第135話 ベラジネジョーのギルマス
温浴施設の完成後、住民達は温泉の虜となり、誰一人入浴を嫌うこともせずに日々の始まりを朝湯から始め、仕事終わりの風呂を楽しみに仕事により一層身を入れて仕事に励んでくれていた。
そして、年少組も授業後に併設した温水プールで水練を行い楽しみながら体力の向上を果たしていた。一方商売の方もアモイのお墨付きによってフェンチネルだけでなく、王都に近いベラジネショーでも支店を開設することになり、いつものメンバーとクロちゃんを連れて来訪していた。
ベラジネジョーは王都と他の地方を結ぶ幹線道路の集まる中継都市でフェンチネルと比べると数倍の規模を誇る大きな都市となっていた。ここに拠点となる支店を開設すれば、フェンチネルまで来ない交易商人とも知己を得ることができるので、是非とも支店を開設したい土地であった。
「いや、大きい都市ですなぁ。フェンチネルも大きい都市やけど、ベラジネショーは観光するだけでも数日はかかってしまいますわぁ」
正体がバレてはまずいので、クリエイト商会フェンチネル支店長ムーラに化けて旅をしてきたが、ルシアは支店長ムーラの夫人として付き従い、イルファは顔バレしないように顔を隠した格好をして護衛役としてその他諸々のペットズを率いていた。
「ルシア様、食材! 食材見に行きましょうよ。何か甘い物があるかもしれませんよ。私、めちゃくちゃ期待してますからねっ!」
城内に入ったところ、ルリがしきりに尻尾を振ってルシアにまとわりつき、大通りの右手にある食品市場へ引っぱっていこうとしていた。
「ル、ルリちゃん! ここは人目があるがね。そんなにはしゃいだら……。ああ! みんなが見とるが」
ハチがウロウロとしながらルリを制止するか迷っているが、食欲に目のくらんだルリはルシアを引っ張ろうとしている。
「ルリちゃん、旦那様がお仕事されるからそれが終わってからでいいかしら? うちも奥さんとして旦那様のお手伝いしないとあかんからね」
ルシアが使う『旦那様』という言葉が聞こえる度にビクンビクンと身体が反応してしまう。そう、ムーラである時はルシアの婚約者ではなく旦那様になるのだ。この至極の言葉を得たくて旅をしていると言っても過言ではない。
楚々としたドレスに身を包んだルシアは大商人の夫人としての威厳も備え、周りの住民からも視線を集めていた。
ルシアたん、かわいいよ。かわいい。今度、宝石で飾った耳飾りを新調しよう。こんどはアクアマリンとかエメラルド使いたいなぁ。
素材収集の際に手に入れた宝石でルシアをデコレーションしているが、さすがに俺が量を作り過ぎるので、最近では月に一つしかアクセサリー生産をさせてもらえないため、現在構想を練っている最中であった。派手過ぎないようにとルシアに釘を刺されているため、メニューの中からバランスの良さそうなのを選んでいる。
「商談だけだし、市場調査という名目で言ってきてもいいよ。護衛はハチとタマを連れていくけど」
イルファのおっぱいに埋もれて寝ていたタマの首根っこを掴むと引っ張り出しハチの頭の上に置く。
「うにゃあああ。こら、ツクル! 寒いだろうが、ワシを殺す気かニャ! イルファのおっぱいでぬくぬくするのがワシの楽しみニャンだぞ」
「タマちゃん! ツクル様アタシからタマちゃんば取り上げるのは勘弁してくれん。タマちゃーん」
イルファが泣きそうな眼でこちらを見ているが、ルシアが市場に市場調査をしにいくには護衛をしてもらわなければならない任務がある。ここは心を鬼にしておく。
「イルファはルシアの護衛を頼む。調査費はルシアに渡してあるから、色々と買っていいよ。食材もだけど衣服とか雑貨とかも買っていいからね」
ルシアには事前に市場調査をお任せしようと思っており、渡したお金はみんなのお小遣いだとルシアには伝えてある。なので、心おきなくショッピングを楽しんでもらえばいいと思う。
「わかってますわぁ。旦那様。旦那様に似合う服も探してきますね。ウフフ」
「ああ、素敵な服を期待しているよ」
「はーい。お任せしてください~じゃあ、いってきますわ~」
「タマちゃーーん。直ぐ帰るからね」
イルファがピヨちゃんに引き摺られるように連れていかれた。あれでもゴーレム以外で、うちで最強の戦闘能力を竜人族なのだが、どう見てもダメっ娘にしか思えない。俺はルシア達を見送るとハチ達とともに今日の目的地である。商人ギルドのある場所へ向かった。
街の大通りに面した場所にこの街に店を連ねる商人たちが連ねる商人ギルドの建物は壮麗で大きな建物であった。フェンチネルにもあったが港湾ギルドと併設された物であったのでここほどの規模はなかったのだ。
「さて、支店設置許可を貰えるように交渉しないと……」
建物中に入ると、忙しそうに各商会の店員たちが走り回り、室内のテーブルでは交易で持ち込んだ商品を売りさばく人やその護衛でついて来ている鎧を着た傭兵たちの姿も見えていた。
「でっきゃあとこですね。おいら、入って良かったのかや?」
「魔物でも魔王軍のエリートに選抜されるヘルハウンドなら許されるでしょ? 誰も気にしてないようだし。むしろ、タマに熱視線が」
白い猫のタマは完全にペット扱いされているようで、行き交う人々から毛並みを撫でまわされてモフモフされていた。
「むにゃああ! ワシに触るんじゃないニャ! むぎゃああ! 尻尾! 尻尾らめぇええええ」
白い猫は物珍しいようで、傭兵やら商人たちがハチの頭にいたタマに群がっている。撫でまわされている本人はもみくちゃにされて相当、おかんむりだが、それでも人々はタマをもふるのを止めないでいた。いい加減、怒ったのかタマがもごもごと魔術を唱え始めたので、すぐさま首根っこを掴まえて周囲の人から引き離した。
「あぶ、あぶねえぇ! 魔術使うんじゃないよ」
「やつら、消し炭にしてやるニャ! ワシの毛並みはイルファのためにあるんニャ!! 放せー!! むぐううう」
「馬鹿、ここで魔術をぶっ放したら出入り禁止になるから!」
「おい、騒ぐなら外でやってくれるか」
タマと二人でギャーギャーとしていたら、スキンヘッドに剃り上げたいかつい男がのしのしと俺達の方へ向けて歩いて来ていた。
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