王都魔法学園 前等部
第47話
王都にやってきた。いつもの四人組で。
試験のためによく四人で集まっていたから、四人で行動するのは自然な感じがする。
小さいころ、ルカとリタの三人でよく遊んでいた。でも、ルカの成長は早くて、外で遊びたがったから、だんだん三人でいることが少なくなっていた。
それがまたその三人が集い、そこにクレトが加わることで、特にルカは嬉しそうだ。
入学の五日前から入寮できる。
私たちはお屋敷には寄らず、学園に直行した。荷物は先に送ってあるから多くはないが、荷ほどきがある。
私の分はすでにお屋敷から侍女が行って整えてくれたそうだが。
「十八ある寄宿舎の中で六番目っていいのか?」
「よくは知らないけど、大きいらしいわ。地下に練習場もついてるって聞いたし」
「それはいいな! 早く行こうぜ」
ルカは駆け出しかねない勢いだが、学園の敷地は広大なのだ。
フェンを思い出してクレトに尋ねる。
「フェンに乗ったら早いのに」
「フェンは目立つんだよ。どうせいつかは知られるけど、あまり最初から目立つのもな」
「あのときよりも大きくなるって言ってたものね」
「小さくはなれるから、あの大きさで学園では過ごすように言ってはある」
フェンに会いたかったんだけどな。
期待していた飛猫も空を飛んでいる騎士たちの姿しか見たことがなくて残念なのだ。
「召喚獣って一匹だけなの? 何匹も召喚できないの?」
「……さぁ。召喚の魔法陣及び呪文を一つしか知らないし、王族ですら一匹のようだぞ」
わたし専用のもふり王国建設は夢のまた夢のようだ。
宿舎についた。ルカが見上げながら言う。
「でかいな……」
うんうんと
アンブル領だけで使う宿舎。約百二十名の生徒が過ごす。
百名程の従者が入るから、二百名以上が過ごすと思えば、これくらいにはなるのだろうか。個室だし。
昼食時に一階で集うことにして、部屋番号を聞いて部屋に荷物を置きに行く。
私はリタと隣どうしになるようにお願いしておいた。
ルカとクレトも隣。
他の一年の貴族は全員が執事を連れてくるらしい。執事の部屋付きは別なんだ。
でも、奥側になるだけで、階は一緒だし、待遇も同じ。
私とリタはいそいそと部屋を探しあて、後でねと笑顔で別々の部屋へ入る。
無機質な部屋だろうと思っていたら、白とシェルピンクの縦じま模様の壁紙がその思いをいい意味で裏切ってくれた。
ベッド脇の可愛いスタンドたちは侍女が準備してくれたんだろうな。
シングルベッドに棚や机、いすと言った最小限のものしか家具はないけど、クローゼットはベッド以上の広さがある。
棚にはジュエリーケースも入っていたから兄たちからもらった髪飾りをそこに入れた。
上の兄からはカトレア、下の兄からはリンドウの髪飾り。
リンドウの白と紫の色合いをブルーがかった光沢の青蝶貝で表しており美しく幻想的だ。
小ぶりだけど、青蝶貝なら小銀貨するんじゃないかな。フェルミンお兄様、お小遣い全部使ってしまったのではないだろうか。
リンドウは今の季節八、九月しか咲かないから入学式に付けるつもりだ。
蘭の女王と言われるカトレアの髪飾りは、紫のグラデーションが素敵な魔石付きで銀細工仕立て。大きいからドレスを着たときにちょうど良さそう。上の兄が目の色に合わせて選んでくれたようで思わず頬が緩む。
似た魔石二つが手に入ったとき、ヲシテ文字を描いてカフス型の魔導具を上の兄にプレゼントしたんだ。卒業プレゼントにお花しか贈れなかったから。そのお返しも兼ねてるのかな。
ドレスも掛かっている。後でリタのドレスを調達しようと思っていたけど、四着あるからこれを貸せばいいなと思う。他にもドレス風ワンピース、普段使いのものまであった。教養マナーでドレス着用があるが、ドレス風ワンピースでも構わないはずだ。
私はドレスとドレス風ワンピースをとり、リタの部屋へ向かった。
コンコンコンとノックをして、「シャインです」と言いドアを開ける。
リタは服を渡すと困ったような笑みを浮かべたが「私のドレスの微調整を時間がある時にお願い」と言うと、二着受け取ることを了承してくれた。
微調整するのは一番自分に合うと思うのだけ。
他はリタと着まわして使うためにそのままにしておくつもり。
ショールとかリボンなどの小物で印象を変えればいいだろう。
普段は制服があるし。
「部屋に大きなシャワールームがあるなんて貴族になったみたい」
「浴槽まではなかったけどね」
「エアー洗濯機も細いけど、毎日制服と靴の消臭・洗濯ができて助かるね」
「うん、部屋はたぶん現状維持の魔法や空気清浄などもされているようだし、隔日で掃除してくれるらしいよ」
ハンガーにかけた服を二、三着くらいしか入れられないような幅の細いエアー洗濯機があった。プレスは魔法でできるからいいとして。
掃除は専門のかたがしてくれるようだし、侍女たちがいなくてもあまり困ることもなさそうだと思う。
「ご飯食べに行こうか?」
「うん、メニューが楽しみだね」
「だよね。まぁ、まだ全員揃ってないから軽食かもしれないけどね」
私たちは手を繋いで一階へ降りた。
ルカたちが電光掲示板の前にいた。
「四日後の始業式までは各宿舎で食事が出るそうだ」
「学園レストランに行かなくていいのは助かるね」
「そうだな。ここからなら五分はかかるからな」
カフェテラスのようなところへ行くと、ブュッフェ式で自由に取ることができるようになっていた。
ルカは「いいな」と言いながら皿に料理を次々と盛っていく。
ピザが二種類、パスタと冷スープ、サラダが一種類ずつ、それに飲み物が二種類準備されていた。
私たちはリタ以外、全種類を制覇すべく、皿にのせていく。
テラスになっているところへ自分たちで運んだ。昼は過ぎているけど、他に人はいない。きっと他の子たちはまだお屋敷にいるんだろうね。侍女たちが宿舎内の準備はしてくれるし、こんなに早く来なくてもいいもの。
外の風が気持ちいい。空が高いのは秋だからだろう。
「おいしいな! この食事だけでも来たかいがあったな!」
「ピザの具が多いのがいいな。シーフードも山盛りで先にフォークで食べないとこぼれる」
ルカたちはすでに食べている。私も外の景色に気を取られていたけど、黙祷してスプーンをとる。
ビシソワーズの優しい味が口に広がり、喉を通って行った。
「スープもジャガイモがクリーミーに仕上がっていておいしいよ」
「サラダのドレッシングがおいしい!」
リタの感嘆に、サラダを食べてみる。あ、これ何かに似てる……。
「たぶんだけど、このドレッシングに近いレシピ分かるかも」
「知りたい!」
さすがリタ。いい奥さんになるね。
私はレシピを思い出しつつ、指おり数えながら材料を言っていく。
「玉ねぎと人参、ブラックオリーブ、ニンニク、すりおろしたリンゴ、塩、砂糖、油、酢、胡椒、それに……! 醤油……」
「しょうゆ?」
「う、うん。たぶん、そうじゃないかと思う」
私は醤油が前世でとても身近な調味料だと思い出した。あるのかな。
ルカが茶々を入れる。
「シャイン、料理下手なくせに、ドレッシングの詳細なレシピなんてよく知ってたな」
「下手は余計。分量までは覚えてないけどね」
「マリオが言ってたじゃないか。『シャインのコンソメスープパスタはすごいです! パスタでダシをとったスープに仕上がっています!』って」
「あ、あれはコンソメスープだと思って間違ってパスタの煮汁を入れてしまったっていう……」
「色が違う時点で気づけ」
あうっ。クレトがいつものごとく鋭い。
さすがに私でもパスタでダシはとれないんだけどな。
少しパスタがのびたけど、幸いベーコンなどは別に炒めて上にのせてたから、スープだけ入れ替えておいしくみんなたべてたのにー。
「それだけじゃないし。カレーを作れると豪語しておいて、チョコ風味に仕上がったとか、硫黄臭かおるプリンは有名――」
「か、カレーは隠し味に少し入れようと思っていたのに、間違って全部入ってた、というか……あー、もう! 今は目の前のおいしいピザを食べよう!」
ルカがどんどん披露しようとするのをさえぎる。
私はピザをもくもくと食べながら、この国の菓子作り用チョコが前世のカレールーに見た目がそっくりで、すでにスパイスを入れいていたのにルーがまだだったと勘違いしたんだよ、と心の中で言い訳していた。
私たちは四日間かけて、必要な物を準備したり、学園内を探索したりしてゆったりと過ごした。学園内には売店と呼ぶには大きすぎる、小さなショッピングモールのような施設もあった。制服からドレス風ワンピース、下着類まで揃う服飾店、王都で人気のある日持ちするお菓子を集めたスィーツ店、文房具店、雑貨屋など数店舗がある。
広すぎてまだ通りすぎるだけの施設も多いが、これから六年間過ごすのだ。
私はゴシック調の建物や大木に手を当て、「これから六年間よろしくね」と挨拶した。
大木の周りに飛猫がいたんだ。思わず近寄って挨拶し、そのついでというか、大きな木が気持ちいい木陰を提供してくれてたから、木にも話しかけた。
飛猫は
だから、大木に抱き着いた。大木はあたたかくて、地球と繋がっているかのような、抱いているようで地球に抱かれているかのような不思議な心地よさがあった。
挨拶した建物が聖堂で、大木が森にある一番の大木と同じ種類の木とは知らなかったけれど……。
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