第48話

 王都魔法学園の入学式が始まった。

 仕事が外せなかった上の兄以外、全員参加してくれてる。


 私は下の兄がくれた髪飾りをロープ編みのアレンジで優雅なハーフアップにした髪に留め、真新しい制服に身を包んだ。

 髪はリタがしてくれた。リタの髪は私が……したかったが、無理だった。ので、ご本人が編み込みをしたが、フィッシュボーンをサイドに入れたねじり編み込みはこなれ感がたっぷり。

 領の同級生たちと尖塔アーチの門を通り講堂へ集う。


 ゴシック建築風の講堂は大聖堂のような面持ちを持ち、舞台の上にはバラ窓がきらめいている。

 高い列柱のアーケードに高窓のクリアストーリ。

 王族のために設けられた一段高くなった席のあるトリビューンもある。

 父母席は二階以上。試験のときは封鎖されていたが今日は解放されている。

 侍女たちは側廊で立ち見。

 音楽に合わせて入場し、学園長の挨拶、新入生代表の言葉。学園紹介と続く。

 時間にして四十分程だろうか。


 その後は昼食時間含む三時間を挟んで各領にてオリエンテーションが行われるという。

 昼食は学園レストラン、カフェテラス、各宿舎にてとることができるし、前もってバケットを頼むこともでき、野外で好きなように食べてもいい。

 レストランは高位貴族以上が使用する。それ以外は自由。


 地下鉄の運行時間の関係上、式が終わったらすぐ帰らないといけないという祖母と母、リタたちの家族のために前もって八人分のバケットを頼んでおいた。

 地下鉄はそう何度も運転していないのだ。一日三往復くらいだから。貴族なら召喚獣で地下鉄駅まで飛べばいいけど、召喚獣もいないから、父の馬車と貸し馬車で地下鉄まで行くのに結構な時間がかかる。

 少し残念だけど、母たちは姿を見られて嬉しかったと、おめでとうと祝福してもらった。ルカの母アニタは「ルカがこんな立派な学園に入るなんて夢のようだね!」と興奮しまくっていた。

 家族を見送り、私たちは宿舎へ行く。


 兄が宿舎で食べようと言うので、ルカたちも一緒に宿舎で昼食をとることにする。

 宿舎へ向かうが、父の視線がクレトを追っており、懐かしいような表情を浮かべている……?――ポンと肩をたたかれる。


「シャイン、お父さんたら涙流して喜んでた。学園に誘ってくれてありがとうね」

「それはリタが可愛いからだよ。あと、学園に入ったのはリタの努力の賜物だし」

   

 横に並んだリタと手をつないで宿舎へ行く。

 行く途中でも宿舎についてからも、父たちは挨拶に忙しいようだった。

 宿舎ではやはりビュッフェ式だが、夜以上の豪華なメニューが並んでいた。

 スープだけで三種類ある。

 ステーキは注文してから料理人が鉄板で焼いてくれるし、今日は給仕の人たちが派遣されていた。

 父と義母は「学生の時を思い出す」と言いながら皿に料理を奇麗に盛り付けていく。私は兄に「どれがおいしいか」を聞きながら、皿にとりつつ、リタたちに情報を提供していた。

 

 ルカとリタは貴族の父に最初こそ少し緊張していたようだが、持ち前の性格なのか気づいたら自然に会話していた。

 それはいいんだが……ルカよ、なぜ私の黒歴史を誇らしげに語っているんだ⁉


「お、お父様、ルカは入学式で気分が高揚したあまり、記憶が混乱しているようです」


 隣で兄が吹きだした。え?

 父と義母も笑いを堪えているように見えるのは目の錯覚? ルカの言うことを信じたってことだよね。

 なぜにルカの言う事が信じられるの?

 私は貴族街では貴族らしく振る舞っていたよね?


「シャインの作るお菓子なども、これがまた素晴らしくて――」

「ルカっ! 今はおいしい料理を頂きましょう! スィーツもたくさんありましてよ?」


 先日のようにばらされては敵わない。冷や汗をぬぐう。

 ちょうどアイスのベリーソースかけを配ってくれていたので、お願いしたら、素敵なパフォーマンスを披露してくれた。

 目の前でお酒をかけたかと思うと、魔法で火を付けて酒を飛ばしたアイスフランベになった。

 炎のアイスクリームは初めてだ。炎が消えても溶けてないよ⁉


「ルカならきっと「我が名により召喚する! 出でよ! 氷の舞! 【氷菓アイス・フランベ】ーー!」とか『幻想的な姿を今、ここに現せ! 【炎氷菓エタノールフォースブリザード】ーー!』て言いながら作ってくれそうだね」


 私は感嘆しつつも、先ほどの黒歴史暴露のお返しにそう言った。


「それだと炎と一緒にアイスクリームも召喚しなきゃだめだから、無理だな」


 え? いきなり真面目か? こら、いつものノリはどうした!


 一人オロロロロとキョドっていたら義母がフォローしてくれる。


「いつもそのように人を楽しませているのですね」

「ち、違います! いつも言うのは――」

「シャイン、溶けるぞ」


 あうっ! アイスがやばい。ルカの助言にアイスフランベを思い出した。

 おいしいものを目の前にし、私は言わねばならぬことも忘れて食いついてしまった。


「バニラアイスにベリーの甘酸っぱさとキャラメルソースもかかっていて、とてもおいしいです! お兄様も頼まれたらどうですか?」

「僕はもう見てるだけでお腹いっぱいだよ」

    

 にこにこしておすすめしたら、みんなから生暖かい目で見られている?

 おいしいのにな。もう一度あのパフォーマンスも見たいし、もう一個頼もうか、それとも他のスィーツにすべきか? 腕を組んで悩んでいたら兄に声をかけられる。


「シャイン、マカロンもあったけれど見た?」

「っ! 気づきませんでした! 私としたことが! 早く取りに行きましょう」


 私は兄の手をとって、マカロンのところへいった。銀食器の上に花と一緒にアレンジされたタワーになっていたよ!

 先にスィーツを見ると食べたくなるから、スィーツコーナーはわざと見ないようにしていたんだった。

 小さめのケーキやプリンもあった。私は給仕している人にマカロンを包んでもらうようにお願いをして、ケーキとプリンを持って席に戻った。

 兄は両手いっぱいのマカロンが入った紙袋を持って。


「シャイン、兄に持たせているのは何だね?」

「夜食用のマカロンです。お父様も欲しいですか? たくさんありましたよ」


 父は首を振ったが、なぜ兄が持っているのが私のおやつだと看破できたんだろう?


「女性の宿舎はどうなっているのか気になりますから、見てきますね。男性は入れませんでしょう?」

「三時間だけは家族なら入れると聞いたよ。ドアが開いたままになるそうだがね」


 親たちは宿舎の様子も気になるようだ。義母と父が言う。

 みんなで私の部屋を見学することになった。 

 ルカたちも付いてきたのは解せないが。


「まぁ、やはり男の子の部屋より可愛らしくていいですわね」

「壁紙が違うだけでだいぶ違うね。それに一人部屋にしては広いか?」

「それは三年前、領地が最下位だったから建物自体が小さかったためですよ。今は同じ大きさです」


 義母、父、兄は兄の入学式の時を思い出して話をしているらしい。

 遠慮しないで私も参列すればよかったと、お菓子を見ながら思う。違うよ!、兄を見て思う。


「他に必要な物はない?」

「全部そろってますし、お店も充実しているんです」

「そうだね」


 私たちは宿舎の施設も案内した。


「階段もここはサーキュラー仕立てなんだね。以前のところはこんな広々とした空間はなかったと記憶しているが」

「ええ、そうですね。施設の豪華さもだいぶ違いますよ」

 

 父の問いに兄が答える。

 そうなんだ。確かにこの階段は絵になってもおかしくないくらい奇麗だけど、カーブしたロートアイアンの手すりなど貴族の家では普通にあるから、気にも留めなかった。


「お兄様、ここのキッチンは白で統一された北欧インテリア風ですが、最下位の宿舎はどうなのですか?」

「キッチンを使うことがないからよくは覚えてないけど、生徒が使うキッチンが奇麗なことに驚いたからこんなに大きくはないのだろうね」

「そうなのですね! ここで良かったです。リタと一緒にお菓子作りを休日は楽しみたいですから」

「大丈夫? ルカの話では――」

「あ、あれは私一人で作ったときです。リタは【料理】のスキル持ちだから一緒に作って失敗したことなんて一度もないですっ!」 

「よい友達に恵まれて良かったですね」

「はい、お義母さま」

「そろそろ時間だよ」


 私たちは父たちを見送り、オリエンテーションに出たのだった。    

   

「言葉遣いは騎士コースなら無理しなくてもいいと聞いたぞ」

「試験のマナーチェックも騎士コースなら免除だったらしい」

「……」

 すみませんでした!

 私はジャンピング土下座でもって、その場を乗り切った。

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