第65話

 もて期が到来した。 

 もちろん私じゃない。

 八組の女の子たちのもて期。他のクラスの男の子たちから人気なのだとか。

 私も女の子のはずなんだけどな……。


 仮装大会での、コスプレもどきの姿が萌えだった様子。

 異世界の小学生にも通じるコスプレ。最強だな、おい。

 猫耳ならぬトラ耳とかだったのだけど、可愛かったし、二位になったのは伊達じゃなかったらしい。


 ちなみに、ルカの人気も急上昇。主に男子から、別な人気を……。

 あの最恐仮装で? と思ったら、私が各地の紹介をしている間に、ルカは仕込みを披露していた。

 ワンピの下に隠していたのは、まさかのお尻に見えるスパッツに、う〇このおもちゃ。

 爆笑がおこっていたのは、その仕込みのせいだったらしく、おまえは小学生かっ! と思った私は悪くないはず。まんま小学生だけど。


 男の子たちって、うん〇話題好きだよね。貴族にも通じるところがすごいけど。

 ルカは舞台で目立つのが気持ちいいらしい。羨ましいよ。

 着ぐるみだったから、頑張れたけど、緊張で冬なのに汗だくだった私と違って楽しんだらしい。


 小学生でも女の子だからか人気があるのは嬉しいらしく、お化粧してあげたことに感謝されたけど、それならどうして罰ゲームに連れて行くのかな?

 だいたい、なんで遊園地の優先チケットなんて入っているの?

 一位の賞品はお菓子。三位もお菓子だったのに。三位は学園でも売っているお菓子だったけど、そっちのほうがずっといい。


「遊園地名物の饅頭がおいしいらしいよ」


 この言葉につられた。だって饅頭だよ?

 西洋のお菓子ばかりなのに、饅頭だよ? 粒あんかな、こしあんかな? 両方あったら、両方ともお買い上げだ。むふふふ。


 行くしかないと、張り切ったのに、今、目の前にあるのはカステラ生地に包まれたカスタードクリーム。

 あんこはどこ行った?


「生クリーム入りもあるんだって。そっちは日持ちしないからお土産には向かないね」


 そう言って、連れて来てくれたクラスの女生徒たちは男子たちと去って行った。

 入園してすぐの場所に饅頭などお菓子やお土産店が並ぶから、案内してくれたのだ。

 私が望んだのは、粒あんと、こしあんの二択で迷う事だったのに、カスタードと生クリームの二択で悩むことになるとは思わなかった。

 

「シャイン、幼児用のお化け屋敷もあるんだって。そっちに行く?」


 リタはそう言ってくれるけど、何が楽しくて幼児と一緒にお化けを見なきゃならないの?

 幼児用のお化け屋敷まであるこの遊園地がニクイ。


「他のにするよ。乗り物系がいいな」


 それにしても、饅頭もお化けの形だし、遊園地自体がお化けを意識したものばかりで飾られている。マスコットがいるのはいいが、それがお化けなのはなぜだろう。

 もっと、ワクワクするような可愛いキャラとかないの?


 入ってすぐのアトラクションを楽しもうと思ったのに、何だか様子が変。

 『アリスと行くトロッコ列車』らしいんだが……。アリスらしき少女は幼児の姿なのに、目をギロッとむいて「ぎゃははは」と笑っていて、隣のお化けよりかえって怖い。

 急いで入口でもらったパンフレットを開く。

 全アトラクションがホラー仕立てだということに、そこでようやく気づいた。oh my gosh! おーまぃがーーっ! おーまぇが、おーまえが、おまえがわるいー!と脳内変換して気分を落ち着かせる。ふぅ。だが――

 

 明るい遊園地で、屋内だから寒くはないはずなのに、私の唇は紫になっていたらしい。


「シャイン、寒いのか? 温かい飲み物持ってくるか?」

「クレト、ありがと。それより早く帰りたい」

「まだ一つも乗ってないだろ? 饅頭、饅頭とうるさいから先にここにきたのに、饅頭売り場に来ただけで帰るておまえなぁ」


 ルカが呆れたように言う。

 さすがにクラス全員で移動するのも大変なので、グループ分けしたから今はいつもの四人。

 他のクラスの子たちもなぜか混ざっていたけど。


「だって、まさか全てのアトラクションがお化け絡みだなんて思ってもみないでしょう⁉」

「あのチケット見た時点で気づくべきだったな。ま、俺もまさか全部のコンセプトにホラーが付いているとは思ってなかったけど、徹底してていさぎよいよな」


 そんな潔さ、求めてない。ホラー遊園地という名前だったら来なかったのに。

 お店の店員さんの中には、包帯でぐるぐる巻きの衣装とか、血濡れのワンピース姿の人もいる。


「私は帰るよ。召喚獣で帰ったと先生に会ったら伝えて。今ならすぐそこにも学園の生徒いるから、合流できるでしょう? リタ、ごめんね」

「私も帰ろうか?」

「ううん。せっかくの優先チケットだもの。楽しんできて。アンブル領には遊園地ないしね」


 リタはその可憐な姿に似合わずお化け屋敷や夜道も平気。楽しみにしてるはず。

 そこに少し場を外していたクレトが駆けて来て言う。


「シャイン、お化けがない塔がすぐ横にあるそうだ。そっちに俺と行こう。ルカ、お前はリタと一緒にヨハンネスたちに合流してくれ」


 そういうと、リタたちが何か言う前に私の手を引っ張り連れ出した。

 完全に帰ってしまうよりはいいかな。私はリタにひらひらと手を振った。


「レストランはある?」 

「休憩所とかも揃っているそうだ」


 入園して左手にあるゴシックの塔。普通に重厚なイメージだけど、中に入ったらオレンジや黄色のパステルカラーの空間でホッとする。

 一階はレストランなどがあるし、思ったより広い。人があまりいないけど。

 上階はゲームの世界、地下が球技場となっていたので、降りてみるとボウリング場だった。


「思ったより遊べるかもな。ボウリングできるか?」

「うん。クレト、ありがと」 


 二人でボウリングをしたり、上階に行ってお菓子の掴み取りなど、小さい子供向けのゲームをして時間をつぶした。


 ひと気のない四階で、次はなにをしようかと物色しているときだった。

 急にクレトに腕を下に引かれてしゃがみ込む。口に人差し指を縦にしてるから、黙ってということなのだと思い、クレトの視線の先を追う。

 ゲーム機の陰から見えるのは遊園地には少し場違いな正装に近いいで立ちの男女。前世ならスーツで遊園地にいるという感じかな。

 カップルでお化け屋敷に来たのだろうけど、なぜこんなところにいるのだろう。

 小声でひそひそと何か話しているのも、普通のカップルとは雰囲気が違う。

 そこへまた別のカップルがやってきた。

 ん? カップルだけど、二人とも男性かも。ロングスカートだけど歩き方が女性らしくない。それか訓練を受けた女性兵士なのかな。


「持ってきたか?」


 小さいけどそう聞こえた。

 お互い持っていたキャリーと鞄に入っていたアタッシュケースを出して交換した。そして中を確認し、二言三言話しをしてから先に元のカップルが出て行った。

 残った二人は周りに人がいないからだろうか、普通の声で話始めた。


「遊んでいくか?」

「勤務中だ」


 やっぱり声が低いし、ここに来たのも勤務なんだ。

 二人は十分な時間が経ったと見たのだろう。階段から降りて行った。


 ドキドキする胸を押さえながら、クレトを見る。真剣な表情。そういえば、警戒しているはずの相手より先にクレトが気づいて隠れたのよね。

 まぁ、先ほどのカップルたちもまさか人がいるとは思わなかったのかも知れないけど。


「クレト、大丈夫? まさか知り合いだった?」

「……いや。だが、ここで見たことは口外するな」

「う、うん、言わない。ただ、クレトの生い立ちと関係あるのかなっておも――あ、ごめん! 忘れて、今の発言」


 思わず口をついた言葉にびくっと反応されて、急いで謝った。


「……シャインは変なところで聡いからな」


 それって褒め言葉?

 なんと言って返したらいいのか分からなくて、私は気づかないうちに握っていたクレトの手をぎゅっと握りしめた。

 その手を見ながらクレトは「大丈夫だよ」と笑った。


 一階で兄たちへのお土産を購入し、時間になったので先生たちと合流して学園に無事戻った。

 気になりすぎて、もやもやとした感情が燻るけど、クレトが話をしないわけはきっとあると思うから、時が来るまではそっとしておこう。他の生徒と笑いあう彼の姿を横目に見ながらそう思うのだった。

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