第63話 肉狩り


 しばらく進むと、ルリが魔物達を監視するように木立に隠れて様子を窺っているのが見えてきた。ルリの目線の先には、白い毛皮が対氷属性を上昇させる『雪兎』、尖った固い角がクリティカルすると危ない『鋭角鹿』、氷属性の魔術攻撃をしてくる『氷山羊』がそれぞれ数体ずつ群れを成して雪原の下に埋まっている草を食んでいた。


 ルリに合流すると、皆で作戦会議を始める。


「とりあえず、一番厄介な魔術遠距離攻撃をしてくる『氷山羊』を一番最初に仕留める。あれは、火属性に弱いはずだからタマの【火球】、ルシアの【火の矢】で集中的に狙ってくれ」


「ワシを扱き使うつもりか。魔力はあまりないから期待するなよ」


「イルファさん、荒事の時はタマちゃんはうちと一緒におった方がええね。お預かりしとくわ」


「そうやなあ。タマちゃん、お母しゃんなちょっと荒事で大立ち回りしてくるけん、ルシア様の近くで大人しゅうしとってな」


 イルファが胸元からひょいとタマの首根っこを掴むと、ルシアの膝の上に置いていく。


「ではイルファとルリは『鋭角鹿』を俺と一緒に狩るぞ。角先だけは気を付けるように。鎧の隙間に入ると大惨事だからな」


「任されたばい」


「はい」


「おいらは何する?」


「ハチは『雪兎』を頼む。アレは氷魔術が通じないし、動きが素早い。けど、防御力は低いからハチの爪で十分に対抗できるから任せるぞ」


「お任せだぎゃー」


「よし、割り振りが決まった所で狩猟を始めようか」


 俺は鉄の弓に持ち替えると矢を番え、一番先頭にいる『鋭角鹿』に狙いを定めた。そして、矢を放つと先頭の『鋭角鹿』の眉間に突き立つ。しかし、絶命までは至らずに辛うじて立っていた『鋭角鹿』をイルファの槍が貫いて絶命させる。


 こちらの存在に気付いた魔物達が次々に戦闘態勢に入っていく。『氷山羊』がメェメェと鳴くと氷の粒が大量に生成されていく。氷属性の攻撃魔術である『氷散弾アイスショット』の魔術だ。だが、発動する前にタマの放った火球の爆風で吹き飛ばされ、ルシアの炎の矢でトドメを刺される。


 その間にイルファやルリが『鋭角鹿』の群れに雪崩れ込んで乱戦に持ち込む、戦闘態勢に入った『鋭角鹿』は前脚で地面を抉ると鼻息荒く、尖った角をこちらに向けて突き出してきた。


 ビュッ!


 尖った角先がイルファの脇腹の横を掠める。だが、イルファは怯むことなく、手にした槍を『鋭角鹿』の脇腹に槍を突き込んで動きを鈍らせる。


 動きの鈍った『鋭角鹿』の額に向けて番えた矢を放つ。放たれた矢が額を貫くと、ドサリと地面に倒れ伏した。


 ルリも鉄鎖を勢いよく『鋭角鹿』の足に絡めると、動きの鈍った『鋭角鹿』へ氷槍を発動させて身体を貫いていく。その間にも、タマとルシア達の魔術が『氷山羊』達を焼き殺していた。


 ハチも逃げだそうとしていた『雪兎』の前に立ちはだかると、長く伸びた鉄の爪でウサギ達を切り裂いていった。


 しばらく戦闘は続いたが、修練のダンジョンをクリアしたことで皆の戦闘力は向上していた。序盤の強敵が多い、大雪原でも余裕の完封勝利だった。


「ふぅうう。よしよし。戦利品を集めるとしよう」


 群れを掃討したことで、地面にドロップした素材を集めていく。手にした戦利品は【山羊の毛皮】、【山羊乳】、【氷結晶】、【山羊肉】、【鋭利な鹿の角】、【鹿の毛皮】、【鹿の肉】、【ウサギ肉】、【白い毛皮】を回収することに成功していた。


「肉! 肉! 肉だがやー!」


「今日もお肉パーティーかな。ハチちゃん! あたし、よだれが止まらないよぅ」


「タマちゃんには、お母しゃんが噛み噛みして柔らこうしたお肉ばあげるけんねー」


 ルシアからタマを所定位置に戻したイルファが嫌がるタマに対して、とても羨ましい提案をしているのが耳に入ってきた。


 ファッ! 俺もルシアたんに噛み噛みして柔らかくしたお肉が食べてぇ!! あっ!? イヤ!? 嘘です。全国一千九百万人のルシアたんファンのみんな。別にやましい気持ちは全くない。こら、そこ狙撃銃なんて持ち出さない。ゴツイ眉の凄腕のスナイパーは反則だわ! 何? この前、ルシアたんとチューまでしやがった。ああ、それは滅茶苦茶美味かった。ひゃあ!? レーザーサイトで額を狙うな。話せばわかる。俺を殺すとルシアたんの混浴シーンや寝起きのエッチな姿が見えなくなるぞ! それでいいのか? よし、物分かりのいい子達は好きだぞ。大人しくしておけば、いい目を見させてやるさ。


「ワシがなんでお前の喰った肉を喰わねばならんのだっ! 子ども扱いするな。ちゃんと肉くらいは喰える」


「いかんばい。ほらまだ歯がちゃんと生え揃うとらんけん、柔らこうした物やなかと噛み切れんばい」


 超ねこ好きのイルファは、すっかりとタマの保護者のように振る舞い、タマの口を開いて歯を確認していた。


「イルファはんもすっかり、お母さんやね~。タマちゃんも小さい猫さんやで、ちゃんと面倒みとかへんと危ないからなぁ」


 すっかりとイルファの玩具にされているタマに心の中で手を合わせておく。おっぱいの間に挟まるのは、できれば行いたいが、それ以外は恥ずかしいのでご遠慮したい案件が並んでいる。


 この分だと、風呂や寝るのも一緒だろうな……タマよ。お前の人生オワタ。イルファの玩具として余生を過ごしやがれ。


「まぁ、仕方ない。それよりもそろそろ帰り支度をしないと日暮れまでに屋敷に帰り着けなくなる」


「みなはん~早う、お屋敷に帰って夕飯にしますよぉ~」


 ルシアの号令が出されると、皆が全速で帰り支度を始めた。こうして、大雪原への遠征は成功し、新たな素材と食材を得て屋敷に帰還することになった。

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