第129話 巨人の大槌
都市の名前も決まったことで、俺はルシアが夕食を作るまでの間に修練のダンジョンで手に入れた素材やアモイからの依頼の品である巨人の大槌を作るため屋敷の外に新設されている作業工房に足を運んだ。
工房の中ではフェンチネルから移り住んだ職人達がそれぞれ自分の得意な物を生産して倉庫として作った工房裏の大きな建物の中に完成品を収めていく。ルシアパレスで生産されるものは武具・農具・陶器・磁器・農産品・織物・衣服・鋼材・木材など多岐に渡り、交易都市フェンチネルに集積される各地からの物資を買い込み、転移ゲートを使ってルシアパレスで加工し付加価値を付けてフェンチネルにて売るという商売の販路が完成しており、商会の財政も安定している。
ここで、魔王遠征軍のアモイに取り入っておけば、遠征軍の糧秣の補給先である大都市ベラジネショーまでの通行権や該当都市でのクリエイト商会の支店設立に尽力もしてもらえると思える。かの地に支店を建てられれば魔王の住む魔王城の詳細な情報も流れてくると思うので是非ともアモイには骨折りをして欲しい所であった。
「フェイさん、済まないけど、金床を貸してもらうね。すぐに済むからさ」
「おおぉ、これはツクル様……。これは失礼しました。どうぞお使いください。それにしてもここの設備ならいくらでも良質な武具や農具が作り出せますなぁ。資源も潤沢に入手できる上に設備も一級品が並んでおって、村の鍛冶屋とは比べ物にならない規模ですわ。それに衣食住まで保証されて、欲しい物は商会が手に入れてくれるので、移動の不自由さを感じることもない。ワシも息子夫婦を連れて移住して良かったと思うぞ。孫なんか字まで書けるようになった。きっとあの子は偉い役人になれるだろうと思っておる。これもひとえにツクル様とルシア様のおかげですな」
剣を打っていた鍛冶職人はフェンチネル周辺の村で鍛冶屋をしていた人族の壮年フェイだが、俺が行商に回った村で見つけた人物であった。腕のいい鍛冶職人だが、仕事のこだわりが強く村では色々と問題ありの人物として爪弾きされていた一家であった。けれど、彼等の腕は確かであり、生産した剣が【良質な鉄剣】と表示される腕の持ち主であり、すぐさま支度金と最高設備による生産場所を提供を確約してこのルシアパレスに移り住んでもらっていた。
「フェイさんの作る武具はフェンチネルで大人気でね。それに最近では遠征軍としてフェンチネルに駐屯している魔王軍の士官からも引き合いが出ているから忙しいでしょう」
「はぁ、ツクル様なら余裕でしょうが、確かに私達の能力では月一〇〇本の注文は下働きの者を含めてもギリギリのラインでしょうな。そろそろ、鍛冶場も人員を増やしたいと思っておりますが中々移住してくれる者がおらぬとバーニィー殿が嘆いておりましたぞ」
フェイが言う通り商会の規模が拡大するとともに生産に必要な人員も飛躍的に伸びており、すでに農畜産部門ではフェンチネルに居場所を見つけることを諦めた難民達を採用して増員に当てているが、技術職である鍛冶職人や冶金職人などはフェンチネルに定住する者が多くて中々人員の補充が上手くいっていなかったのだ。フェンチネルも都市とはいえ辺境であり人的資源は貴重であるため、余りルシアパレスへの流出が目立つようになれば領主との関係が険悪な物になりかねない危険を孕んでいる。
「職人系の人員補充に関してはいい考えがあるからもう少し待っていてくれるとありがたいね」
「おおぉ、さすがツクル様……。すでに手を打っておられたのか」
「そのためには、まず【巨人の大槌】をアモイに献上しないと始まらないからね。ちょっと借りるよ」
俺は金床の前をどいたフェイに代わり金床の前に立つと作業メニューを呼び出していく。メニュー内には現在所持している素材で生産できる武具の一覧が表示されていった。
その中から目的の【巨人の大槌】を探し当てる。
【巨人の大槌】……長さ5メートルの金属の槌部をもった大槌 消費素材 剛鋼鉄:25 大竜骨:5 大蛇の革ひも:5
ボフッ!
ゴトンという音とともに金床の上に長い持ち手の部分を持った大槌が転がり出てきた。重量的にはかなり重たいはずだが自分が生産した品物に関しては重量無視の法則が働くため、ヒョイと持上げてインベントリにしまいこむ。これで、アモイの友好度を上げて、遠征軍の御用商人となり魔王軍の中に入り込んで足りない人材をスカウトしてルシアパレスに連れてくるつもりだ。
「よし、完成したな」
「相変わらず、デタラメな力ですなぁ……。我等職人は失業してしまいますぞ……」
「いや、俺が作る武具は平均的な出来なんで、君達職人が作る【良質】、【伝説級】といった高品質なものまでは生産できないんだぜ。だから、量産品は俺でも作れるけど、フェイ達にはもっと腕を磨いてもらって高品質の物を作って欲しいと思っている」
ゲームにおけるビルダーも生産こそ即時完了であったが、平均的能力の武具しか作れず、高LVの鍛冶職人の作る武具には追加能力が備わっている高品質な物が生産されるようになっていた。このクリエイト・ワールドでもきっと同じ仕様であると思われ、ビルダーは全てを生産できる代わりに平均以上の物を作り出せないと思われる。
「そう言ってもらえると励みになります。クリエイト商会のために職人一同、頑張らさせてもらいます」
フェイがおずおずと頭を下げるが、俺としても高品質な武具は喉から手が出るほど欲しいので、フェイ達の頑張りには期待している。
「頼んだよ。クリエイト商会の発展には君等の腕が必要だからね」
巨人の大槌を作り終えた俺は金床をフェイに明け渡すと、更に奥にあるゴーレム製造工房へ足を運ぶことにした。
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