第54話
今日は休日。
魔女っ子シャインがポーションを作ってニンマリする日。
ちょっと気分が落ちたときでも、お鍋をぐーるぐるするとあ~ら不思議気分はあがるあがる。
「はぅ~、できた~」
初級ポーションのαとβができました。ハナマル。
ばれたら怒られるとは思うのだけど、ポーションを部屋で作る生徒がいないからか、規則に「ポーションを作ってはだめです」なんて言葉はない。
怒られて止められるまでは、お部屋で作るんだ。初級ポーションくらいならお茶の子さいさいだ。茶摘みの歌を鼻歌でふんふん言いながら片づけをする。
簡単にできた。でも、大量に作ったから、すでに朝食の時間だ。
そう思ったところで、扉を叩く音がする。隣のリタだね。
「はぁい~。開けるから待ってね」
ガチャと尖塔アーチ模様が掘られた白の扉を開ける。
ゴシック様式の建物や家具は重厚になりすぎる部分もあるけれど、白を基調とした部屋だからか、重くはない。
そこに現れる美少女リタ。そのまんまでスウィート・ロリータ、通称甘ロリの逸材がキタコレ。
ヘッド・ドレスやふんわりレースとリボンをこことあそこに足せば、かん――
「シャイン? 髪型はどうしたい?」
「あぁ、ごめんごめん。今日は休みだからそのままでいいかなと。あ、お菓子作るからまとめたほうがいいかな」
「ケルトノットヘアーにしてみない? すぐできるよ」
「うん、お願い」
ノットは結び目という意味。ケルト結びはすぐにできて、かわいい。
リタはぱぱっとケルト結びを作る。そのタイミングでなるお腹。
「あはは。今日朝早かったから」
「ふふ、そうなのね」
「あ、リタにもあげるね」
私はできたてのαとβポーションをリタに渡す。動かないともっとお腹がなりそうで。
「いつもありがと」
「先日はリタのおかげで助かったし。誰かが持っていると安心だからね、自分のためだよ」
リタは「シャインはいつもそう」と言いながらポーチにしまう。
私は兄たちに渡す分をバケットに入れて一階へ向かう。
今日は朝食を食べたら、生徒用のキッチンでお菓子を作る。もちろんリタと。
私は兄の姿を発見し、喜々として駆け寄った。
「お兄さま、おはようございます」
「シャイン、おはよう。リタもおはよう」
「おはようございます」
執事のホセにも挨拶するのは忘れない。食事中なのに椅子を引いて座らせてくれようとするから、それを止める。自分で朝食も持ってこれるもの。
食べ終わると、ルカたちが朝食を食べに降りてきた。
休日は朝遅い子供たちも多いけど、ルカとクレトは早いほう。
「早いな」
「今からリタと
「え? 葛って確かシャインが風邪ひいたときに、飲めとうるさい変な味の薬じゃなかったか?」
うるさいとか変な味とか余分だよ?
私が作るのは
ショウガや甘草、芍薬に葛根を加えた本来のものには少し足りない初期の風邪にいいとされる漢方薬。
「葛根湯もどきね。葛餅は食べたことなかった? 今日はそれに花も入るんだから、ダイエットにいいんだよ」
「だい、何だ?」
「あぁ、痩せやすくなるってことだけど、それは必要なくて、ええっと、お酒の毒消しにもなるんだよ」
「飲酒はまだだろ」
あ、クレトから突っ込みが。ですよねー。
水戸黄門も愛用していた葛の花、そんな役立たなさそうな前世の記憶が……はぁ。
「もしかして、葛の花ってあの木に巻き付いていたツタの花か?」
「そうそう。秋のほんの短い期間しか咲かない花なの」
クレトと木に登った時に見かけて、状態が良かったから摘んでおいたのだ。それを乾燥させて粉にした。だるまさんは転んでもただでは起きないのだ。
「それでお菓子ができるのか?」
「花を使うのは初めてだけど、リタと白桃の葛餅を作って食べたときはすごくおいしくて、ルカの分まで私が食べたんだった」
「おいっ」
「一緒に作れば食べられることもないよ?」
「はぁ。朝食が終わったら見張りに行ってやるよ」
リタちゃんが余計な情報をあげちゃったよ。来なくていいんだけど?
キッチンはシンプルながらも、大理石の台もあり、北欧スタイルなんだけど、寄宿舎自体がゴシック調だから少し重厚さもある。
生徒用と言っても、使うのは主に侍女たち。
「漉したらなめらかになるのよね?」
「うん、口当たりがよくなるね」
さすがリタ。ちゃんと抑えるべきポイントは覚えてる。
葛にはたくさんの薬効成分が含まれていて、自律神経を安定させる効果も確かあったはず。今必要なのは、リラ~ックス!
かぼちゃ葛プリンもいいけど、王都のおいしいチョコをもらったからこれでショコラ葛プリンとコーヒー葛プリンを作る。
濃い目に入れたコーヒーにミルク、砂糖、葛粉、葛花の粉少々を入れて火にゆっくりかけて練る。
ほんの少しだけリキュールも。
これを漉してから熱いうちにカップに入れて程よくやんわり冷ます。キンキンに冷やすと葛はなぜか不味くなる。
ショコラプリンのほうは、ミルク、チョコ、ココア、砂糖と葛粉。
冷ます間に添える生クリームを泡立てる。
「できたか」
「タイミングよすぎっ」
ルカとクレトがお供をぞろぞろと引き連れて入ってくる。ように見えるんだよねぇ。背が高いから。
「甘い香りだな。何を作ったんだ?」
「プリン二種だよ」
「まさか恐怖の硫黄臭プリン⁉」
「卵入ってないから」
「いぃや、シャインが作ると何が発生するか分からないぞ」
発生するって何が? ルカの言う恐怖プリンを私は十五人前食べたんだがな。目が三角になるお?
「ルカは食べなくていいよ?」
「リタが作ったのは食べる」
「ちょうどいい感じで冷えてるから、テーブルに運んでね」
リタの鈴のような声がすると「俺が」、「いや僕が運ぶよ」、「他に手伝うことはない?」とぞろぞろの方々が、今度はリタに群がっているよ。
ふっ、さすが私の美少女リタ。そう思っていると頭をはたかれた。
誰! 振り返るとルカに言われる。
「腰に手をあてて仁王立ちするな。ここは学園だぞ」
あら、私としたことが。おほほほ。
「ぷるんっとした触感なんだな」
「弾力があって、変わっているけど、ショコラがおいしいな」
「コーヒー葛プリンも生クリームとあっていくらでも入りそうだ」
ダメっ! 私も食べるんだから。
私はいそいで席について、さっと黙祷を終わらせるとショコラ葛プリンを口にする。
チョコの分量を多めにしたからか、濃いショコラに生クリームが優しい。
もっちり感がある触感は好みが分かれるだろうけど、これはこれでおもしろい。
隣でルカが二種類を完食して言う。
「葛根湯ってのはおいしくないけど、この葛プリンは最高だな!」
「私的には、桃で作ったやわらかめのほうがおいしかったかも」
「シャイン、おまえ後で裏庭にこい」
ルカに呼び出しをくらった。
え~、作って食べさせてあげたのに、なんで怒られるのかなぁ。むぅ。
このプリンを食べて、怒りを鎮めてくれたまえ、ってもう完食してるしなぁ。
その後、ルカたちにポーションをあげたら、森で採集を手伝ってくれた。
ルカ、単じゅ……ゲフンゲフン、いい仲間だ、ね。
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