第2話
我が家の1階、前部分は、店舗になっていて、ポーションや簡単な薬を売っている。奥の方に台所などの住宅部分があり、2階は倉庫と寝室。
ポーション作りなどはあまり場所も取らないため、お店の中に仕切りを置き、店の入り口からは見えないように目隠した所で作業している。一応、製造は秘密だからね。初級ポーションは作り方が知られているけれど、素人が作るものは品質がよくないらしい。
お店にはカウンターと薬棚。壁収納型のシングルベッドはいつもは壁に収納されていて、急患があったときに出す。他にはソファでなくベンチが置いてある。
ポーションや一般薬の数は全部で十種類も置いてない。作成依頼があればもっと作れるらしいけど。
種類の商品は少ないし、値段もキリがいいのが多く、幼くても店番を任されることが多かった。
その間に祖母や母が調合したり、のんびりと家事をする。
計算が難しかったり、大きな金銀貨を出されたときは呼べばいい。同じ家の中に必ず母か祖母がいたから、店番はたいして難しくなかったし、常連客のほとんどは冒険者で朝か夕方前にしか来なかった。
――昼はダンジョン内でお仕事ですからね。
「シャインは小さいのに計算もできるのか?」
「この棚のポーションはどれも大銅貨一枚だからだよ」
客に聞かれたら腰に手を当てて、踏ん反りかえって答えている。言葉だけ聞くと謙虚だが、思わず出てしまうポーズまではまだ子供のため、制御未完全状態なのだ。おおめに見てほしい。
実は複数の計算もできる。カウンターの中にある上級ポーションまでまとめていくつかの合計を習ったこともない掛け算で計算し、それがぴったりだった時は、思わず「あっている!?」と口に出しそうになった。
――うぉ! 前世の記憶、結構使える?!
いわゆる神童ってやつじゃない? とニマニマしていたら「尻振りシャインを久しぶりにみたわ」と母に指摘されて、ピシッと固まった。
――尻振りシャイン? え? 今お尻ふりふりしてたの?
つかまり立ちをするころから嬉しいことがあると、お尻をふって喜びを表現していたらしいのだ。「大きくなるにつれてあまり見れなくなって残念だわ」と言われていたのだ。全然見れなくなった、ではなくあまりという言葉にあれ? と引っ掛かりはしていたが、まさかの無意識状態では尻を振っていたなんて、知らなかったよ!
――計算ができた嬉しさなんてすぐどこかに飛んで行ってしまった……
店番が大好きな私は、朝早く起きるのも苦にならない。本音を言えば朝なら冒険者さんたちが何かとお菓子をくれるから、それが楽しみで、自然と目が覚める。
朝早い冒険者さんたちのマスコットガールは笑顔で頑張るのだ!
何しろ、商売の為なら愛想笑いもできちゃう前世もちですからね。私ってやればできる子なのだ! ちなみに、営業では笑って接客という観点はないらしく、私の愛想笑いでも、子供というだけで笑顔もかわいいと受け止められているらしい。ま、相手はおっさん冒険者たちがほとんどだからね。
「シャインちゃん、今日もかわいいね」
「飴を食べるかい?」
「うん! ありがとうー」
ニコニコしてお礼を言う私を見る冒険者さんたちも嬉しそうで何よりだ……って、あれ? 飴ちゃん一個で満面笑顔で朝早く起きれる私って安くね?
――まさかの残念な子?
薬草のほとんどは森に出かけて採集するが、一部は裏庭でも育てている。
その裏庭では私たちが食べる野菜も育てていて、実のなる木は数本あるし、3人が食べる野菜などは畑の一部でも十分に採ることができていた。
野菜の中には長ネギもあったのだが、ある日のこと、ネギの根が薬になることを思い出した。ネギのひげ根をブラシを使ってしっかり洗い、乾かす。
水はシンク台の上に設置された水桶から出るように蛇口があるが、足のペダルを押しても水がでる。ペダルは魔法じゃないけど、水桶には魔法で湧き水の源泉から来るようになっている。下水も排水溝に分解圧縮機の魔導具があるので、ここサパニッシュ国には下水道というのはない。ちなみにトイレも同じ。
ネギの根は料理としても食べれるので粉を振り、揚げて塩を付けてみたが、思ったよりおいしくなかった。
「あら、意外とおいしいのね」
「本当ね、シャインが変なお願いをすると思ったけど、酒のつまみにいい感じね」
「……!」
母と祖母は少し癖のあるネギの根を揚げたのがおいしいらしい。びっくりだ。でも、「こんなの食べれるの?」と怪訝な顔で言いながら揚げてくれたのだから、気に入ってもらってよかったよ。
――変なお願いじゃないよ、ね?
「子供の舌じゃ、この味の良さはまだ分からないのよ」
微妙な表情をしていたのか、母に苦笑いされ、新レシピの試食と果物だけの朝食を終えた。ぺいっと食べかけの根っこを捨てると母に「体にいいんだから残さず食べなさい」と注意された……。
――今までネギの根っこなんて捨てていたのに、納得いかない……むぅ……
長ネギの白い部分はそう白と呼ばれ、特に体を温める作用が強く、陽の気を補う食材だったことも思い出した。
冷え性の母にもぴったりの食材だと思ったところで、以前のごつい冒険者に対して浮かんだ『太陽人』というのが、四象医学の単語であったことまで思い出せた。太陽人、太陰人、少陽人、少陰人と4タイプの体質に大きくわけて漢方を処方する医学で、日本ではあまり知られていない漢方に関する医学用語だった。
――お日さまの太陽じゃなかったね。
「そうそう、母は少陰人タイプなのよね。
だから、冷えに弱くて割と小柄で細いのかなぁ」
一つ思い出すとそれをきかっけにずらずらと関連のあることを思い出したり、以前にふと思い浮かんだことの意味を知ったりすることもある。役立つ記憶ならいいなと鼻歌がふんふん出る。……あれ? この世界って手術しなくても、一部なら臓器すらもポーションで再生するよね? 少しばかりの漢方の記憶ってそれに比べてどうなの?
――うん、やっぱり前世の記憶、つかえねーーー!!!
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