第61話
「我が家のパスタグラタンはやっぱりおいしいね。我が家の味が私にはしっくりくるよ」
「そう? 昨日の残りのシチューを使ったのだけどね」
母さま、今日帰ってきた娘に、褒めたつもりの料理が、まさかの残り物再活用だなんて情報は要りませんよ?
それでもおいしくもしゃもしゃと食べているとババさまから言われる。
「冬休みなのに、結構忙しいんだね。それにしてもランバートさまがねぇ」
約一カ月間の冬休みに入り、私は寄宿舎と別れを告げ、懐かしの我が家に戻った。
兄やニーズと別れるのが辛くて、王都の屋敷に行こうかとも思ったのだけど、こちらに帰ってきたら帰ってきたで、母たちと一緒にいれるのが嬉しい。我ながら現金だとは思うけど。
ニーズはもしかしたら、フェンのように、小さくなら召喚できるかもしれない。ただ、フェンと違って、小さくなって犬と勘違いされるようなことにはならないから、このアンブル領で召喚していいものか悩んでしまう。
トネリコの木は庭に植えてもらっている。本当は春が植え付けの適期だけど、秋でも王都よりは温暖な気候だから大丈夫だろうと植えた。春になったら、苗木を森にも植えたいと思っている。
庭のトネリコは、薬草が立派に育ったり、自生してくれるようになればという期待を込めて、職人に頼んだ。
ババさまが言うランバートは、あの量産の件だろう。
ババさまにはもちろん、手紙で先に知らせてはあったけど、まだ量産のための研究中だし、ババさまが発案者ということにしてもらうためにも、詳しく話し合う必要もあったから、帰省してすぐに話してある。
「ランバートさまが量産化したいというのは意外ですか?」
「いや、ランバートさまなら領民のことも思いやる子供だったしね、量産化はいいんだが、シャインとは年も二つ違うからそこまで接点はないだろうと思っていたからね。パーティ仲間だったマリオたちとは冬休みは一緒に過ごすのかい?」
「え? マリオたち? どうでしょ。ダンジョンに潜るけど、彼らは彼らのしていることもあるし、冒険者を続けていてもすでにパーティは組んでいるだろうから、冬休みの間だけの臨時パーティに来てくれるかなぁ」
量産化のことかと思ったら、以前のパーティ仲間だったマリオたちのことを聞かれた。
母もよく行動を共にしていたマリオたちが気になるのだろうか。重ねて聞かれる。
「マリオたちには会わないの?」
「王都のお土産は渡します。冬の間の臨時パーティはルカとクレトだけど、ランバートさまも時間が合うときには護衛のホセと一緒に参加したいと言っていたし、マリオたち次第かなと」
イバンは鍛冶屋見習いを本格的に開始しているだろうから、きっと参加しないだろう。土の複合魔法スキルか、錬金術に特化したスキルを持っているようなことを言っていたし。
イバンが持っているスキルが、光と土の複合魔法なら、錬金術習えるかな?
イバンに習おうか。イバンパパでもいいし。
「ごちそうさま。おいしかったぁ」
「シャイン、量産化については後でお茶を飲みながら話をしようか」
「はい、ババさま」
魔導服の量産化については、中級ポーションを使うこともあり、父とテレビ電話で通話しながらの話し合いとなった。
そこで分かったのが、ホセが薬剤系のスキルを持っているということだった。
父がホセのスキルを把握していたのは幸いだった。
「ホセが薬剤系のスキルを持っているなら、ババさまの発案ですから、私が作成してホセに丸な……お願いしてもいいということでしょうか?」
「ホセにランバートと話をするようにと?」
「話というより、ホセには窓口になってもらえると嬉しいのですが。フェルミン兄さまも一緒のほうがいいでしょうか」
「量産化は大きな事業になる可能性もあるんだよ?」
「大きな事業はまだだと思うんです。私が作れる量産化ポーションには限りがありますし、学園にいるから材料が簡単に手に入りますけど、卒業後はまだ分かりません」
材料の話を聞いて、ババさまが言う。
「その材料のために、トネリコの木を移植したんじゃないのかい?」
「気になっただけで、確証があるわけではないのです。あと、ポーションはできていますが、一瓶で何着の魔導服が作れるのかなど、研究がまだ残っています」
「残りの研究というのが、出来上がったものを調べることなら、ランバートに任せもいいと思うが?」
はっ!
なんてことでしょう!
研究の部分こそ、丸投げしてもいいの?
秘密にしないと、と思っていたから、全て自分でしようとしていた。
「では、丸投げしますっ」
思わず声が大きくなったら、二人に苦笑された。
「話し合いは、ランバートを含むレイバ伯爵と、私とババさまでするかな。シャインがいると、顔に出やすいし、利益を考えないところがあるからね」
うぇ? 私、利益は考えてますよ? お金はいっぱいあったほうがいいもの。
「一瓶でどれくらい作れそうなのかい?」
「えっと、薄い生地の半袖に【体温調節】機能でしたら、百着以上は可能かと」
「ほう? 元は中級ポーションから作ったと言っていたな。利益は十分出そうだ」
厳密には中級ポーションではなくて、ガンマポーションたちだけど。
「あまり高価にしないでくださいね」
「安価で量産、そのために作ったのだろう? そこらへんは考えるから任せなさい。後、王都でのガンマとデルタポーションの販売経路はもしかしたら、ホセが役に立つかもしれない。ホセの母方は確か王都出身の貴族だったからな」
利益を考えていると思いつつ、高価にしないでと言った自分に、こういうところが、勘違いされているのかなとふと思ったが、ホセの母親が王都出身でポーション自体の販売を王都でできるかもということに嬉しくなる。兄たちにも臨時収入が入るのではないだろうか。
それに、私は実験だけに没頭できるということ?
「任せます! まるっと全てお任せいたします!」
「では、シャインは次の新しいポーションのことでも考えているといい」
にっこり笑ってくれるお父さま。
まさかの次を要求されちゃってるの?
えっと、それは禿にいいお薬とかでしょうか? いや、少し薄くなってきているだけだから、まだまだ大丈夫でしょう。
私は、実験だけを考えればいい嬉しさと何を期待されているのかはっきりしないことで少し悩みながら、祖母と父に後は任せて二階の自室へと足を向けたのだった。
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