく登るとやがて道が一段と狭くなった。
「ツクル様、馬はこの辺りで限界っぽいんでどうする? 馬は屋敷に戻してここからは歩んだ方がよかよね?」
「そうだね。イワン達は屋敷に戻して、ルシアも歩こうか」
「おいらは先行して敵の気配が無いか探ってくるわ」
「おお、任せるぞ。ハチ」
索敵のために先行したハチを見送ると、俺達はそれぞれ下馬して設置した転移ゲートからイワン達を屋敷に戻すと、歩きで細くなった山道を歩き始めた。標高が高くなり始めたので、眼下にはクリエイト商会が拠点にしているフェンチネルの街が一望できるようになってきた。
確か東側にレッツェンがあるはずだけどなぁ……。
標高が上がり見晴らしの良い場所であったため、ルシアが住んでいたはずのレッツェンも遠方にうっすらと確認ができる。今登っているオグニス山脈はこの世界でもかなりの高い標高の山々であるので、この近隣地域のゲーム世界との違いを確認するのにはもってこいの場所であった。
さすがに我が家までは見えないけど、特にゲームと配置が違うことはないね。ランダム要素が無くて助かる。
地形の確認を終えると、慎重に足元を確認して登っていく。しばらく登ると上空から鳴き声が聞こえ眼をやると親のワイバーンが飛び回る姿が確認できた。幼いワイバーンのために餌となる毛長牛や双角鹿などを探しているものと思われた。
「親のワイバーンはんのお肉はちょと固いからなぁ。でも幼いワイバーン手羽先はお肉がまだ柔らかくて、脂もあるし、タレに漬けて炙ると美味しく頂けますよ」
上空を飛んでいるワイバーンを見てルシアが今日の夕食の献立を考えているようだ。俺の後ろを歩いていたルリのお腹が鳴る。
「ルシア様が作ると美味しそう……。これは、張りきってワイバーンを仕留めないと」
食欲の権化とかしているルリだが、ハチも先程の話を聞けば涎を垂らして喜ぶと思われる。そして、俺の腹も一緒になった。朝も昼もシッカリと食べているのだが、ルシアの料理を思い浮かべると急速にお腹がすくので、美味しすぎる料理は意外とお腹の持ちの燃費が悪いのかもしれない。
「ワイバーンの手羽先か……」
「とはいえ、あまりに殺生し過ぎれば生態系を壊すことになりますからね。ツクルにーはんが必要としている大竜骨とお夕飯の分のワイバーンを狩ったら帰りましょうね」
「ああ、そうだな。彼らも生き物なんでな。持ち帰れない、食べられないほど狩るのは狩人の礼儀に反するからね。親ワイバーンと子ワイバーンを一体ずつ狩れば十分だろ?」
その時、飛び回るワイバーンが大きな咆哮を上げると、奥の山脈から黒い粒がみたいな物が急速に大きさを増してきた。
ま、まさか……あの黒いのって……。
ワイバーンの咆哮でみんなも気付いたようで、視線が黒い物体に集まる。
「あれって、黒竜やなかと? たしかこのオルグス山脈に生息しとる最強種のドラゴンやったはず。ワイバーンの子供を狙いにきたと?」
「だ、だろうね。それにしてもタイミングが悪い……。これは、周りのワイバーンが集まってくるよ。繁殖期だし、気が立っているからね。俺達は巻き込まれないようにしないと」
細くなった山道で黒龍に襲われたらひとたまりなく壊滅するような気がする。
「ツクル様! ここから少し先にひとまず隠れられそうな場所がありゃーす」
ハチも黒龍の姿を確認して偵察から戻ってきたようで、退避場所の位置を教えてくれていた。
「よし、そこまで走るよ。慌てないでいくぞ。ハチ、先導を頼む」
「合点承知!」
ハチの後ろについて退避場所へ向けて俺達は歩を速めていった。遠くの上空では親のワイバーンが黒龍に対して戦闘をしかけ、咆哮を聞きつけた仲間のワイバーンも近隣の山々から一気に集まり始めて壮絶な空中戦を始めていた。その様子を横目に見ながら、俺は最後列で魔物に強襲されないように気を配りつつ、メンバー達の逃走を援護していた。
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