第43話 トラップマスター
朝食後、ルリとハチ達は恒例の日向ぼっこをすると言って庭に出ていた。ピヨちゃんも朝の食事を終えて食事の後片付けをしたルシアと共に沐浴場で身体を綺麗にしてもらっている。今、覗くと、もれなくピヨちゃんの会心の一撃により額に風穴を開けられることは確実だった。
……いつかきっとピヨちゃんとも混浴してやる。フワモコ生物をワシャワシャと泡立てて綺麗にしてやるんだ。
意外と俺に手厳しいピヨちゃんを、ハンドマッサージで蕩けさせてやる野望も新たにこの転生生活の目標に加えることにした。
その前にマイスウィートホームを魔物の手から守る対策のバージョンアップをせねばならなかった。防壁までくると、土ブロックによって盛られただけの土塁を木槌で撤去していく。
実に簡単な作業だ。豆腐を潰すように木槌が当たる度に白煙が上がり、素材化した土ブロックがポンポンと地面に生成させていく。ブルドーザーよりも早く、土の防壁は削り取られていき数分で真っ平な更地に変化していた。
更地になった場所を更に五メートルほど掘り、そこを基礎部として作り始め、万が一、敵が水堀に穴を開けても侵入できないように対策を取った。
防壁の建材となる【鉄筋コンクリート】は大量に製造してあるので、五メートルの地下基礎+一〇メートルの高さを持たせて土塁で囲っていた範囲を【鉄筋コンクリート】製の防壁に積み替えていく。
積み上げられた【鉄筋コンクリート】はすぐに継ぎ目を無くし、中の鉄筋部分も上部ブロックと合体するようで、厚さは一メートルしかないが、この辺りの雑魚魔物ではヒビ一つも入れられない強度になっている。
「ふぅ、高さも一〇メートルあると立派に見えるなぁ。防壁は第二次強靭化計画も考えておかないとね。対衝撃と対魔術対策も素材が集まったら施すことにしよう。防壁は我が家を守る生命線だから素材を惜しんだらダメだ」
完成した【鉄筋コンクリート】製の城壁に足りない物を思い付いたので、急いで作業スペースに帰り、作業台で制作することにした。
「肝心の【松明】と【かがり火】、それに【鉄の門】を制作するのを忘れていた」
忘れていた物を作業台のメニューから選んで生成する。
【松明】……手で持てるようにした火のついた木切れ。壁にも掛けられる。 消費素材 棒:1 油脂:1
【かがり火】……割り木にして鉄製の籠に入れ火をつけるもの。松明より広範囲を照らせる 消費素材 木材:1 油脂:2 鉄のインゴット:2
【鉄の門】……家の外囲いに設ける鉄製の出入り口 耐久値500 消費素材 鉄のインゴット:20 木材:10 銅のインゴット:10
ボフッ! ボフッ! ボフッ!
>ビルダーランクがアップしました。
ランク:新人→半人前
作成可能レシピ数:70→150
>素材保管箱の収納数が増えました (半人前)
収納スペース 20→50
生成を終えたところでメッセージがポップアップされて、ビルダーランクが上昇したことを知る。このビルダーランクはLVによるランクアップもあるが、レシピ生成回数によってもランクアップするため、先程の三つを生成したところで規定数を越えた模様だ。
これにより大幅に作成可能なアイテムが増えていた。
おおぉ、ランクアップか。これでまた選択の幅が拡がるな。主にルシアたんの可愛らしい服の幅だが。
思いかけずランクアップしたことで、ルンルン気分のまま防壁作りに戻ることにした。
防壁作りの現場に戻ると、高さ五メートルほどある【鉄の門】をはめ込み、門の入り口に【かがり火】を設置すると防壁内外に【松明】を壁掛けにして取り付けていく。これで、夜に魔物が近づいてきても相手を視認できるようになり、攻撃がしやすくなった。
「よし、これで防壁は完成。さて、お次はトラップ設置に取りかかるとするか」
念願のトラップ設置に思わず笑みがこぼれ落ちてしまう。早速、トラップ設置候補地の水堀の前にやってきていた。現状の素材と道具では初歩的なトラップしか仕掛けられないが設置の仕方を工夫すれば、大きな戦果をあげられるはずである。
まずは水堀の前に深さ一五メートル程度の穴を何個か掘り、底に竹の先を尖らせた【竹槍】を何本も植えておく、そして土の壁には【油脂】を垂らしておいて滑って登れないようするのを忘れずに行っておいた。そういった落とし穴を水掘り前に何十個も作り、偽装のために棒で組んだ格子の上に干し草と土を被せ、ロープで落とし穴設置範囲を囲って自生していた花を植えておいた。
落とし穴を設置した場所を花畑にした理由には二つの意図があり、一つはルシアが罠の範囲内に立ち入らないようにするための方策であり、もう一つは攻め込んでくる魔物達の心理を逆手に取った偽装としてだった。
まず、ルシアが誤って罠に落ちないようにするため、素材収集中に花を避けて歩いていたことを思い出し、花畑にすれば彼女が勝手に立ち入らないようになると気づいた。そのため、水やり不要な繁殖力の高い花を植えておいたので、ノーメンテナンスで維持ができるのも魅力的だ。後はルシアに勝手に花を摘まないように言っておけば、事故は起こらずに済む。同じようにルリやハチ、それにピヨちゃんも花畑を危険エリアだと知らせておけば、愚かではない彼らが近づくことも避けられた。
そして、攻め込んできた敵からしてみれば、ただの花畑に落とし穴が仕掛けてあるとは思わずに水堀を越えるために侵入する可能性が高い。敵の意表を突くのがトラップの基本だ。
「ククク、死のお花畑の完成だ。綺麗な花を足蹴にする奴は地獄に堕ちてしまえばいい。クハハッハハっ!」
ニマニマと半笑いで次のトラップを設置していく。花畑から五メートルほど離れた場所に、胸くらいの高さで自生していた低木樹を花畑の周りを取り囲む生け垣のように植えていく。そうしてできた生け垣の一部に、【感圧板】を設置して踏むとストッパーが外れ、先を尖らせた【鉄筋】が生け垣から押し出される装置を作ってやる。これも、ルシアが誤って踏まないようにスイッチとなる【感圧板】の上には花を植えて目印としておいた。魔物がご丁寧に花を避けて歩くとは思えず、ショートカットしようと生け垣に近づくとドブシュとどてっ腹に風穴があく寸法になっている。
「貫く生け垣の完成だ。フフフ、我が家に近づく魔物は臓物を晒して骸を晒すのだ。ファ、ハハハッ!」
更にトラップを充実させるべく、トラップに引っ掛かった者達が慌てて逃げるであろうと思われる林方面に罠を仕掛けることにしておいた。
大木の根元にロープで輪をつくり、錘と繋がったロープ等により脚などを自動的に縛りあげ逆さ吊りにしてしまう罠である【括り縄】を大量に設置していく。木々の間に設置した炭で黒くした細い糸が千切れるとロープが締まり、錘が落下して罠にかかった者を吊りあげるように作動する。これにより、罠にかかった者は逆さ吊りにされて身動きが取れずに絶命するであろうと思われた。
「苦しみの林の完成だ。ククク、ここで逆さ吊りにされてジワジワと死の恐怖を味わうがよい。ファ、ファ、ハハアハHAHAHA!!」
林に括り縄の設置を終えると作業スペースに戻り、最後の罠である【虎ばさみ】を大量に生成していく。
【虎ばさみ】……門型の金属板が合わさり、脚を強く挟み込む罠 消費素材 鉄のインゴット:1
ボフッ!
連続生成された【虎ばさみ】をインベントリにしまうと、生け垣の外側にランダムに設置してく。見えないように偽装した罠の上にはお決まりのように花を植えて目印にしておいた。
「クハハハッ!! 虎口の草原の完成だ。足を食い千切られてのたうち回るがよいっ! ファ、ファァHAHAHAっ!!」
こうして、水堀から五〇メートルの間には四段重ねのトラップが仕込まれていき、敵を虐殺するトラップゾーンが形成されていた。あとはルシアが危険領域に入らないようにハチ達とピヨちゃんに罠の位置を教えておけば完璧だ。
ルシアにはトラップを設置したことを隠しておくことにした。一応の備えであるため、ルシアに不安を抱かせるつもりは毛頭なかった。家の外に出る場合は常にピヨちゃんに騎乗してもらう約束を取り付ければ、ルシアがトラップの餌食になることはないだろう。
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