第12話

 町の広場で、数回ケイドロをして遊んだ後、少し休憩がてら話をしていた。


「探知能力とか使えたら便利なのになぁ」

「あっても、遊びでそれ使うの、反則な」

「魔法があれば、遠くにいても捕まえられそうだな」

「魔法の練習始まったしな」

「本当?! 教えて! 私まだウインドしか知らないの」


 魔法の練習が始まったと聞いて、思わず声を大きくする。ルカたちは顔を見合わせながら頷く。


「まぁ、俺たちも復習しないといけないしな」

「やったぁ~」


 早速、風魔法を教えてもらう。

 母に風魔法の基礎は習った。風を起こすだけっていう、まだ力の加減も確かではないので、埃を舞い上がらせるくらいだけど。


「あそこの木を的代わりにして、ぶっ放してみろ」

「風を出すだけじゃないの?」

「そうだ」

「……」


 ぶっ放すって言うから、中級魔法でも習ったのかと思ったよ。 

 ルカが見本を見せてくれる。手を揃え、腕を胸の前からサッと前にだし叫ぶ。


「吹け 【疾風ストーム】」

「おお! 葉っぱが揺れた!」


 的の木ではなく、隣の葉っぱだけど、大きく揺れた。ルカ、すご~――


「切り裂け 【風刀エア・カッター】」


 風刀ですと?! 一斉にその声の主とその先を目で追う。

 ガツッといい音を立て木の真ん中にクッキリとした傷が入っていた。


「うおおおおおお、風刀だ!」

「すげー! クレト、お前中級魔法使えるのか?!」

「……木を的にしろって言うから」


 周りの熱い歓声に近い声と、少しタジタジのクレトが出す温度差がすごい。


「風刀使えたら、材料の粉砕できるから私もしてみる~」


 クレトにみんなが色々と聞いて楽しそうにしているので、私はちょっとだけ離れて一人練習する。

 隣の木を目標にしよう。


「切り裂け! 【風刀エア・カッター】」


 前に出した手から魔力が少し多めに抜けるような感覚と共にシュッという音が聞こえた直後、ガッと音がする。

 ざっくりと切り込みが木の横に入った。うっ、惜しい! ま、ギリギリ木には当たったから良しとしよう。


 あっ! 材料の粉砕でこれ使ったら、材料がなくなる。それどころか、器まで木っ端みじんだよ。 うぅぅ、だめだ、威力が強すぎる。制御方法があるのだろうか。それとも、粉砕の呪文は違う?

 ふと、顔を仲間たちに向けると、こちらを見てポカーンとしている。私は首を傾げる。


「さっき、教えてくれって言ってなかったか?!」

「おまっ、疾風ストームどころか、風刀エア・カッターってなんだよ!」

「中級魔法使ったぞ!」


 わぁわぁ煩い。クレトが使っていたよね? 


「クレトの真似しただけ、だけど? 何か間違った?」

「真似しただけ、じゃねーわっ」

「よく分からないけど、私がしたいのは粉砕の細かくする風魔法なの。呪文別にある? それとも、やり方を変えるの?」

「知らんわっ」

「こいつが枠外なのは今に始まってないからな」

「そうだったな、こいつはだいぶ違うから、気にするな」


 おいおい、気にするよ、気にしてよ。

 そうだ! 違うってのがいいことだって知らないのね、君たち。むふふふ、私が教えて進ぜよう。


「あのねー、違うっていいことなんだよー。考えてみたまえ。全てが私ばっかの世界。嫌じゃない? みんな違って、みんないいんだよ!」


 どうよ?


 少しの沈黙の後、ルカが腕を組みながら言う。


「いや、それ、お前ばっかの世界は嫌どころか地獄だと思うけど、すっげー美少女で優しくてスタイルもよくて何でもできる人、だらけとかだったら別にいいんじゃね?」

「お、いいな!」

「んー、でも自分も美少女で相手も同じ顔かぁ。飽きる?」

「自分と同じ顔を好きになるってのもなぁ」

「そもそも、女ばっかだったら、子供生まれないし」


あ、あれ? なんか、違う方向性に話が発展してるよ?!


「シャイン、なんでお前ばっかの世界なんてのを考えたんだ? そんなの嫌に決まってるだろ。みんな違って、みんないいってのは、そうかも知んないけど、そもそものシャインばっかってのは、考えるだけ無駄じゃないのか?」

「魔物がね、私だったら、嫌だなって」

「はぁ?」


 ルカが質問してくれたけど、うまく言えない。大体、私ばっかの世界が嫌に決まってるって、ひどくない? まぁ、私もそうは思ったけどさぁ。


「魔物が違う生き物なんでしょう? 私も枠外で違うんでしょう?」

「ま、そうだな」


 うんうんと頷いている。あ、そこは否定しないのね。


「魔物って違うから討伐されるんでしょう? 私は?」

「人間と魔物は違うだろう」

「え? だって、私は人間の枠外なんだよね? それって人間に入ってるの?」

「一応入ってんじゃね?」


 一応かぁ。それでも入っていることを喜ぶべきか。


「ぎりぎり人間だから安心しろよ。てか、くだらないことで悩んでんじゃねーよ」

「いや、喜んでたよ?」

「はぁぁ?」


 あ、違った。喜んでいたのはそこじゃない! 悩んでもいなかったけど。


「シャインは置いといて、魔法の練習しようぜ」

「だな。クレト、教えてくれよ」


 また、クレトのほうへ集まっていく。

 一人ルカが横にいて、ポンポンって背中を叩いてくれる。


「お前が言葉足りなかったり、変わってるところもあるし、枠外ってのも事実だけどな、お前がうらやましい部分もあいつらあるんだよ。俺たちと違うってのは、そういうことだ。気にするな」

「うん、ルカ。そうする」


 よくは分からなかったし、前半は反論したかったけど、励ましてくれてるのが、なんか嬉しくなって、ルカにぴょんと抱きついた。

 すんごい嫌がられたけど……。



 風魔法は結局、疾風ストームも覚えて、コントロールの方法も感覚的にだいぶ分かってきた。やっぱり仲間と一緒にすると上達が早い気がする。

 みんなだって、風力が弱かったり、横にそれるとか様々だけど一応風刀エア・カッターを打ち出せていた。


――誰よ、私を枠外とか言っておいて、自分もちゃっかりできてるやつ! 激おこぷんぷん。だお?


 私は少しだけ魔力をこめて風刀エア・カッターを出す方法も覚えたけど、これの繰り返しが粉砕なのかまでは分からない。

 風刀エア・カッターで、何度も色々な方角から器を傷つけずに材料だけ粉砕するのは、結構なコントロールが必要だと思うんだ。


 マリオが疲れたって言ったら、ピーターが「魔力切れを起こす前に、これくらいで終わろう」というので、自分で作った魔力回復ポーションが腰に携帯してあったことを思い出した。

 私は全然疲れた感じがしないから、マリオにあげる。一つをイバンとルカの三人で分けて飲んでた。ピーターとクレトは飲まなくても大丈夫らしい。

 子供だからか、三人で飲んでも、かなり魔力は回復したらしい。


「お前、あまり日焼けしないのか?」

「え? するよ。オリーブオイル塗ってるけど」

「オイル塗ったら油焼けするだろ」


 クレトが唐突に日焼けのことを聞いてきた。一緒にいるのが男子ばかりだからかな、みんな結構黒い。その中では白いのかな。クレトも白いから気になったのかなぁ。


「マリオ、油焼けはね、不純物が入ってるとき、なるんだって。百パーセント天然のは少しだけ日焼け止め効果あるよ。反射させるし」

「うちの母ちゃんもつけてるぞ」

「だよね? 後はシルクの布かなぁ」

「あー、シャインがほっかむりしてるあれな」

「たまに鼻の下で結んでるのがおかしいよな」


 ゲラゲラ笑いだす仲間たち。


「鼻の下で結ぶのは埃が立つときだけだよ! 普段はあごの下で結んでるよ」

「他の人はシルク布を巻き付けるように綺麗に巻いたりしてるのに、お前だけだろ、あごの下で結ぶとか」


 そんなこと思ってたの?! 知らなかった!

 帽子もかぶるし、別にほっかむりばかりしてるわけじゃない。日差しが強いときに家族から持たせられるから仕方なくつけてるだけなんだけどなぁ


「巻いてるだけだと、走ったらほどけるんだよ」

「普通の女は走らねーし」


 こ、これは話題を変えねば……


「クレトこそ、オリーブオイルはいいのがあるでしょう? オリーブ工場されてる爺さまは塗るように言わない? クレト白いけど、塗ってないの?」

「……塗ってる。日焼け止め効果があるとは知らなかった」

「日焼けして赤くなったり、火傷にもオリーブオイル塗ったらいいし、うちは親がアロエでパックしてくれるよ」

「シャインって、やることも言うこともなんかババくさいよな」

「そうそう、根っことか探したり」


 え? だ、誰がババくさいの?! 臭くないよ? 婆じゃないよ?

 驚きすぎて、ピキッと固まった私のことを散々に言ってくれる男ども。だんだん腹が立ってきて、足でダンッダンッと地団太を踏み、声をあげる。


「お菓子あげようと思ったけど、もう知らないっ!」

「今、菓子持ってないだろ」

「家にあるもんっ。みんなずっと羨ましがってたらいいんだ。んべーっ」

「菓子なら俺んちにもあるぜ」

「え、だってさっきルカがみんな私のことうらやましいって。それってお菓子いっぱいあるからでしょう?」

「……」


 いや、まぁ、お菓子だけではないかもだけど。貴族が羨ましいって言われたこともあるし。でもやっぱり一番はお菓子をいっぱい父親からもらえることだと思うの。

 あ、お菓子のこと思い出したら、顔が緩んできた。


「お腹すいたね。うちに来る? お菓子またもらってきたんだぁ」


 にこにこと笑顔で聞く。ん? みんな表情が変だよ? 嬉しくないの?


「はぁぁ……。ま、こいつが明後日方向にずれてるのはいつものことだ。さ、行くぞ」

「おお」


 ゾロゾロと私の家に向かっている。結局食べるんじゃない。

 素直に喜んだらいいのに。


 ――三十分後、もらってきたお菓子を彼らに全て食べられ、三レベル激おこから一気に十三段活用「スーパーノヴァギャラクシーエンジェルフレイムシンセサイザァァァァァァァ」まで駆け上がることをこの時の私はまだ知らない。

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