第104話 登り窯

 狩猟を終えて、転移ゲートで屋敷に帰ると農作業を終えたバニィーが俺に新たな要望があると切り出してきていた。すでにルシア達は夕食の準備に取りかかるために屋敷の方に歩き出している。


「なんか、作って欲しい物ができたの?」

「え、ええ。欲しいというか、思い付いた物をクリエイト商会の販売物にしてもらえればと思いましてね。需要は確実にあると思いますし、廉価、高品質なら飛ぶように売れますよ。きっと」

「ほほぅ、そんな物があるのか?」


 クリエイト商会の販売物にラインナップできて、需要が確実にあるものとは……。いったいなんだろうか……。


「ええ、そろそろ、このお屋敷に登り窯を設置してもらって、陶器類を自作する時期が来たのかと思ってます。飲食店で使っている木製の食器もいいですが、より上質感の増す陶器の食器を廉価、高品質で売り出せれば、需要を掴むことができると思うのですよ。普通では登り窯作成に膨大なコストがかかり、その分が価格に転嫁されて高価になってしまいますが、ツクル様の力で登り窯さえ作って頂ければ、後はまた新たな住人を募って陶器の量産を始めれば十分に採算が取れるはずなので」


 バニィーが垂れ耳をピクピクと動かしながら、登り窯設置を要望してきた。すでに屋敷の執事のような立場を越え、村長みたいな立場になっているバニィーであるが、人柄の良さと厳しく困難な生活を耐え抜いてきた忍耐力で住民からの受けは良く、彼の言うことには職人達も一目を置いているのだ。


 けど、出会った時にはゲッソリと痩せていたバニィーであったが、彼もまたルシアの食事の美味しさの虜になった被害者で肉体労働をしているはずなのに、貫禄のある身体つきに変化してきていた。


「陶器類か……。登り窯の製作ね。よし、狩猟でもあんまり動かなかったから食前の運動がてらにちょっと作ってみるよ。場所は作業工房の裏に作ればいいかな?」

「ん~そうですね。もう少し離してもらえますか。どうしても煤が飛ぶんでなるべく離れた場所がいいですね。後は工房も併設してもらえるとありがたいです」

「了解。じゃあ、畑の奥にある空き地に作ることにするわ。待っていてね」

「はい、急いではいませんので、完成しましたら声を掛けてください」


 バニィーは一礼すると、収穫物を持って先に屋敷に戻っていった。残った俺は登り窯の建設予定地である空き地に向って歩き出した。しばらく歩くと、予定地の空き地に到着する。整地はしてあるものの、草が蔓延っていたので、鎌を取り出し雑草を一掃していく。ものの数分で空き地の雑草はすべて刈り取られた。


「さて、草刈りは終えたな。登り窯は四段積みくらいで作ろうか……。でも大量生産するよなぁ……倍の八段積みで高さ八メートルの登り窯にするか」


 俺は登り窯の土台となる傾斜を作るために、空地へ土ブロックを積み重ねていく。幅三メートルで奥行き三十二メートル、高さ八メートル分のブロックを積み上げる。そして、レンガブロックで窯の形状を整えて焚き口を付けた燃焼室を作ると、その下にしっかりと空気が送り込まれるように空気穴を開ける。そして焼成室となる一番窯を隣に積み上げて、分焔口をつくったり、取り出し口を作ったり、色見孔を開けたりして八番窯まで作り上げていった。そして、最後のスペースに煙が出ていく煙道と煤煙突を設置して登り窯を完成させた。


 うむ、我ながら良い出来栄えだな。あとは両サイドを水捌け良くするために石畳に変えて、雨避けの屋根を取りつければ窯は完成するな。


 早速、持ち歩いている作業台を近くに据え付けると、作業台メニューから【石畳】を探して選択する。


 【石畳】……石を用いた舗装材。ぬかるみの発生を抑える 消費素材 石材:1


 ボフッ! いずれまた使用することもあると思うので、多めに生成をしておいた。そして、焼き窯の周囲を石畳で覆うとともに、作品の運搬が用意にできるよう、スロープ状に盛り土も同時に行っていった。


 ついでに雨避けのための屋根も作る。


 【木製屋根】……木製の屋根 消費素材 木材:2


 ボフッ! これも住宅建設に転用できると思うので、多めに作成をしておいた。すでに石材や木材などの消耗品は鉄人形隊が周囲のパトロールがてら、木や石を集めてきてくれているので素材が欠乏する事は無くなっていた。


 生成した屋根を登り窯の上に据え付けて左右を柱で固定していく。これで雨が降っても登り窯本体が濡れることが無くなり、窯自体の寿命も延びるであろう。


 完成した登り窯を見つめると、出来栄えに思わず魅入ってしまった。ここまでに掛かった時間は一時間程度である。普通に製作すれば多くの人を使っても一週間以上はかかる作業が一時間で終わるビルダーの能力は、ハッキリ言ってデタラメであった。


「さって、残りの工房もサッと作るか。必要なのは、ろくろと成型用のヘラやコテ、釉薬壺と作業台くらいか」


 作業台メニューから陶芸制作に必要と思われる道具を選んでいく。交易用品としてゲーム珍重される陶磁器などは職人達が来ないとどうやって作るのか、分からないので、一般的な陶芸に必要と思われる道具を揃えていく。


 ボフッ! ろくろを始めとした陶器作成に必要と思われる道具が一気に完成した。さして、レアな素材を消費するわけではないので、簡単に作成できていた。


 道具を作り終えると、作業場として五〇畳ほどの石造りの小屋を一気に積み上げて窓や成型した皿や壺を乾燥させる乾燥室を作っていく。そして、完成した工房に道具を設置すれば完成だった。


「さすが、俺だ」


 完成した陶芸工房と登り窯の出来映えに一人で納得して眺めていると、後ろから声が掛かった。


「さすが、ツクル様ですね。このように立派な登り窯と工房がこんな短期間で出来るとは……これは早急に陶器職人を雇わねばなりませんなぁ。この規模だと一〇人は必要になってくる」


 声の主はバニィーだった。短時間で完成した登り窯と工房を見て感心したような顔をしている。


「実は私がツクル様に登り窯製作を頼んだのには、裏がありましてね。フェンチネルの陶器工房が住民からの苦情で移転先を探しているそうだとクライット氏から打診を受けてましてね。これは思った以上に早く、職人達をこちらへ呼べるかもしれないなぁ。また、住居スペースがいりますよ」


 バニィーも中々に辣腕家である。俺の能力を見越して色々な建物を作らせてこの屋敷を村から街レベルまでに人を増やそうと働いていた。そろそろ、集合住宅を建ててやった方がいいのかもしれないなぁ


「なるほどね。その陶器工房をクリエイト商会が工房職人ごと買収すればいいかい?」

「ですね。段取りはすでに先方と進めてあります。あとはツクル様の決済と登り窯工房の完成待ちだけです」


 バニィーめ、すでに段取りを進めるとは有能な奴め。特に拒否をする理由もないので、職人側がこちらに移住する条件さえ呑んでもらえば、取引は成立するはずである。


「決裁資料はできているよね。明日にでも先方と会って話を進めよう。善は急げだ!」

「さすがツクル様です」


 俺は登り窯工房を完成させると、バニィーと連れ立って屋敷に戻り、ルシアの手料理に舌鼓を打って一日を終えた。

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