第63話
一番寒いと言われる大寒の日、ビワの葉を採りに山に行く。
と言っても、大寒は前世の記憶。一月二十日頃であればいいだろうと、雪が降らない天気のよい日に出かけた。降っても積もることはないけど。
大寒に採るビワの葉が一年中で一番生命力が旺盛でよいとされている。
父用の育毛剤のために。
ポーションまでは作れなくても、エキスや入浴剤を作ろうかなと思ったのだ。
果物のビワは初夏に食べれるけど、花は冬に咲く。
思い出したから、作るだけ。
ルカとクレトと一緒に出掛けた。
スズメバチやアシナガバチの巣を駆除する依頼を受けたし。
冬を越すのは女王蜂のみ。その間に巣を壊せば、次の年、女王蜂がいても小さな巣から始めることになる。
町や村に近いところの巣だけ駆除する。依頼を受ける際に、巣のあるところは教えてもらえるし、私たちは魔法で駆除するからそんなに危険ではないけど、たまに巣の中で働き蜂が生き残っていると襲われることもある。
秋は女王蜂が生まれる時期なので、警戒されて危険が高まる。巣を見つけても、なるべくそのままにしておいて、冬に巣を駆除するのだ。
巣を作り始めた五月くらいも駆除の時期ではある。
言われていた三つの巣の駆除はすぐに終わった。風魔法で一人が落としたところを、火魔法で焼き払う。土の中にあるものは、土魔法で掘り起こしながら火魔法で焼き払う。
ビワの葉の採集は私が彼らから買い取る。
「ビワの葉も薬草になるんだな」
「うん。ある国では大薬王樹とまで言われていたからね」
前世だけど。
葉も種も根も薬になる。種は完熟しているものを使うなど気を付けないといけない部分もあるけど。医者いらずと言われたビワの木。
喉が痛いときや、火傷などにも重宝する。
アミクダリンという成分に解毒作用がある。それが脱毛を防ぎ、血行促進させ、また髪の成長を促す成分も含まれるので、育毛効果がある、はずだ。
「ビワはおいしいよな。ビワのゼリーが食べたくなる」
「ルカは寒くないの?」
「シャインがくれた服と手袋や靴下のおかげで全然寒くないぞ」
私も同じ【体温調節】付きのものを付けているけど、顔は出ているし、吐く息は白いし、やっぱり寒いから、さすがに冷えたゼリーを食べたいとは思わない。
手袋や靴下も、ポーションに浸すことで、簡単に魔導服ができるようになった。
研究は任せたけれど、実験は趣味だから続けている。自分が必要なものに限るけど。
「明々後日には王都か」
「過ぎてみると一カ月早かったね。クレトもルカも休めた?」
「ま、冬だからな」
頷く二人。家族も二人と一緒にいれて嬉しかっただろうしね。
私もポーションの研究がないおかげで、ダンジョン潜りくらいだったかな。
「この間のダンジョンでは魔石がもったいなかったね」
「火の魔石だけは無事だったけどな。やっぱりシャインの火の複合魔法は威力が強すぎだ。もう少し制御できるまでは使用禁止な」
ルカから使用禁止まで出された。ま、しょうがない。
【
蜘蛛や蜂など虫系の魔物が戦っているところに遭遇してしまい、慌ててしまったのもあるけど、五十体以上いたのに。
魔力はごっそりと使うわけだから、コントロールできたらいいのだけど。体感から魔力の半分は使ってしまう。
「シャイン、確か土と光の複合魔法も使えたよな? 錬金術の時はちゃんと制御できるのに、なぜ火のときはできないんだ?」
「あり? そうだね。何でだろ……」
私はこてりと首を傾げる。
「土魔法のほうが制御しやすいんだろ、シャインにとっては」
「威力と制御力はまた別だっていうものな」
クレトが鋭い。私は土のほうが制御しやすいのか、ほほう。
一番制御しやすいのは水だと思うんだ。その次が土なのかも。
確かに風と火はちょっと苦手かな。火魔法の威力はあるんだけど。
「面白いね! 制御力と威力って正比例しないんだね!」
にこにこと分かったことが嬉しくて大声を出したら、ルカに怒られた。
「シャイン、煩い。そんなの最初で習うだろ」
「え? 知らないよ」
「あー、シャインは、学舎に行ってないか。独学だったから抜けたのかもな」
「私、風と火の制御が下手みたい」
「……そうだな。威力を出す方に今まで集中して、制御ということを考えてなかったのもあるかもな。あとは、魔力量が急に上がることで制御がさらに上手くいかなくなったと言うことも考えられるか」
そういうとクレトは下を向いて何か考えているようだ。
「シャインは人に魔力の流れとか教えられるのに、それともまた別なんだな」
「そうだねぇ。魔力の流れって体の中だけでのことで、間接的には関わってくるだろうけど、また違うのかもね。自分でもよく分からないや。ビワの葉はもうこのくらいでいいかな。後で清算するね」
「おう」
ルカがにかっと笑って答える。
「シャイン、少し魔法の練習をしてみるか?」
「ここで?」
「もう少し先のところが開けているからそこでどうだ?」
「うん、いいよ。ルカもいい?」
「もちろん」
少し開けたところに来たところで、ルカが鋭く小声を出す。
「イタチだ! 俺はイタチを狩るからお前たちは魔法の練習をしてろ。何かあればこれで呼ぶから」
耳飾り型の通信機をさわりながらルカが言い、駆け出した。
「はやっ」
「駆除の依頼があったからな。どこかの屋敷に住み着いたっていう依頼だったけど。ま、ルカなら一人でも大丈夫だろう。ほら、こいよ」
何をするのだろうと、言われるまま、クレトの前に立つ。
「あそこの岩を的にして、火の複合魔法を少しの威力で放ってみろ。俺が後ろで制御かけるから」
「え? う、うん。やってみるね」
どうやって制御をかけるのか、分からないけど、とりあえず、言われたとおりに詠唱する。
「燃え上れ! 【
詠唱する途中で前に出す腕に手を添えられ、後ろからのクレトと一緒に魔法を放つような感覚。
岩だけが炎に包まれ、半融解され崩れ落ちる。今までの広範囲の【灼熱】ではなく、一点集中された感じだ。力も抑えられているけど、範囲が狭い分、岩も融解された。
水で範囲と力を制御された? 自分の手を眺める。動く魔力を感じた、ような。
後ろを振り向くと、クレトが満足そうに微笑む。
「水魔法? どうやって私の魔法を制御したの?」
「お前と俺の水属性は合性がいいらしい。干渉できたのはたまたまだろうけど。今の感覚で次は一人でやってみろ」
言っている意味が分からない。
でも、この感覚を忘れないうちに習得したくて、「分かった」と答え、隣の岩に【灼熱】を繰り出す。
「燃え上れ! 【
隣の二つの岩まで巻き添えにして崩壊し一部融解された。さっきより三倍は範囲が広いけど、今までよりはずっと狭い範囲を狙える。
「できた! 一人でも制御できたんだよね⁉」
「そうだな。俺と一緒のときよりは制御が難しいのは仕方ないけどいい感じだな。魔力は大丈夫か? ポーション飲んだ方がよくないか?」
「うん、ありがとう! でも、制御できたから飲まなくてもまだ大丈夫。クレトどうやったの? 水属性って言った?」
「説明は難しいんだ。もしかしてって思ったらできただけだから」
「そういうこと、私よくあるー」
『駆除完了。そちらに向かう』
ルカも終わったようだ。
私は二回、一人で練習をした。クレトが後ろにいると安心して【灼熱】を使えた。
冒険者ギルドで依頼は完了し、私はビワの葉を二人から買い、三人で洗浄も済ませた。
「ポーションの材料にするのか?」
「しない。今回は全部お酒に漬けてみるね。初夏にはできるから、おすそ分けするよ」
中瓶に八個もできたから。葉っぱが大きいからね。
ポーションならすぐに使い物になるけど、気が乗らない。ポーション向きでないのか、他の材料が足りないのかは分からないけど。
普通の育毛剤のほうが効果はあるかもと思いつつも、これはこれでいいかと思うことにした。
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