第34話

 魔女っ子な私、シャインは今日も今日とてポーション作りに励みたい。そのための採集も励む日々――なのだが、思い出した鹿茸ロクジョウ、ではないけど、鹿の角を前に腕を組んでいる。

 

 鹿茸というのは、若い鹿に生え始めた袋角のことで、漢方では有名。鹿茸だけの生薬で十万円以上したなぁと思い出したのだ。その後に治療薬としての漢方を飲んだはずだ。血圧が高いと気を付けないといけないけど。


 鹿茸ほどではないが、鹿の角は毎年生え変わり、その落ちた角もそれなりに効能はある。鹿そのものが種々の部位薬用として知られている程だから。


 鹿狩りをしたと鹿が運ばれてたのだが立派な角はここでは捨てられる運命。

 しかし、私にとっては宝。 

 気づいたのは、先ほどではあるけど。


 鹿の角を下さいと言ったら、知り合いだったこともあり、タダでくれると言われたけど、足を止めさせて角を切らせたんだし、追加効果あったら教えてとαとβポーションを押し付けて、貰った。


――ただし、森の中で。それも採集を行っている時に。


 まぁ、今日はルカたちも一緒なので運ぶのも問題ない。

 今日は採集も大勢でしたから、薬草が大量に採れたし、ポーション作りが進みそうだ。

 魔法で乾燥させる。完全に乾燥させるのは一度では無理だけど、運ぶのに少し軽くなるといいなと思って。

 熱じゃなくて、振動と水分蒸発での乾燥だから、早いのだけど。


 魔法も分析すると科学なんだなぁと思うことがたまにある。

 マジックぽいけど手品は仕掛けがある。魔法も実は科学的に成り立っているものではないかと思ったりする。


 魔法での乾燥も火魔法で熱を利用する方法と、風や水魔法で乾燥させる方法もある。魔力量、つまりエネルギー的には振動と水分蒸発の方が効率がいい。

 これは前世の乾燥機でも同じだったはずだ。熱型乾燥機より超音波乾燥機の方が、時間短縮になる。五十分かかるところが、超音波乾燥機だと二十分で乾く。


 でも、転移の魔法なんかは理解の域を超える。

 結界もそうだけど、遠隔操作できるって何だろう。すごい技術だと思うんだ。

 マジックなら仕掛けを知らない方がワクワクはするけど。


 魔法はどうなんだろう。その全部を知ったとして楽しいだろうか。オーディン神は知識を得るために目を差しだりしたけど、楽しかったのかな。

 神様のことなんて分かるわけないけど、結局は同じ生命体・エネルギーの集まりだと感じたり――


 ……思考の小旅行トリップから戻ろう。



 耳飾り型の通信機のマイクに声をのせる。


「鹿の角を運んでくれたら、αとβポーション五個ずつあげる。誰か手つだ……うん、全員ね。分かった。じゃぁ、お願い」


 手をさっとあげた仲間たちに家までの運搬は任せる。

 筋力強化して担いでもいいのだけど、筋肉が付きすぎると、成長段階にあるから、身長の伸びが気になるのだ。

 強化は一時的なものだから、関係ないかもしれないけど、女の子だしね。



 仲間たちが採集したものを、綺麗に小分けしたりしている間にルカが傍にやってきた。

 通信機のマイクをオフにしろと言って。


「お前、俺たちによくしすぎ。もらっている立場でなんだけど、ポーションを十個もあげる必要ないだろ。大丈夫かよ」

「ババさまたちに怒られないかってこと? そこは心配ないの知ってるでしょ? 大丈夫だよ。それより、貯蓄は順調?」

「まぁな。お前のお陰で信じられない程貯まってる」


 満面の笑顔だ。幾らあったらそこまでの笑顔になれるかな。


「その信じられない額が、貴族街ではあっという間に消える額だっての分かってる? 制服代とか結構かかるよ?」

「義兄のを譲ってくれるんだろ?」

「そうだけど、クレトも行くことになったし、お古だけで大丈夫かなぁ」


 義兄の背が高くて良かった、一年目の制服はクレトが願えばそっちは渡して、二年目以降の制服をルカが着れるかな? 義兄の友達とかは譲ってくれないかなぁ。

 問題はマントなんだけど。魔術が書かれている魔導具だからいいお値段だし、マントだからサイズがあまり気にならない。貴族とはいえ、そうそう買い替える物ではないらしいから。


 私がヲシテ文字を書けばいいだろうとは思ってる。

 魔法陣での拡大をようやく描けて知ったのが、かなりの魔力を入れないと発動しなかった。おまけに、本などにある魔法陣に魔力を注ごうとしても注げない。

 原理は分からないが、少しの拡大でも魔法陣を発動させるためにはずるるっと魔力が減ることを考えると、魔導具が高いのも頷けた。


 魔法陣に比べるとヲシテ文字の優秀さが際立つけれど、誰にも言えないから手探り状態で、服にできるのかはまだ未知数だ。 

 マントできたらいいけど……。ルカたちに作ってあげたいな。


「服なんてどうにでもなるさ。それよりあいつをどうやって説得したんだ?」


 ルカの目がクレトを指している。


「ただ一緒に行こうって言っただけだよ」

「そんだけか?」

「クレトの魔法や剣技は貴族にも負けてないし、同級生はいい子が多いとは言った」

「ふーん、俺があんなに説得しようとしたのになぁ」

「ルカが説明しておいてくれたから、考えてくれてたんだよ」

「そだな。俺も同い年の貴族連中ってのがどんなんだろうって少し不安だったけどよ、あいつらいいやつぽいしな」


 あいつらって、貴族の男子たちのことですね。懐かれてたもんね。

 ルカならその体格の良さだけでも、包容力ありそうで皆慕いたくなるかもだけど。


「ルカの人柄がいいから懐かれたんでしょ」

「レイバ領のランバートさまもいい人ではあるけどさ、貴族ってのがあんな王子様然とした感じばっかだったらどうしようかと思ったら、案外普通だったな」

「貴族も人だから、色々だね」

「そういや、お前も貴族なんだよなぁ。お前見て貴族とかありえないって思ってたんだけど、領主の娘も真っ赤なイメージそのままだし、お転婆すぎて貴族の女子に希望が見えない」

「マルガリータさまが強烈なんだよ。でも、平民に差別とかしなそうで私は嬉しいけどね」

「どうだろ。領主の子供って感じは受けたけどな」


 お、私が気づかない何かあったのかな。

 貴族が平民を同じ目線で考えるなんて、ありえないだろうとは、私自身が感じてきた部分ではあるけど、すでに麻痺してるのかも。

 差別する人はするから。半貴族の私でも無視する人なら、平民へのあたりはもっときついだろう。


 気づいたらルカの手首をぎゅっと握っていた。

 ルカはふって笑って、ポンポンと頭を叩いてくれる。

 うっ、ルカが男前ぽいよ? なんだろ、この頼れる感は。

 だから、貴族の男の子たちも慕うんだろうなぁ。ま、やってることはルカの父ニコラスと同じの真似っ子だけど。


「ニコラスパパに似てきたね」

「そっか?」

「うん! だからお菓子ちょうだい」


 手のひらを出したのに、ポカンと頭に軽いげんこつを頂戴した。

 私はお菓子を強請ったのに! 

 

 ルカと二人で叩きあいっこしてたら、ピーターたちが絡んできた。


「夫婦げんかはやめろ」

「もういっそのこと一緒に住めば?」


 マリオまで、やめてよね、と思ったらルカに言われた。


「こんなのが家に待ってるとか地獄だぜ?」

「えええ!? それ私のセリフだよ! やっぱりちゃんとおいしいご飯とおやつを作ってくれて、整理整頓も上手で、笑顔で迎えてくれるのがいいよ!」


 私が断言したら、しーんってなった。

 ルカとマリオが言う。


「さて、帰るか」

「そだな」


 無言で鹿の角を担いだりして帰り出した。

 う、うぇ? 何か変なところがあった? 

 そして気づく。


――私は貴族で、貴族として結婚するだろうってことを。そのことを皆も知ってるってことを。


「あぁ、そっか貴族と結婚したらご飯とかはメイドがしてくれるね! あはは。今こっちで暮らしてるから、自分の立場忘れちゃうんだよね~」

「はぁぁ……、もういい。ほら、行くぞ」


 私は急いで自分の籠を背負ってルカたちについて帰った。


 どこが変だったのか本当には気づかないまま、数年後に話題に出されて初めて知る。


「シャインは自分が女だって自覚が全くなかったよな」

「そうそう。目指すのは領主の息子だったり、理想の相手はどう考えても家庭的な女性のイメージだったりよ」

「……」

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