第103話 戦闘能力

 一人先頭に躍り出たピヨちゃんが戦う相手を探していると、殺戮蟻キラーアントの大群がワラワラと数百体現れてきた。体長一メートルクラスの蟻だが、集団で襲いかかって来られると、あっという間に強靭な顎で身体を喰い尽くされてしまう獰猛な魔物であった。


「ピヨちゃん、援護しようか?」


 ピヨ、ピイヨ。


 どうやら、援護は要らないようだ。LV的にはピヨちゃんが遅れを取る相手ではないので、回復用のアイテムを握りしめて、子供の勇姿を見守る親の役目を果たすとしよう。


「ピヨちゃーん。頑張ってなぁ。うちが応援しているから大丈夫!」


 片羽根をあげて応えたピヨちゃんが、群がり来る殺戮蟻キラーアントの大群の前に進み出ていった。そして、大きく息を吸い込んだかと思うと、白い息を口から一気に吐き出して辺りに白い靄が立ち込めた。すると、一斉に進んできていた殺戮蟻キラーアント達の中で一部が動きを止めていた。そう、コカトリスの最大の武器である石化ブレスが解き放たれたのであった。


 何度も魔王城攻略の際に、あの石化ブレスで苦汁を飲まされたことか。その石化ブレスが殺戮蟻キラーアント達に猛威を振るっていく。足を石化された殺戮蟻キラーアントが動けずに更に石化のスピードを速めていく。けれど、一部の殺戮蟻キラーアントは石化をせずにピヨちゃんへ近寄っていた。だが、ピヨちゃんはそんな殺戮蟻キラーアント達にお尻を向けると、尻尾の大蛇が今度は黒い猛毒ブレスを吐き出して辺りに拡散していった。毒の霧を吸った殺戮蟻キラーアントは地面に倒れ込むと脚をバタバタと動かしていたが、やがて動かさなくなり、白煙とともに素材に変化していた。


 最近、特に尻尾の大蛇が成長しているので、ベッド寝ていて油断すると頭を甘噛みされることがあるのだ。それが、たまに牙が刺さって流血の惨事を引き起こすのだが、ルシアとピヨちゃんに謝られると厳しくは言えない立場に追いやられているので、放置していた。けれど、尻尾の大蛇もやる時はやってくれたようで、猛毒のブレスで数十体の殺戮蟻キラーアントを屠っていた。


 ピヨ、ピピピヨ。ピピ。


 ピヨちゃんが、半数ほどに減った殺戮蟻キラーアントに向き直ると、どう見ての飛べないと思われる羽根で、羽ばたいて跳躍すると残っている殺戮蟻キラーアント前に降り立つと、くちばしを振り下ろして手前にいた一体の頭を砕いて絶命させていた。


 恐ろしいほどの破壊力を見せやがる。あんなくちばしで額を打ち抜かれて生き延びているオレの頭蓋骨はかなり丈夫にできているようだ。


 目の前で、恐ろしいほど、正確に群がってくる殺戮蟻キラーアントの頭部を貫く様子を見て、何度もあの痛撃に耐えてきた額にそっと手を当てていた。その間もピヨちゃん無双は続いており、数百体はいたと思われる殺戮蟻キラーアントが瞬く間に殲滅されていった。そして、動くものがなくなった平原には【殺戮蟻の牙】、【蟻の脚】、【複眼】が大量に散乱していた。


「さすがピヨちゃんだ。あれだけの殺戮蟻キラーアントを一人で葬るとは……それも、ひよこの姿のままであの戦闘力と考えると、大人になった時はどうなることやら」


 散乱した素材を回収しながら圧倒的な強さを見せたピヨちゃん近づいていくと、前方に見えた密林の中から黒い毛を纏った体高一〇メートルはある巨大な獅子が躍り出てきた。飛び出した黒い獅子はこの百獣平原での主と言われる存在であり、魔物LVも高いボス級の魔物であった。


「目的の黒獅子ブラックライオンが来た! 全員、戦闘準備! 後衛はルリとルシア、ハチ、イルファ、タマはピヨちゃんの援護! さぁ、戦う前に俺謹製の能力向上ポーション飲んでくれ」


 ピヨちゃんの救援に向かう前にハチやイルファ達に能力を向上させるポーションを飲ませていく。ビルダーである俺は戦闘員としては能力的に微妙になり始めており、回復アイテムや弱体化アイテムを使用して援護する方に回ることにした。


 前衛は我が家の四天王の内の三人に任せておけば、盤石なのである。


 飛び出してきた黒獅子ブラックライオンは口を大きく開くと、炎の息をまき散らしてきた。前衛の三人は巧みに避けたが、炎はこちらまで飛んできており、ルシアを守るために盾をかざして身構える。熱波が頬を伝っていったが、幸い炎は完全に盾で防ぎきれていた。その間にもタマの放った【大火球】が黒獅子ブラックライオンの頭を直撃し、仰け反らせるのに成功すると、ハチが跳躍して首筋を爪で切り裂いていく。ピヨちゃんは回り込んで黒獅子ブラックライオンの前脚を砕くためにくちばしを思いっきり振り下ろしていった。


 グアアアアアァァ。


 黒獅子ブラックライオンは痛みに顔を歪ませながらも、鋭利な爪でイルファを引き裂こうと前脚を振り抜いた。だが、イルファの槍先が光を帯びて一閃すると黒獅子ブラックライオンの鋭利な爪がポトポトと地面に落ちていった。


 俺も援護するべく、盾を真銀の弓に持ちかえて、再び炎を吐き出そうとしている黒獅子ブラックライオンの口を狙って矢を放つ。放った矢は見事に喉を奥を刺し貫いていった。


 ガァアアアア。


 一方的な攻撃に曝された黒獅子ブラックライオンがバランスを崩して転倒する。そして、身を躱すことができなくなった黒獅子ブラックライオンはハチとイルファとピヨちゃんの集中攻撃によって、なすすべなく絶命させられて白煙とかしていった。


 それにしても、このボスも意外と強かったはずなのだが、今の俺達が強すぎるのか、ほとんどノーダメージだったな。こりゃあ、次の修練のダンジョンに向っても大丈夫だろうか……。


 百獣平原の主を軽々と退治したことで、世界を崩壊から救うために必要なメンテナンス権が収められたダンジョンへ行くことも視野に入れることにしておいた。

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