第22話 フカフカベッドへの道


 装備を刷新した俺達は昼食を終えると、南側に広がる低湿地帯に素材収集にきていた。ここには、【体力回復薬】の材料になる【薬草】や【ヒーリングリーフ】が自生しているので、スコップで掘って畑に持ち帰り、栽培することにした。


 後、ハーブマスタールシアが【エゴマ】、【バジル】、【ニラ】に加えて、【クレソン】、【ミント】、【カモミール】、【ワサビ】、【ネギ】、【ニンニク】を発見していた。とりあえず、一部素材化させた物以外は、スコップで掘り起こして栽培するために持ち帰ることにした。


 更に低湿地帯を捜索していくと、【ショウガ】、そして念願の【胡椒】が自生しているのを発見する。スコップで丁寧に掘り起こし、持ち帰って栽培するためインベントリにしまい込んだ。


 現時点での最重要調味料であった【胡椒】を手に入れたことで、テンションが上がった俺達は更に南下を続けて、フカフカベッドを作るために必要な【綿の花】と【羽毛】手に入れることにした。


 しばらく、湿地帯を歩いていると前方から鳥の鳴き声が聞こえてきていた。自生している背の高い草をゆっくりと掻き分けて近寄ると、目の前には一〇羽ほどの大マガモがいた。


 魔物としては強くないが、全長二メートル近い巨体で集団行動をして襲ってくることもあるため、油断はできない。


 背後にいたルシアに大マガモを狙うと指で差し示す。


 ルシアは黙ってコクンと頷くと、すぐにでも詠唱動作に入れるように杖を構えていた。一方、俺は武器を鉄の弓に替えると鉄の矢をつがえて先頭の大マガモの首筋に狙いをつける。

 

 キリリと引き絞った弓から矢が放たれると同時にルシアの詠唱が始まる。先頭の大マガモが鉄の矢に首筋を貫かれて絶命する。


 急な攻撃で慌てていた大マガモの集団は、ルシアの火炎の矢を喰らって二羽目が丸焼けになって絶命していた。


 その間に二射目の矢をつがえ終え、更に混乱を広げるために三羽目の大マガモを狙い撃ちして絶命させると、鉄の剣と鉄の盾に装備を替えて突撃する。


「ツクルにーはんっ!! うちが援護しますよって!! 後ろは任せてくださいませんか?」


「分かった。俺の背中はルシアに預けるよ」


 背後からの援護をルシアに任せて、大マガモの集団に吶喊する。


 混乱したままの大マガモ達はルシアの火炎の矢と、俺の鉄の剣の憐れな犠牲者と成り果てていった。


 ザシュッ!


 最後の一羽の大マガモの首筋に剣を突き立てる。生命活動を止めた大マガモはボフッと白煙を上げて、素材へと変化していた。


「ふぅ。集団でいると、さすがにちょっとだけヒヤッとするね」


「ツクルにーはんは、全然強いじゃないですかぁ。大マガモの攻撃がまるっきし効いてへん。凄いやん~。さすが、うちの……あっ」


 ルシアが照れたように何かを言い淀んだが、そこは言い淀んではいけないところなのだ。俺はルシアの専用『恋人』なんだから、遠慮はいらない。


「うちの……何? 専用『恋人』で良かった?」


「ツクルにーはんのいけず~。そんなのきまってはるやろ~。バカ、バカ~。いけず~」


 背中をポカポカと叩くルシアは顔を真っ赤にして照れていた。


 はぁ~、かわええのぅ……萌え死ぬという状況はこういったことを言うのであろうか……この世界に来てから、脳内の98%はルシアに関することで埋め尽くされている。中毒状態と言っていいほどだ。恋は盲目と人は言うが、盲目なんて生易しいものではなく、恋は中毒になるのだ。


 なので、俺の中のルシア成分が不足する事態が起きれば、最悪、この世界を滅ぼしかねないこともある。永遠にルシア成分が手に入らないと分かったら、世界の滅亡をやりかねない自信はあった。


「俺はルシアが大好きだぁーーーーっ!!! 世界で一番愛しているぅーーーー!!」


 胸の中に溜まっていた気持ちが思わず声になって漏れ出してしまった。


「ひゃああ!? ツクルにーはんっ! 人がおらんところだからええけど、そないなことを大声で言わはりましたら、照れてしまいますわぁ~」


 ルシアが頬に手を当ててめちゃくちゃ恥ずかしがって身をよじっていた。


 気持ちが募りすぎて声として出てしまったが、ドン引きされていないことに安堵した。


 冷静に今の自分達を転生前の自分が見れば、『イチャイチャしているバカップルめ、時間と金を有意義に使えない低能どもがっ!!』と悪態をつきまくるだろう。だが、リア充を手に入れた俺は、転生前の自身の価値観を全否定する。カワイイ恋人と過ごす時間は何物にも変えられない至福の時間なのだと。


「ルシアありがとうっ!!」


 背中をポカポカと叩いていたルシアの方に向き直ると、彼女の身体をギュッと抱きしめてしまう。


「んもう~。ツクルにーはんは、えらい卑怯ですなぁ……急に好きやと言われて、ギュッと抱きしめられたら、うちもドキドキしちゃいますわぁ~」


 ルシアは恥ずかしいのか、顔を背けていたが、ギュッと抱きつき返してきたことでおっぱいが鉄の鎧に潰されて革の胸当てからこぼれ落ちそうになる。このおっぱいも俺の物だ。実に素晴らしい柔らかさを持っていた。


 しばらく二人で抱き合ってお互いに成分を吸収して満足したようだ。


「さて、そろそろ。素材拾いしよっか」


「へぇ……名残惜しくはありますが……仕方ありまへんなぁ……」


 抱き合うのをやめると、ルシアが装備の緩みを整えてくれていた。こういった細かいことに気が付いてくれるルシアは絶対にいい奥さんになれる素質があると思う。


 イチャイチャ成分の補充を完了した俺達は、退治した大マガモの素材を拾い集めた。手に入った素材は【羽毛】×5、【カモの肉】×3、【卵】×2だった。


 インベントリにしまうと更に探索を続けるべく、南に下っていくことにした。

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