第133話 入浴作法

 完成した温浴施設では住民達を集めての入浴作法説明会が開催されていた。施設に集められた住民達は俺が作った温泉を見ては感嘆の声を上げて辺りをキョロキョロと見回している。


 クリエイトワールドでは入浴の習慣は一般的ではなくある程度裕福な人達が行うことで、普通は水で沐浴か清拭で済ますのが一般的らしい。なので、俺が作った旧浴場も利用していたのは俺やルシア、それにイルファやタマ、ルリハチくらいだけであった。


「今日集まってもらったのは、今日からこの温浴施設を皆に無料開放するに当たっての入浴作法の講習をしようと思うのだ」


 バーニィーを始めとしたルシアパレスの住人達からは一斉に驚きの声が上がる。どうも、今回作った温浴施設は俺達だけが入る施設だと思っていたようで、俺の言葉に住民達がどよめいていた。


「ツクル様、我々もこの施設を利用してよろしいのですか? このようにお湯をふんだんに使っている入浴施設など村では作れなかったし、どんな都市にもそんな場所等ありませんよ」

「そうかい? でも、みんなしっかりと働いてくれているし、これくらい簡単に作れちゃうから遠慮する必要もないし、それに身綺麗にしておいた方が病気も蔓延しないで済むからね。都市を預かる者としては入浴の推進をしたいのだよ」


 兎が二足歩行している兎人族であるバーニィーがお風呂に入るとモフ毛が水にぬれて身体がスリムになりそうな気がする。それ以外にも有翼族などもいるが大概は人族の住民達であるため、トラブルもそんなに起きないと思われる。


「それにしても入浴など……できるとは思えませんでしたな」

「だが、入浴にも作法があるのだ。この施設を自由に使ってもらってもいいが、その作法だけは順守してもらえると、皆が気持ち良く風呂を楽しめる」

「ほほぅ、作法ですか」


 作法の話になったので、自ら来ていた服を脱いで海パン一丁になると、浴槽の前に移動する。住民達の目は一斉に俺に注がれていく。


「まず、基本はお湯を汚さない。かけ流しにしているけど、汚れたままで湯に入るのはやめておいて欲しい。皆が使うお湯なんで大事に使おう。だから、掛け湯で身体を温めて洗い場で身体を先に洗って綺麗にするんだ」


 説明も兼ねて、木桶で浴槽から湯をすくうと身体にかけて軽く流すと、洗い場に移動して持参したタオルで備え付けの石鹸を泡立てて身体を洗い始める。


「石鹸は備え付けにしておくからみんなちゃんと使ってよ。ルシアが調合したハーブ石鹸なんですごいいい香りするからさ」


 温浴施設の完成前にルシアに頼んでハーブ調合してもらい、ビルダー能力で生成した石鹸と調合しハーブ石鹸に作り変えていた。これは『雑貨屋プロスペリッティー』でも売れ筋の看板商品になると思うので、住民達に使用してもらって改善し、商品化を進めていくつもりである。


 身体と頭を洗い終え、蛇口から湯を木桶に湯を出すと石鹸の泡を流し終えるとタオルを綺麗に濯いでおいた。そして、浴槽の方へ再び近寄る。


「タオルは湯に付けちゃダメだからね。混浴の方は入浴着が必要だからそっちは巻いてもらうけど、男湯、女湯は基本裸で入るからね」


 独身の住民達からは安堵の息が漏れ出した。人前で肌を見せるのは禁忌ではないものの、意外と抵抗があるようだが、彼らもこのお風呂の魔力に囚われてしまえばこの施設の素晴らしさを骨の髄から身に染みるであろう。


「なるほど、湯を汚さないための作法ですな。これなら、皆守れると思いますので、ツクル様のお作り頂いたこの施設を早速解放していきたいと思いますぞ」


 バーニィーがウムと頷くと住民達もワイワイと風呂について話し始めた。そして、しばらくすると住民達は男女に分かれて入浴をしたいと言い出し、そのままお風呂タイムに突入することになった。


 男湯の仕切りはバーニィーに任せ、女湯はイルファとタマ、そして混浴は俺とルシアとピヨちゃん、それにルリとハチで住民達に入浴作法を教えることにした。


「ツクル様、おいらの身体を洗ってくれるのは嬉しいんですけどちょっと痛いがね」


 いつもはルリによって身体を洗ってもらっていたが、混浴を作る際にピヨちゃんから洗い場に仕切りを付けるように物言いが付き、混浴なのは浴槽だけになっているのだ。なので、目下の所、ルシアたんの身体を洗うことは叶わずに黙々とハチの身体を磨き上げている。


「しっかりと綺麗にしないとな……ははは」


 仕切りを作っていた時は自分も適応されるとは思っておらず、ルシアとイチャイチャしてお風呂に入れると喜んでいたが、気が付けばピヨちゃんの眼が厳しいため、男子で共に身体を洗うことになっていた。ちなみに俺の身体を洗ってくれているのはバーニィーの息子であるミックである。


「ツクルおじさん。こんなお風呂に入るのなんて初めてだよ。すごいよねこれ全部お湯なんだもんね。村にいた時は水ですら貴重品だったのにここは流しっぱなしなんもん」

「ミック、おじさんじゃないぞ。お兄さんだ。言い直しを求めるぞ」

「あ、ごめん。ツクルお兄さん。それにしてもみんなで入ると楽しいね。僕もハチの身体を洗ってあげたい」


 モフ毛の兎人族であるミックはお湯に濡れて身体の厚みが半分程度にまで縮んでいた。モフ毛にくるまれている兎人族は歩くモフモフ人形であると確信していた。彼が俺がいた日本でいたら、危ないお姉さんによって拉致されてモフモフされてしまうことは間違いない。


 ショタ好きを刺激する上にモフモフだなんて凶悪なコンボ発動で堕ちる人大量発生しそうだ。


 濡れウサギになったミックの姿に笑いが漏れ出てきてしまう。


「それにしてもミックは濡れると乾かすのが大変そうだな。風邪引かないようにしないと」

「おいらも毛を乾かすのに時間かかるから、ツクル様になんか乾かす物を作って欲しいと思ってるんだけど?」


 ハチも毛が長いので、乾かすのに時間がかかりそうだ。暖炉設置してあげて乾燥できる場所を作った方がいいかな。さすがにドライヤーは作業台メニューにないだろうからなぁ。


 毛の長い種族達が風邪を引く可能性も視野に入れて、乾燥できる場所を作る必要がありそうだ。


「何か作業台で乾燥できそうなものを見繕っておくよ。そうだな。俺としたことが見落していた」


 乾燥機の必要性を認識した所でミックとハチの身体も綺麗になり、混浴ゾーンで着用を義務付けられている入浴着を着ると、俺達は浴槽に移動することにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る