第136話 支店設置許可
スキンヘッドに眼光鋭い目付き、そして鍛え抜かれた筋肉を纏った引き締まった身体の男が騒いでいた俺達のところに近寄ってくると、タマを撫で回していた商人や傭兵たちが顔色を変えて蜘蛛の子を散らすように逃げ出して行く。
俺はその見た目に威圧感を覚えていた。どう見ても突起がそこら中に付いた服や装飾品を着込んで、スキンヘッドなのはかなりヤバイ人だと思われる。きっと、髑髏の指輪をしているだろうと思って指に視線を向けると予想した通りに全部の指に髑髏の指輪がはめれていた。
マジでヤバい人だわ。関わらない方がいいかもしれないな。
「す、すみません。ここのギルド長にご挨拶させてもらったら、すぐに立ち去りますのでお騒がせしました」
俺は相手の男を怒らせないように下手に出てペコペコと頭を下げる。きっと、戦うことになっても今の俺であれば余裕で勝てるのだけれども、生理的に拒否感が働く人相と風体をしているためなるべくなら戦いたくはない。
「ほぅ、ギルド長に挨拶しに来たのか? どおりでここらじゃ見ねえ顔だと思ったぜ。どっからきたんだ?」
男は俺を値踏みするような視線をしながら、来訪目的を探ろうとしているようで、視線を受けた俺は居心地悪く感じてしまう。
「へ、へぇ。フェンチネルから参りました。とある方の知己を得ましたので、このベラジネジョーでも商売を開始させてもらえるようにギルド長に面会をしに参った次第です。本当にお騒がせして申し訳ない。ギルド長にご挨拶さえすれば私どもはすぐに立ち去りますので」
「ほぅ、あんたがアモイ将軍の可愛がっている商人か。確か、クリエイト商会のムーラ殿であったな?」
男は俺のことを知っているようであった。途端に周りで様子を見ていた商人たちがざわつき始め、俺の方へ視線が集中してきた。
「アレがフェンチネルの急成長商会の支店長か」
「どう見ても若造にしか見えないぞ」
「何でも本店はかなり南の方だと聞いておるが、ふらりと現れたフェンチネルに支店を出すと瞬く間に飲食、雑貨を牛耳った上で最近は武具にも手を伸ばし始めたそうだ」
「討伐軍のアモイ将軍が御用商人に採用したらしいぞ。ついにこのベラジネジョーに進出かよ」
「うち食料品関係だから後で商談させてもらおうかな。討伐軍の糧食関係を預かってるらしいぞ」
「マジか。うちは飼料関係だから喰いこむか」
周りの商人達が俺の正体を知って、ざわざわと近くの商人達と話し合っている。ここまでクリエイト商会の認知度が高いとは思ってもみなかった。フェンチネルは交易都市とはいえ僻地にある田舎なので、王都により近いベラジネジョーから見れば辺境だと思っていたからだ。
けれど、フェンチネルの商人達の口づてにクリエイト商会の噂はこのベラジネジョーまで拡がっていた。
「お見知りおき頂いて光栄でございます。そういえば、ご尊名をまだ聞いておりませんでしたが……」
俺のことを見抜いた男がただものではないと感じ、逃げ出そうと思っていた思考を切り替えて、男に名を尋ねた。
「これは、失礼した。ベラジネジョー商人ギルドのギルド長を務めておるギャレットだ。あんたは俺に用事があったんだろ?」
男が来訪目的のギルド長と知り、衝撃が走る。商人ギルドであるため、もっとこう歳を取ったおじいさんが務めてるかと思ったが、目の前の男性は四〇代と思われる。
「あ、あなたがギルド長でしたか。私の連れがお騒がせしたようで申し訳ありませんでした」
「ヘルハウンドと妖猫連れてる商人なんて見たら一発で話題殺到のクリエイト商会の若い支店長だと、誰でも分かるさ。あんたらは目立つからな」
「お恥ずかしい限り。でも、二人とも私の大事な仲間なので連れております。ご気分を害されるなら外で待っていてもらいますが」
「別に構わんよ。両種族とも魔王様に認められた魔族の一員だからな」
ギャレットは心配そうに俺を見つめていたハチの頭を撫でて笑う。いかついヤバイおっさんかと思ったけど意外といい人であるような気がする。
「俺の用事だったんだろ? 茶の用意してやるから、まぁ、座ろうか」
ギャレットが近くにあった席を俺に勧めてくる。周りの商人達は俺の立場を理解すると商談をしたそうに周りを囲んでこちらを見ていた。
思った以上にアモイ将軍の威光は強いようだ。これなら、色々と楽に話を進められるかもしれない。席に座るとすぐさま目的の話をギャレットにもちかけていく。
「貴方がギルド長でしたか……。重ね重ねのご無礼失礼致します。ご挨拶が遅れましたが、クリエイト商会のムーラと申します。早速で悪いのですが、正体もバレたということで、このベラジネジョーにもクリエイト商会の支店を設置させてもらいとお願いに参りました」
「できる男は話が完結だな。俺に対して、単刀直入に支店開設の話をぶち込んできたのはお前が初めてだ。普通はビビって話せない奴がほとんどなんだがな」
ギャレットはスキンヘッドの頭をペタペタと手で叩きながら笑っている。けれど、眼までは笑っておらず俺の様子を観察していた。
このおっさんも意外と気が抜けないね。こういう手合いってこっちのミスを突いてくるんだよなぁ。
「いえいえ、私も内心はビクビクでお話しておりますが、本社からは早くベラジネジョーに支店を開設しろと矢の催促でして……お恥ずかしい限りです」
「ふーん。クリエイト商会の本社はかなり南の方だと聞いたが、大陸外になるのか? 南は確か無人地帯だが」
「そうですね。大陸の南の端から船で一週間は航海した先に本店があるので、中々行き来が大変なため、私がフェンチネル支店を設置して産物を輸入しております。おかげさまを持ちまして繁盛させてもらっております」
俺は背中に冷や汗を垂らしながらもそ知らぬ顔でギャレットの質問をかわした。クリエイト商会の本社は俺の作っているルシアパレスの中にあるが、俺が転生ビルダーであることを言う訳にはいかないので、商会の本社は無人地帯の更に向こうの大陸にあると言ってあるのだ。本当にあるかどうかは知らないが、フェンチネルの交易船の船員に聞いた大陸の話をねつ造して使っている。
ちなみにゲームの『クリエイトワールド』では魔王の大陸以外は範囲外として認識できなかったので、俺からしても未知の大陸の存在だと思っている。
「ほぅ。そうなのか。遠方よりこの地を訪れて、商会の支店を立ち上げて成功させる才覚は若そうに見えても凄い物をもっているのだな」
「いえ、色々な方がお手伝いしてくれるだけで、私の力など微力にございます」
「フハハ、辺境の商人どもがそこまでお人好しなものか。ムーラ殿の仕事に金の匂いを嗅ぎつけたのだろうよ。そして、この街の連中もお前に金の匂いを感じているようだぞ」
「ありがたいことです。若輩者にそこまで期待してもらえるとは」
「今はどこも不景気だからな。今回の遠征は久しぶりに稼げるチャンスだと思って奴も多いんだ。なにせ、数十年ぶりの遠征だからな。戦争っていう消費がないとこの国は徐々に衰退していくわけだ」
「そうでしたか、私は平和こそが繁栄をもたらすかと思っていましたが……違うのですね?」
「平和も長く続けば、富が上流階層に溜まっていくのさ。商人はたちはその上流に溜まった富を奪い合ってお互いに血を流して力尽きていくのさ。そんな中で、ムーラ殿がフェンチネルで庶民層に新たな商機を見いだして稼いでいると聞いて、みなが目の色を変えているという訳さ。誰も相手にしてこなかった連中が意外と金を持っていたと気付かされたと言っていいな」
「そうですか? 彼らも消費をしますし、欲しい物があればお金を払ってくれるお客さんですよ。私はより多いお客さんを見つけて商売してるだけですから……」
「そこが凄いってことさ。これ以上は周りの商人たちから金を踏んだくった方がいいな。タダで教えてやることでもないし。ああ、話が逸れたが支店は建ててもらっていいぜ。いい物件を安く見繕ってやるよ」
「設置許可ありがとうございます。ギャレット殿の申される通りですね。営業ノウハウは中々人には喋れないですから」
「ああ、そうだな。困ったことがあればいつでも相談に来いよ」
ギャレットによって支店開設許可を得た俺は、商談をしようとする商人たちの波を掻き分けて建物を後にした。
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