第101話 ダイエット大作戦


 百獣平原に到着した俺達は、久しぶりの戦いを前に緊張をしていた。装備は前回の修練のダンジョンをクリアした時と同じものだが、回復アイテム類はクリエイト商会の流通網で手に入れた素材を使い、より上級の物を多くストックすることができていた。


「さてと、今日の目標は鎧犀ヨロイサイとか、黒獅子ブラックライオン大角牛ビックホーンとかを中心に狩って素材を集めようか。皮系アイテムとか角系は武具をパワーアップさせるのに必要だからね」

「ツクルさんは私達をまだ強くされるつもりですか? 私達は結構、強くなったと思いますが?」

「そうだね。強くなることは自分達の安全度を高めることになるからね。それに三つ目の修練のダンジョンも待っているし、それにハチをダイエットさせないとね」


 運動不足が祟って腹が出たハチがこちらを向いて抗議をしたそうにしているが、以前はキッチリと収まっていた装備からお腹の肉が飛び出しているのが見える。あの肉を取り除かねばならないのだ。そして、俺も見事に装備からお肉が漏れ出していたのだ。商売にかまけて、身体づくりを怠り、ルシアのハイカロリーグルメにうつつを抜かしていたら見事にお肉が乗ってしまっているのだ。


 けれど、ルシアは俺よりも食べていたにも関わらず、相変わらずのスタイルを維持しており、絶対にあの大きな胸が超絶カロリー消費装置になっているに違いなかった。


「ツクルにーはんもハチちゃんと同じようにお腹のお肉を減らしてもらわないとダメですね」

「は、はい。心得ております」


 ルシアからのダイエット指令を受けたところで、タマ達を見ると緊張感の欠片もない会話をしていた。


「タマちゃん、アタシば太ったばいね?」

「あ? イルファはそれでいいんだニャ。おっぱいの感触は極上だニャ。ワシが毎夜……うわっぷ」

「タマちゃん! それは内緒の話ばい」


 まぁ、あの二人もよろしくやっているようでなによりである。まったく、緊張感はない会話だけどね。仲良きことはいいことだ。そんなふうに、油断していたら今日の狩猟目的じゃない腐乱犬ゾンビドックが集団で、俺達を取り囲んできていた。腐臭を放つ犬の死体が魔物化したものだが、攻撃は牙と爪だけなので、集団で現れても慌てる必要はなかった。


「ツクル様、おいらが一番先頭をやりますよ。おいらもおデブハウンドなんて言われたらたまらんぎゃ」


 ハチはポヨン、ポヨンと揺れる腹をもろともせずに、素早い動きで飛びかかろうとしていた腐乱犬ゾンビドックを爪で引き裂く。仲間を殺された腐乱犬ゾンビドックは目標をハチに変えて一斉に飛びかかっていくが、LVの差と能力の差は歴然としており、次々に牙を噛み砕かれたり、爪で引き裂かれると、白煙をあげて素材化していた。


 ハチめ、動けるデブハウンドであったか。飛べない豚はただの豚という名言があったが、動けるデブハウンドは何になるのであろうか。けれど、無理して急に運動すると膝をヤラレかねないから、援護してやることにしよう。同じ、お腹の持ち主だからな。


「ハチ! 俺も援護するぞ! 他の者は待機してくれ!」


 皆に指示を出しておくと、俺も星光の剣を引き抜き、ハチに挑みかかっていた腐乱犬ゾンビドックの首を一刀で斬り落としていく。二人してお腹の肉は揺れているのだが、動き自体は鈍ってはおらず、あっという間に腐乱犬ゾンビドックの集団を屠ることに成功していた。


「他愛ない相手だったぎゃ。おいらにかかれば、これくらいの相手は余裕で倒せるがね」


 ハチは久しぶりに運動したことで心なしか足がプルプルと震えているが、まだ余裕を装える体力は残しているようだった。俺もまだまだ息はあがっていないので、次の魔物もどんとこいだ。


 暇をしていたピヨちゃんが地面にドロップした【腐肉】を咥えてルシアに手渡していた。まぁ、色々と薬関係に使い道のある素材だから、集めてくれるのはありがたいが、ルシアに腐臭が染みついてしまわないか心配だったので、すぐに俺が受け取って、一部を次の魔物を引き寄せる餌として使用することにした。


「これを撒いておけば、禿頭鷲コンドルが寄ってくるから、みんなで一網打尽にしようか」


 強烈な腐臭を放つ【腐肉】に引き寄せられるように上空を飛んでいた禿頭鷲コンドル達が急降下してきた。俺は真銀の弓に持ち変えると真銀の矢をつがえる。そして、ルリとルシア、タマも【腐肉】を突いている禿頭鷲コンドル達を一発で仕留めようと、特技や魔術を発動させる準備をしていた。


 引き絞った矢を一番手前にいた禿頭鷲コンドルの頭部に定めると、そのまま矢を放った。放たれた矢は見事に禿げた禿頭鷲コンドルの頭部を刺し貫き、絶命させる。それを合図にルリが【氷雪の息吹】を放ち、禿頭鷲コンドル達の羽を凍らせて動けなくすると、タマの【大火球】が着弾して高熱と爆風で禿頭鷲コンドル達を吹き飛ばす。辛うじて生き残った二頭の禿頭鷲コンドルにはルシアの瞬雷サンダーボルトがヒットして丸焦げになっていた。


「呆気ないですなぁ。これじゃあ、ちっとも強くなれる気がしませんねぇ。うちら、結構強くなりすぎたのでしょうか?」

「そんなことは無いはずだけど、まぁ、ちょっとLVは下の敵だからね。もう少し奥に行けば、手ごたえのある敵も居るはずさ」


 俺達は個々の能力が向上したこともあるが、それ以上に役割分担をキッチリとこなしているので、低レベルな魔物程度では傷も負わずに処理をしてしまえた。ドロップされた【鷲の羽】、【鷲の爪】をインベントリにしまうと、百獣平原の狩猟ツアーは更なる奥地へ向けて歩を進めることになった。

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