第13話

「はぁぁ……ババくさ、ババくさい……」


 花の根を持ち、呟いてしまう。

 見たら思い出した、仲間たちの超暴言ことば

――シャインって、やることも言うこともなんかババくさ……


 花は綺麗なのになぁ。花だって、根っこがあるから美しく咲けるんだよ?

 おおぅ!? うんうん、そうだよねぇ。花の根っこがババくさいわけない。くささがあっても、ちょっとだよ。きっと。

 ポーションに入れたら、花なのか、根なのか分からないし。……違うな、何の植物かすら分からない、なんなら植物かさえもあいつらは気づかないに違いない!


 【シャインの気分は2上がった】


「この調子で、ポーションレベルを上げていこう~」


 私は手をグーにして、天に突きさす。

 花の根っこの乾燥させたものが結構たまり、粉状にしたものを初級ポーションに混ぜていくことにする。


「まずは、初級ポーション二種類を準備しよう」


 昨日、このために作っておいた小瓶に入った治療のポーションを二つ小鍋に入れる。これを最後の温度の状態まで人肌程度に魔力で温める。


「百合の根の粉末を投入ーっと」


 百合の根、一つ分の粉をばささっと鍋に入れ、魔力を込めながらかき回す。

 ぱぁああと淡い新緑の色を帯びた光があふれ、混ざったのが確認できる。


「!……何これ! 増えてる? 色も濃いよ!」


 そこにあったのは、だいぶかさが増えたポーション。のぞき込んでまじまじと見いってしまう。

 間違いなく、量が増えている。


「ええっと、とりあえず、小瓶に移してみる?」


 独り言すら、疑問形で自分に問いかけるようになってしまうけど、倍どころではない量の増え方にドキがむねむねする。

 そぉっと小瓶にこぼれないように移していく。


「一、二、、、、十! 十個だ! 二個が十個に増えたよ! 五倍?!」 


 昼の太陽の光を浴びて綺麗な若草色を放つポーションが増えた。

 確実に色の濃くなった小瓶を一つ持ち、お店にいる母のところへ向かう。


「母さま、このポーションなんだけど……」

「あら、見ない色ね」


 母は一目で、この店で売っている品とは色が違うことを言い当てる。

 確かに、元の若芽わかめ色から若草色くらいにはなっている。早春の芽吹いたばかりの緑色から少し育った若葉の色へと。


「初級ポーションを少し変えたの。改良になってると思う?」

「シャインが作ったの?! まぁ! これが初級ポーションですって?!」


 母は、大きな声を出した後、しげしげとポーションを見て「初級の色じゃない」と呟いている。

 母の大きな声で祖母が店のほうに入ってきた。

 母が祖母にポーションを見せながら、私から聞いた説明を繰り返す。

 目を大きく見開いた祖母と母に、私は後ずさり気味になるけど、果たして使えるものなのか、知りたい欲求のほうが勝ち、尋ねる。


「ねぇ、そのポーション成功だと思う? 初級の治療ポーションだよね?」


 それにすぐには答えず、母が試験紙を取り出し効果を見る。


「治療薬としてはそのままね。ただ魔力回復効果もあるわよ。もっと詳しいことは、それこそ鑑定士がいないと分からないけど」

「シャイン、どうやって作った?」

「これは昨日作った初級の治療ポーションに百合の根を混ぜただけだよ」

「百合の根を混ぜたら、こんなにいいのができたのね!」

「そう、量がね五倍になったよ」


 「いいのができた」という言葉に笑顔で量の話をすると、絶句する二人。お、おりょ?


「あ、あの、まだ作ってる途中なの。作りに行ってもいい? 裏庭に出したままだから」

「あぁ、作っておいで」


 母が若干放心状態な気がするけど、大丈夫だよね? ババさまは深刻そうな表情だし、少し気にはなるけど、別のポーションも試してみたい。

 

 桔梗の根を入れるんだけど、今度は魔力回復ポーションのほうへ入れるほうがいい気がする。説明しずらいけど、桔梗こっち魔力回復こっちが合うって感じ? ……嘘です。本音はただ試してみたいから、なだけ。


 やり方は先ほどと同じように、混ぜる。 

 淡い光が出て、やっぱり量の増えたポーションができる。ほんわりと赤みを帯びた色に薄い紫色が混じったような感じになった。

 小瓶に入れると、同じように十個できてる。

 本当は、反対の材料同士でも実験をしたいのだけど、母たちの反応が気になるので、片づけをし、できあがったポーションを籠にいれて店へと足を運ぶ。


「母さま、これはどうかな?」


 会話を止めた母に新たなポーションを渡す。


「……」


 無言で受け取った母からの見えないなんかの圧を感じる……のは気のせいだろうか? 見えないものが見えてしまうって、ルカの言ってたのはこれか? うーん、なんか違うよね、きっと違うことを願うよ。


「えっとね、これは魔力回復ポーションに桔梗の根を入れたものだよ」 

「五倍できたのかい?」

「うん」

「そうかい、シャイン、これから言うことをしっかり聞いてほしい」

「分かった」


 祖母の真面目な表情にコクリと頷く。


「このポーションを作ったことは当分の間、誰にも言わないこと」

「言わない。でも、他の実験したいんだけど、それもだめ?」

「実験も一旦はやめて、新しいことをするときは、どちらかに了解を得ること」

「分かった」

「あともう一つある。もし、このポーションを誰が作ったかどうしても言わないといけないときは、わたしババさまがつくったと言うんだよ」


 うんうんと頷く。ほっと息を吐く祖母に、大事なことなんだろうと何となく思う。

 そして、作ったレシピは母に語り渡す。

 ポーションがうまく改良できたら、お金を貯めて、次の実験資金にしたかったのだけど、うまく出来すぎたのかな?


 ま、たぶん思い過ごしで、ちょっとした改良だったよってなるんだろうけど。

 次は何をしようかなぁ。

 魔力を底上げできるポーションが欲しい。

 そこまでは期待できなさそうだしなぁ、この新しいポーション。

 

 

――数日後、鑑定結果が出た。


 若草色の治療系ポーションは治療効果はそのまま。魔力回復効果が初級程度効果があるという。つまり、今までの二つの効果を一瓶で補えるらしい。

 追加効果があり『ゆるやかな免疫向上』と出たらしい。


 桔梗を入れたほうの少し赤紫ぽくなったほうは元は初級の魔力回復ポーションだったのが、治療効果が増えた。これも二つの効果を一瓶でよくなった。

 追加効果は『天然抗生物質少々』だったらしい。七百以上の病原菌に対して有効とか。


 追加効果を考えなければ、どっちも同じものができたってことなんだろうけど。色が違うから、同じにはならないかな?


 追加効果部分こそ、願ったものだったのだけど、ゆるやかとか少々だった。もっと頑張れよ、ポーション! あ、頑張るのは私か??

 ただ、さすがポーションなのか、魔力なのか、入れたものと量や効果の結果が自然の摂理を無視している気もしなくはないが、ポーションになること自体、特殊なのかもしれない。


 人体実験をせずに鑑定士が見るだけで、薬の効果がわかるのはいい。毒や副作用が強い場合はそれも分かるのだから。

 ネギの根を入れたものは、まさに人体実験をしたから、鑑定士のありがたさが身に染みる。自分や家族に飲んでもらったが、効果のほどはよく分かっていない。失敗はしていないから何か方法が別にあるかもしれない。


 価格は薬剤師ギルドの承認が下りてからになるが、高くはなっても、値段が下がることはないだろうとのこと。

 ポーションというのは、魔力回復と治療薬の二種類しかなかった。それが回復程度により初級・中級・上級に分けられていて、こんなポーション自体出回ったことがないらしい。


「一瓶で二つの効果を補えるのに、量は五倍になるからねぇ。もちろん、花の根は必要だけど、それにしても、値段のつけ方に困るよ」

「そうねぇ。シャインは製造方法を広めて良いというけど、花の根が市場にどんな影響を与えるかも未知数だし、手に入る季節もあるでしょう」

 

 あれ? なんか面倒なことを発見したような感じになってる?

 安くいいのが手に入れば、みんないいだろうと思うのだけど、そうすると薬屋が儲からない、とか? うわぁ。頭抱えるよー。

 ま、ババさまにそこらへんは任せて、私はまた改良しよっと~。

 

  実験再開のお許しも出たし。

 ただ、実験の際の事故には十分注意するように言われた。

 うん、私も魔法本の動画にあった、ちりぢりな髪型とかになるのは嫌だしね、気を付けるよ。

 

  はぅ~。次はどんなポーションに出会えるかなぁ。楽しみだなぁ。ワクワクするの~~

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