第62話
父の願うポーションとは何だろうか?
そう思ってすぐ浮かんだのは育毛剤だったのだけど、利益のことなら、別のポーションだろうかと悩む。
王都の屋敷に、変な形の兜もどきがあった。
執事に聞いたところ、それは頭皮マッサージ器という代物だと判明した。
他にもたくさんの化粧品があると思ったら、それが父の育毛剤だと知り、驚いたものだ。
作れるなら作りたいけど……。
確か男性ホルモン過多でも禿げるのよね。でも、男性ホルモンが少し多めなのは一概に悪いとは言えないし。
そういえば、禿が女性にもてるという話しを聞いた気がする。どこだったか……うーん、前世の外国だったのかなぁ。
ダメだ。育毛剤を作りたいという意欲が全然、まったくわかない。
禿げてて何が問題なんだろう。父はすでに結婚してて子供も大きいし、義母との関係も良好そうだし。
もし、兄たちが結婚前で髪が薄くなるのに悩んでいたら、私も頑張るのだろうけど……。
ぽいっ。
私は、育毛剤ポーション作りは、作る前に放棄することにした。
父の髪が薄かろうが、ふさふさだろうが、私にとっては大好きな父だから。という言い訳と共に……。
シャイン命名、イズンパン祭りのためのパン作りを今年はルカとクレトにも手伝わせている。去年はおすそ分けしたけど、今年は自分の食べる分は自分で作ろうねと集合をかけたのだ。
「仮装パーティは何にするか決めた? シャインの意見で各地の特産品やキャラクターを仮装するってことに八組は決まったでしょう?」
「あー、まだ。リタはどっかの領の風の妖精だったよね?」
冬休み開けてすぐに、クラス対抗の仮装パーティがある。私はパン生地をこねながら答えた。
普通は動物だとか北欧神話の神々に仮装したり、歴史上の人物や有名人、物語の登場人物に仮装するらしいのだけど、同じことをするだけだと、潤沢な資金のあるクラスには敵わない。
海賊を仮装しても、やっぱり恰好いいほうが人気があるわけで、決して本当の海賊がボロを纏っているからとそれを真似しても、学園の仮装パーティで人気がでるわけじゃない。
だから、各地で有名な動物や妖精、特産品を模倣したキャラクターをするのはどうかと提案したのだ。その領地の生徒から人気をとろうと言う魂胆だ。
十八ある領地を割り振って、後は重ならないようにする。
リタはその可憐な容姿から、どこかの領の風の妖精が似合いそうという誰か男子の発言ですぐに決定した。
「アンブル領なら、イズンパンを持つイズン女神でもいいけど、それだと一組が神話仮装だから、イズン女神とかぶるかな」
「シャインがするなら女神よりは、イズンパンの被り物だろ」
「ルカ、私はアンブル領じゃないの。残念でした」
「シャインがイズンパンって言うからだろっ」
「まだアンブル領の出し物も決まってなかったから、気になっただけよっ」
「はいはい、喧嘩しないで手を動かそう。決まってないのはルカとシャインだけだからな」
止めるクレトの言葉で、ルカと目を合わせ、マスクの下でため息をつく。
「ルカもさ、クレトと一緒に女装したら? 確かルカの担当領地ビフレスに『赤髪のアンナ』っていう有名な物語あったよね? 赤毛だから、ぴったりだよ? 最初は男の子と間違われてたしさ」
「シャイン、それアンナが醜少女って知ってて言ってるだろっ。クレトは銀髪の美女役で、俺はそばかすだらけ、スキッ歯のブス役かいっ」
「やっぱりさ、インパクトも大事だし、ここは美女とブスの対比で勝負だよ! それも本当は男子だから、誰の心も痛まない!」
「ルカ、俺もおまえが女装するなら、仲間がいて嬉しい」
「クレトまで、やめてくれよ」
「ルカ、アンナって最後は覚醒して、ビフレス領地と虹の橋を救うんだよ。『放て! 私の虹色ライトぉ!』 恰好よくない?」
「……考えてみてもいいな。虹色の花を撒いたりする演出をしながら登場ってのもありか」
ルカはパン作りの手を止めて、考えこんでる。
すでにルカの頭の中は、『赤髪のアンナ』役でいっぱいのようだ。
ルカが変わらずチョロすぎた。ルカはこうでなきゃね。
「シャイン、『赤髪のアンナ』の最後ってそんな話だった?」
リタが私に尋ねるから、人差し指を口に当てた。ビフレス領地には人口の虹の橋もあるんだから、構わないはず。
「一等賞品の『王宮ご用達お菓子詰め合わせ一年分』のために友達を売ったな……」
私の耳元でポツリとこぼすクレトさん、女装仲間が欲しいあなたさまも同類ですわよ? ジト目で見上げるとふぃと顔を背けられた。
私はレイバ領担当なんだよねぇ。
ランバートさまにテレビ電話で聞いてみようかなぁ。
結果――
――トロピカルフルーツ着ぐるみシャインの出来上がり。
ルカを女装に落とし込んだら、自分もルカの言ってたイズンパンの被り物と変わらない着ぐるみになった……。
まんまるな頭上にはパイナップルのヘタが髪代わりに。
胴体はオレンジ風。
胸にはスターフルーツのパッチワーク。
お腹にはドラゴンフルーツの腹巻。
名前はトロピカレイバーちゃん。
前世、どこかのご当地キャラクターを思い出します。
ラム酒の妖精風でもいいと言われたけど、酒瓶姿はさすがに辞退した。他には火山とかもあったけど、どれも似た感じなら、ちゃんと動ける被り物を目指す。
冬だから、着ぐるみでも暑くないし、顔が出ない分、恥かしさは全然なし。
女装する二人より、自分の被り物のほうが断然いい気がしてきた。
焼きあがった上がったイズンパンを試食しながら、私たちは衣装と小物、そして全体の演出を話しあった。
魔法を使っての演出なんて、ライトアップとか炎を出したりだろうけど、一歩間違って火傷してもいけないし、別の演出を考えるのはどうだろうとなったけど、それもそれで案が出ないまま、終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます