第128話 都市名

「ツクル様……お帰りなさいませ……ひぃい! なんで黒龍の幼龍がいるんですか?」


 素材収集ミッションを黒龍VSワイバーンの大決戦場から棚ぼたでゲットして、ついでにおまけでゲットした黒龍の幼龍を屋敷に連れ帰るとバーニィー達がクロちゃんの姿を見て怯えた顔を見せていた。


 都市や村に住む者にしたら黒龍は稀に襲ってきて人を喰らう災厄をもたらす魔物でしかなく、その姿は恐怖の対象でしかないと聞かされている。


「ただいま。ワイバーンの巣に托卵されている子だったんだけど、どうやら俺を親と思っているし、黒龍の親からは殺されちゃうって話だし、可哀想だから連れてきた。きちんと育てるし、棲家も別に建てるから」

「……そ、そうなんですか……。まぁ、ツクル様が親代わりならピヨちゃんと同じようにキチンとしつけて貰えるでしょうから大丈夫だと思いますが……」

「子供の時から人に慣れさせておけば、大きくなっても襲うことはないと思うよ」


 ルシアに抱かかえられたクロちゃんを見た屋敷の住人達に少し安堵した顔をしていた。


 ピギャ―!


 クロちゃんも周りにいる人達を仲間だと思ってくれている様であった。


 ルシアの手から飛び出したクロちゃんは、すでに背中に生えている小さな羽を羽ばたかせて屋敷の中をフヨフヨと飛んでいった。


「ツクルさまー。この子の名前は何て言うのー」


 フヨフヨと屋敷内を飛んでいたクロちゃんは、すでにミックを中心にした屋敷の年少組に掴まり、クロちゃんは揉みくちゃにされていた。彼らは黒龍という恐怖を教えられていないので、クロちゃんに対して大人と違った反応していた。


「クロちゃんって言うんだ。あんまり苛めたらダメだぞ」

「おっけー、君はクロちゃんって言うんだね。カッコいいなぁ。僕はミックって言うんだ。これからよろしくね」


 飛んできたクロちゃんをキャッチしたミックがクロちゃんの頭を撫でると、クロちゃんも嬉しそうに鳴き声を上げていた。


 きっとこれなら、大きくなったクロちゃんも人を襲うようにはならないと思う。


「クロちゃん、みんなと遊んでおいで、ご飯ができたら呼んであげるからね」


 ピギャ―!


「わーい。クロちゃん、いこー」


 クロちゃんが年少組と一緒に屋敷の外に出ていった。その姿を見ていたピヨちゃんがそっと外を眺めていた。


「ピヨちゃんも畑でご飯食べて来ても良いよ。ついでにクロちゃんが悪さしないか見ておいてくれる」


 ピヨ、ピヨヨ。


 畑のワームを食べに屋敷を出ていくピヨちゃんが片羽根を上げて返事の代わりをしていた。ピヨちゃんもクロちゃんを心配している様で、年少組が無茶をしそうなことをしていたらピヨちゃんが窘めてくれるだろう。


 ああ見えてピヨちゃんは年少組のお目付け役的なポジションである。やんちゃな子供達もピヨちゃんの言うことはキチンと聞くのだ。


「ピヨちゃん。よろしく頼むよ」

「クロちゃんもみんなに受け入れてもらえそうでよかったわ~」

「そうだね。あとは俺達でしっかりとクロちゃんも教育して一人前の黒龍に育て上げないとね」

「ついにこの屋敷にも龍が住み着くようになりましたなぁ……そういえば、このお屋敷……というかすでに都市クラスの規模なんですが、街の名前無かったですよね」


 バーニィーはクロちゃんを見送るとフウとため息を吐いた。それとともに俺が作っている街の名前が決まっていなかったことを思い出した。


「そういえば、名前付けてなかったね。国の名前は決まってたけど。イクリプス帝国だっけ?」


 イクリプスが勝手に命名した国名こそ決まっていたが、俺が建築中のこの都市の名前は決めていなかった。


 この世界に来る前にゲーム内で作っていた都市も名前をきめていなかったので、バーニィーに言われて思い出していた。


「ツクルにーはん。お屋敷という規模も越えていますし、この都市に名前を付けてあげた方がいいじゃないですかぁ?」

「じゃあ、ルシアパレスで決定」

「え!? そ、そんなに簡単に決めてええんですか? そ、それにうちの名前を付けるだなんて……」


 俺が名付けた都市の名前を聞いたルシアが慌てていた。ルシアパレスって語感的にも悪くないし、ルシアと一緒に住むために作っているからピッタリだと思うけど。


「おぉ、ルシアパレスですか。いいですね。住民達もルシア様に心服しておりますし、悪い名前ではないと思いますよ。私も賛成ですね」

「バーニィーはんまでそないなことを言って。うちは恥ずかしいわ~」


 ルシアが照れているが、周りにいた者達からも賛同の拍手があがっているので、俺達の住む場所の名前はこれにより『ルシアパレス』という名前に決定することにした。


「よし、今日からここは『ルシアパレス』という名の都市になるからよろしくね」

「ええ!? そんなぁ」

「ルシアパレス万歳!! 神聖イクリプス帝国万歳!!」


 住民達が諸手をあげて喜んでいる姿を見てアワアワと慌てているが、反対者がでなかったのは皆がルシアの料理によって胃袋を掴まれてしまっているからであろう。


 これにより俺達の住む場所に新たに『ルシアパレス』という輝かしい名前が誕生することになった。

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