第64話

 冬休みが終わり、学園の寄宿舎にもいつもの騒がしさが戻った。

 私は冬休みに会えなかったニーズを呼び出して、一緒に空中散歩をした。王都のほうは少し雪が残っているところもある。学園の上を飛ぶだけでも楽しい。



 二つ年上の前等部三年生がスキーやボードの合宿で寄宿舎を空けた日――

 クラス対抗の仮装大会が始まった。

 

「シャイン、その目はないわー」

「目がいってるよ?」

「目、こわっ!」


 皆さまの意見が目に集中している。


「自分で付けたのが、目だけだったんだよね」

「だろうな」


 全員一致で納得している。


「わざとよ、わざと! このいってる感じがよくない?」

「よくねーよっ」

「レイバ領から被害申告が来るぞ」


 えええええ⁉

 レイバ領のために頑張ってるのに、なして?


「リタの出番だな」


 リタが呼ばれ、手直しされました。

 ぐぬぬ。

 あの目がいっちゃった感じがいいと思ったのにな。見るだけで楽しかったのに。

 ただの着ぐるみになってしまったよ。トロピカルフルーツ盛り合わせの着ぐるみなんて他のクラスにもないようだけど。


「始まる前に、間にあって良かったな。俺らに感謝しろよ」


 ルカ、なぜにあなた達に感謝を?


 しかし、ルカのドレス姿を見てるだけで笑えるのはいい。

 さすが鍛えているだけあって、すでに百六十センチを超える身長に筋肉がワンピース姿なのにかえって目立つ。

 首から肩への僧帽筋も少し盛り上がっているんだけど、わざとレースやリボンでさらに盛り、角度をつけた。腕の太さも強調して見えるように、半袖をパツンパツンのサイズに調節した。したのはリタだけど。私は指示出しだけ。


 腰は割と細くて、逆三角形の上半身が出来上がりだ。

 筋肉は付いて、恰好よく見える筋肉と、恰好よくは見えない筋肉がある。

 本当は腰の横に筋肉を付けたほうがごつく見えるのだけど、腰が細いほうが、肩と腕の太さが強調されるから、ルカに腹筋はしても、横の筋肉は付けないように気を付けてもらった。

 タンパク質も補給して、筋肉の栄養も指示。ま、そんなことしなくても、お肉ガンガン普段から食べてる時点でクリアーだったけど。

 

  そのミニゴリマッチョが着ているのが、レースやリボンをふんだんに使った可愛らしい甘ロリ風ワンピ。色はもちろん、ピンク。胸にはいっぱいの詰め物でばいんばいん。

 きゃー! 怖い~

 そこに、そばかすとスキッ歯の化粧。

 ブスメイクが映える。眉毛も若干つなげてみた。頬にも詰め物をば。

 短髪の赤毛には、三つ編みの毛糸を追加。

 小物はラブリーなウサギのぬいぐるみをトランクの上に。

 赤髪のアンナの物語にウサギのぬいぐるみが出て来たか? 知らん。

 歩くときはがに股。


「ルカの姿は夢に出てきそうなほどだね。キモイ完成度が半端なしっ」

「笑うとさらに怖さがますね」


 ルカがクラスの男子から益々人気だね。

 一方、クレトは――


 女の子たちの羨望の的になってた。


「クレト、端整だとは思っていたけど、まさかここまで儚げな美少女になるとはねぇ」

「シャイン、お前が頑張ったらダメなことが今回ではっきりした」

「えー、クレトに似合うドレス選びから化粧までどれ程私が頑張ったか、認めてほしいよぉ」

「他人の女装を頑張るなっ」


 にっこり笑ったら、怒られた。

 女神スタイルのストンと落ちる胸下切り替えロングドレスには、あまり胸は盛らない。肩は出しても、腕の筋肉はシフォン素材の袖で隠す。

 銀髪の長髪には艶を出して、花冠を斜めにセット。柔らかいイメージになるような彩で。

 少しだけ中敷きで背を高くして、歩き方も腰から歩き、膝を曲げないようにだけ指示。

 と言っても、フェンに乗る予定。


 雪国のオオカミと銀の美女コンセプトだからこその、女装。

「フェンリルがいるんだから、フェンを活かした設定を」ということで、すぐに決まったのだ。ご愁傷さま。


 実は一番頑張ったのがメイク。

 病弱メイクとナチュラルメイクを合わせたようなものにした。

 一見頑張っているように見える盛メイクより、さらに頑張っているのが実は完成度の高いナチュラルメイクだってことを知らない男性は多いらしいが。

 ベースから数種類使うからね。色を合わせるだけでも結構大変だったりするんだよ。

 それに、高度な技術でメイクしてないように見せなきゃいけない。すっぴんに見えて実は手間暇かかっている、それがここで言うナチュラルメイク。

 ふぅ。夏じゃなくて本当に良かった。メイク崩れなんて泣くよ?


 リタは、もういるだけで天使だからね。妖精と天使の区別がつかないレベルで可愛い。

 男子がクレトの完成度に集まらないのは、リタたちのお陰。

 たちというのは、女の子たちは結構可愛く収まった。

 私以外……。


「シャインがこんなにお化粧するのが上手だなんて意外ですわ」

「本当。王宮から専属侍女の話が来てもおかしくないですわよ」


 えへへ。

 ただ、前世のものまねメイクを真似ただけなんだけどね。 

 白虎が有名な領地なら、白耳と尻尾を可愛い衣装に合わせたコスプレ風の衣装。

 かわいいおひげを描いたり、カントリガール風もアンニュイな感じで仕上げたりと、特性を生かしつつも可愛いらしさの追加は忘れない。女の子はみんな可愛いもの。


「動物だったから、着ぐるみしか考えてなかったけれど、こんな可愛い衣装でも、しっかり何の動物か分かるところもいいですね」

「そうよね。トラならセクシーな感じ、白テンならキュートになるなんて、五組の動物着ぐるみとも被らなくて、いいわよね」


 各領地の動物セレクトも上手くいったようだ。


「髪型はリタが器用だからね」

「そうね、リタが器用なのは知っていたけど、早くて丁寧よね」


 クラスの女生徒たちが嬉しそうで私も嬉しいよ。

 ゲルマン民族北欧系の小学四年生の美少女レベルを今回とくと思い知った気分だ。化粧映えするわー。

 これで、演出も上手く行ったら、『王宮ご用達お菓子の詰め合わせ一年分』は夢じゃないはずっ! 


 

 屋外を行列で周り、最後の舞台は、講堂へ。

 審査員は、一年生全員と先生方。

 寒いはずの屋外も、生徒の熱気で溢れている。

 大名行列のように、各クラスまとまって歩く。


 結構どこのクラスも本格的だなぁ、と横目でチラチラしつつもどこからか聞こえて来た「八組なんかすごい」の言葉に頬が緩みますなぁ。


「おい、八組バラバラだってよ」


 え? すごいって良いよ、じゃなくて、悪いほうでのすごい?

 少し心配になってきたころ、講堂についた。



 十組から五分以内で舞台で披露。

 私たちは八組だから、三番目。

 十組は、小学生の演劇という感じで、一つの物語を分担してた。

 九組が始まったので、八組の私たちは舞台下で待機。


「ドキドキするよぉ」

「着ぐるみ姿で言われてもな。震えてもいいぞ。誰も気づかないから」


 ルカ、酷くない?

 ……ぷぷぷ。だめだ、ルカの姿だけで笑える。


「シャイン、笑ってるだろ。震えてるぞ」


 え? 震えても分からないんじゃなかった? 分かるの?


 八組が呼ばれる。

 先ずはクレトがフェンリルに乗って登場。クレトの美女っぷりにか、沸く場内。そこですかさず中身は少年だとアナウンス。ざわめくのが分かる。

 ふふふ。驚け、おどろけ。次はもっとだお?

 対比となるルカが、がに股で登場し笑いを取ったところで、次々と全員舞台に上がりそれぞれの領地のアピールをしていく。

 私は後ろで踊ったり走ったり、頑張りました。

 あっと言う間の五分間だった。


 全員で動物の着ぐるみを被っていたりすると、確かに統一感はある。

 八組は、それぞれの領地代表だから、統一感は全然ないけど、笑いだけは一番あったかな。主にルカのお陰で。


「八組の着ぐるみ、おかしかったよな」

「あの着ぐるみはないわー。走るわ、変なダンスは踊るわ、ナレーションはしてるわ、あんなの見たことないな。誰だよ、考えたの」


 ええっ⁉ 私ぃ?

 着ぐるみの中、肩身の狭い思いで冷や汗を流す。


 最後を飾る一組は凄かった。

 全員【浮遊】を使っての登場。

 神話仮装らしい魔法に、飾り付けられた飛馬フライ・グラニが神聖な雰囲気で圧倒された。


 結果発表はすぐにある。


 私たち八組は――


 二等だった……ぐすん。

 もちろん、一等は一組。王道の一位。

 あんなに頑張ったのに。私のお菓子詰め合わせがぁああああ。

 二等の商品は遊園地チケット。お化け屋敷が有名らしく、配られたチケットもお化け屋敷の写真と絵で盛られている。

 ホラーの思い出がよみがえる。いらないよ?

 一人しょんぼりしていたけど、クラスの皆は嬉しそう。


「今度の休みに皆で行こう」

「いいな。全員参加だ」


 勝手に全員参加に決まっている……。

 まさかの罰ゲームで終わるとは思いもしないクラス対抗の結末であった。

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