Re:ビルド!! ~生産チート持ちだけど、まったり異世界生活を満喫します~

シンギョウ ガク

第1話 プロローグ


 プロローグ


 村上 創むらかみ つくる 二十三歳。


 パッとしない三流大学を出て、パッとしないゲーム開発会社に就職した、パッとしない営業担当。


 裕福な家庭ではなかったので、大学に入るのに借りた有利子奨学金が、山のように残っている人生半分詰んだ新人社畜である。


 彼女居ない歴=年齢であり、容姿はお世辞にもかっこいいと言われたことは一度もない。けれど、175センチの身体だけは〇ックスパッドを使って引き締めていた。


 趣味はゲーム。主にビルド系ゲームが大好物だ。マイ〇ラ、ビル〇ーズ、〇ゴシリーズの重度やりこみゲーマー。世界を構築することに愉悦を覚えてしまった、いけない大人だ。


 だが、会社というものは残酷で就業時間八時間の上に、サービス残業という従業員を軟禁するという暴挙まで行ってくる所だったのだ。


 そして、軟禁から解放されるのは、いつも決まって日付が変わる直前なのである。


 俺はサービス残業という軟禁から解放され日付が変わると、若い体力に物を言わせて、新作のビルドゲーム『クリエイト・ワールド』を十五徹目のプレイに取りかかり、ラスボスとの戦闘直前にぱたっと意識を失った。



 次に目を開いた時には、真っ白な空間で『クリエイト・ワールド』のキャラクター作成時に出てくる、全年齢作品には不似合いなイケイケな女神様に似た女性が覗き込んできた。


「残念なお知らせですが、貴方は無理がたたって若い身の上で過労死されてしまいました。普通の人なら毎日夜遅くまで残業してから、ゲーム如きで十五徹もしないですよ。貴方、頭の中大丈夫ですか?」


 目の前の女神様は顔立ちこそ綺麗に整っているが、その物言いはグサグサとド直球で心臓を撃ち抜く鋭さがある。


 絶対にこの女神様は性格ブスだと思われた。


「不幸な死に方をした貴方だけど、今回は特別に、そのほとばしる狂気的なゲーム愛に免じて、ゲーム馬鹿の貴方が光り輝ける世界に生まれ変わらせてあげましょう。ゲームの知識、とりわけ貴方が先程までやられていた『クリエイト・ワールド』を模した世界で思う存分に世界を構築されてはいかがです? 今、転生されると、なんと初回転生ボーナスで初心者ツールが付いてくるお得なキャンペーン中です」


 女神様は、どこかの怪しい通販番組のプレゼンターのように胡散臭い笑顔で転生を勧めてきていた。


「本当にあの『クリエイト・ワールド』に転生させてくれるの? マジで」


「はいっ! 今なら初心者転生ボーナス付きですっ!! 今この時だけの大奉仕ですっ!!」


「でも、お高いんでしょうね」


「いいえ。今ならなんと! この転生が無料で行えるのですっ!! ハッキリ言って赤字覚悟の大奉仕ですよ!」


「でも、万が一転生に失敗とかあるんじゃないですか?」


「大丈夫!! 超難関である天なる国ヘブンス転生女神検定一級を合格したベテラン転生女神による転生ですので、スライム、ゾンビ、ゴーレム、パンツ等には絶対に転生しない保証付きです。もちろん、何もできない赤ん坊なんていうのは論外です!」


「おー、それは素晴らしいですね。それだけの保証があるなら、是非転生させてもらいたい」


 女神様の胡散臭い口上に乗せられるように、簡単に転生することを選んでしまった。


 早まった気もしないでもないが、転生後に赤ん坊時代を過ごさなくていいという保証に惹かれていた。


 なぜなら、転生して大人の知識を持った俺が、転生先の母親におっぱいを飲ましてもらうのはある意味犯罪級の所業であると思われるからだった。なので、転生してすぐに動ける身体は非常に魅力的な転生条件だ。


「承りました。村上 創むらかみつくる様、ご案内~~!!」

「へ!?」


 軽い感じの口調で女神様が『ご案内』というと、身体がどんどんと光の粒子になって消え去っていく。恐怖にかられて女神様の方を見ると邪悪な笑みでこちらを見ていた。


「せいぜい、頑張ってあの世界で生き抜くことね。そうしたら、きっといいことがあるわよ。新米ビルダーのツクル君……ククク、アーハハアッハハ!!」


「騙したのかっ!! おい、転生キャンセルだっ! キャンセル!! ムぐうぇううえう!!」


 悪の組織の女幹部のような高笑いをあげていた女神様を横目にみながら、体中が光の粒子となったところで意識が途絶えた。




 目覚めると、そよ風の吹く草原のど真ん中で寝転がっていた。女神が保証したように赤ちゃんプレイを避けることはでき、転生前と同じようについさっきまでお世話になっていた自分の身体がそこにあった。顔ももちろんあっちにいた時と同じように、うだつの上がらなそうな顔に違いない。


 ただ、衣服だけは西洋風のチュニックみたいな布の服で、下半身がスースーすることこの上ない。せめて、パンツだけは履かせて欲しかったが、性格ブスの女神様は人の嫌がることをするのが趣味のようだ。


 転生のショックもおさまり、辺りを落ちついて見回すと、大きな木槌が一つ転がっているのと、桃のような果物が三つだけお供え物のように置かれていた。


「完全にコレって『クリエイト・ワールド』のオープニングと同じ状況じゃね……マジでゲームの世界に転生しちまったのかよ……」


 凹んでいてもしょうがないので、木槌を手に取ると装備画面が目の前に表示されていた。これも、完全にゲームと同じ仕様となっており、空腹を紛らわすための食料であるモモノ実をインベントリにしまい込む。


 >木槌を入手しました。


 >モモノ実を入手しました。


 ありがたいことにインベントリにしまい込んでおけば、物の重量は加算されないようで、その点だけが『クリエイト・ワールド』の仕様とは違う点だった。


 唐突に死んで、転生させられるというイベントをこなしてしまったが、ここには会社という従業員軟禁施設がない場所であり、自給自足の生活ではあるが、自分の思い通りの世界が構築できるかもしれないという魅力の前には、転生イベントなど通過儀礼に過ぎなかった。


「確か、ゲームなら近くに寝泊まりできる拠点の小屋があったはず。まずは、そこで自給自足をできるように素材を集めることにしよう。今日から俺はこの世界の最強ビルダーになるっ! そして、世界の創造者となるんだっ!」


 自分が望んだ世界に転生したことで、この世界を徹底的にやり込みつくしていくことにした。


 寿命はどれくらいあるか知らないが、命ある限り、この世界を作り替えることに邁進していくのだ。


 決意をあらたにしたことで、足取り軽く近くの小屋のあると思われる場所に向けて歩き出した。

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