第95話 砲戦力
旨味食堂の繁盛はクリエイト商会の名をフェンチネルで爆発的に広めてくれることとなり、野砲を設置するのに必要な鉄のインゴット、銅のインゴットといった金属物資や、真銀のインゴット、中魔結晶、硫黄、リン鉱石といったレア物資も取引に応じてくれる商会も現れ、俺のインベントリや素材保管庫の肥やしになっていた魔物素材を提供することで取引が成功している。
そういった取引の原資はラストサン砦の連中が着ていた武具を売却したお金や、ビルダーとしての能力を遺憾なく発揮して魔物素材を使い製作した高性能武具などを売ったお金を使い手に入れ、そのレア素材や金属資源を使用して更なる高性能な武具や高級薬を売り出して利益を重ねるという錬金術で、一気に巨額の資産とレアな素材を手にすることができるようになっていた。
おかげで屋敷は作業スペースが手狭になり、元作業スペースは新たに建設することにした作業工房にて働く職人のための個室部屋に改造し、屋敷の隣に新たに元の作業スペースの十倍の面積を持った平屋の作業工房兼素材置き場を建設した。
飲食店のスタッフの寮も併せて建設しようとしたが、バニィーから転移ゲートを使ったフェンチネルとの行き来はリスクが高いとされ、見送られることとなった。それに伴い屋敷側スタッフとして採用する者は、フェンチネルに伝手が無い者に限り、移動を制限する代わりに高めの給与を支払い、クリエイト商会が管轄する屋敷内の売店にて色々な品を安く購入できるようにしてあげた。
売店に無い物については売店係に要望を伝えれば取り寄せられるようになっており、フェンチネルで刊行されている本なども買えるようにしておいた。
こうして、二〇名ほどの職人を屋敷に招くことに成功し、彼等によって工房は運営されるようになっていった。新設の作業工房は製錬部、機織り部、鍛冶部、皮革部、縫製部、調合部、魔術部、ゴーレム部と別れ、製錬部は鉱石類を溶かして金属資源に変えたり、粘土やコンクリートといった素材を作り出す部署である。機織り部は麻や綿花、蚕糸を反物に織り上げる部署で主に女性がメインに働いている。鍛冶部は金属資源や魔物素材を使って武具、農具、道具を作り出す部署。皮革部は動物の皮や魔物の皮を使って皮革を作り出す部署となっている。
縫製部は反物や皮革を使い色々な服を縫い上げる部署でここも女性の独壇場となっていた。調合部は魔物素材や薬草類を用いて薬の精製を行う部署であるが、調合師のジョブを持つ人がまだ見つかっていないため、俺が受け持っている。魔術部は魔結晶や白紙の巻物などを使い魔術を作り出す部署でこちらも適任者がいないので俺が兼務していた。そして、最後のゴーレム部も適任者がおらず、ゴーレムのメンテナンスは俺の担当となっている。
作業工房は各部にジョブを持つ者を振り分けたことで、効率が無い者達より上がってり、ビルダーである俺のトンデモ能力には及ばないものの、着実な生産を行える体制を確立することができていた。
そして、フェンチネル入りの当初の目的であった野砲や銃器の生産も始まり、城壁に築いた砲台には一五〇ミリカノン砲や、同じく一五〇ミリ榴弾砲といった長距離砲と、一〇五ミリ榴弾砲、七五ミリ速射砲といった中距離砲をコンビで全周囲に設置することができた。製造にはかなりの金属資源とレア素材が消費されたが、無限錬金術によって生み出された金による力でこの砲戦力を手に入れることに成功している。
魔王軍の砲戦力がどれほどか分からないが、自走できるうる砲口径を考えれば、今回配置した砲で先制攻撃できると踏んでいた。そのため、城壁から四キロほど離れた場所に高台を形成し観測台を設置すると、モノアイ型のゴーレムを配置して屋敷の自立防衛システムに直結させた。これを城壁を囲むように八か所作り、魔王軍が侵入した時点で自立防衛システムが立ち上がり、敵味方判定を行なわれる。ゆえに俺の屋敷でゴーレム達に登録されていないものが近づけば警告射撃の後、即死クラスの銃砲撃に曝されることとなり、地上から近づくことはかなり困難になっていた。
我ながら罪深いシステムを構築してしまったと思ったが、魔王軍が俺達の生活を脅かさないようにするには、過剰とも思える防備を供えておかねばならなかったのだ。
さらに、空からの侵入に備え二〇ミリ対空機関砲や七五ミリ対空砲も城壁内に沿って設置してあり、野砲と同じように鉄人形隊が操作をして侵入する敵を捕捉するようにしてある。
おかげで、鉄人形隊は千体を越える数となり、半数は砲手として各種砲の操作要員となっているが、もう半分は突撃銃や軽機関銃、ショットガンなどで武装した武装兵として随時、屋敷の周囲を門番君シリーズに帯同して警備している。
その門番君シリーズも火器類による大幅アップデートを受けて、殺傷能力は極大化しており、重機関銃や無反動砲を複数装備したタイプにバージョンアップしていた。
これにより、我が家の防衛力は各段に上昇することとなりラストサン砦にいた程度の戦力では城壁に近づく前に全滅するハメに陥るようになっていた。
今日は完成した自立式防衛システムを試す意味合いも込めて、屋敷の近場に発生した魔物を誘引することにしていた。
「さて、これ位でいいかな?」
「ツクル様、野良ゴブリン達をこんなに引き連れてどうするんだがね?」
演習のお供を買って出ていたハチが数十体の野良ゴブリンの攻撃を軽くかわしながら、彼らを引き寄せる理由を聞いていた。ゴブリンから逃げながらハチの質問に答えてあげた。
「とりあえず、設置した砲が正常に働くか調べようと思ってね。そろそろ、監視区域に入るからあいつらを距離を取るよ」
「ん? あ、はい。ツクル様の言っていることがよく分からんが……」
モノアイ型のゴーレムが設置してある監視台の近くを一気に駆け抜けると、防衛ライン通過したゴブリン達を発見したモノアイゴーレムが敵判定の赤い明滅を繰り返す。しばらくすると、屋敷から砲撃音が聞こえゴブリン達が到達するであろうと予測された位置に着弾した。見事に着弾地点にいたゴブリン達は吹き飛んで肉片一つ残っていなかった。
「……どえりゃー威力だがねー。おいら、少しだけちびってまった」
ハチも目の前で見た砲撃の威力に恐れおののき、尻尾を股の間に挟んでいた。
「これくらい、厳重防備しておけば、外出中に襲われても屋敷のスタッフが危険に曝されることもないだろうなと思って。夜中に砲撃音で叩き起こされるかもしれないけどさ」
「それにしてもどえりゃーもん作りましたな……魔物以外の動物や人が入り込んだらどうなるです?」
「動物は魔物化してない限り除外されるはずだし、人はさっきの監視台から警告音声が大音量で流れるようになっている。それに警告射撃もあるからね。それでも寄ってくるのは敵とみなされるかな。もちろん、この屋敷の人間は攻撃されないように設定してあるよ」
ゴーレムを利用した自立型防衛システムには屋敷の人間はすべて登録してあり、友軍誤射は起きないように設定しておいた。住民達は広がった屋敷内から出ることはほとんどなく、畑も工房も家も城壁内取り込んであった。
「それなら、安心だわ。外に出ておいら達も狙い撃たれたらかなわん」
「とりあえず。正常に動作するようだから、試験は終わり。さぁ、屋敷に帰って夕飯喰うとしようか」
作動試験を終えた俺達は屋敷に帰ることにした。この後、数度に渡り侵入しようとした野良魔物が捕捉されたようで砲声が轟くことがあったが、住民達には事情を説明しておいたので、特に怯える者は出てこなかった。
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