第35話
春になり、草が柔らかくなるころ、草笛をようやく吹くことができるようになった。
吹けると言っても、音が出るだけだが。
根っこの魔物たちからの、音階指定がなくて良かったとしみじみ思う。
吹けるようになるだけで、なんと一年半……。どんだけ不器用なんだって落ち込むよ?
私は喜々として、すぐダンジョンに潜りに行った。
……いえ、落ち込みそうだったけど、吹けた喜びのほうが勝った結果です。
しかし、その時ジーンたちが二層にいなかったのか、音が届かなかったのか、私の音を出す技術が未熟だったのか、理由は分からないけど、会えずに終わった。
元気でいてくれたら、それでいいなと思う。
リタは元気だし、飲んだ人たちからも感謝のお礼状がレイバ伯爵に沢山届いたと聞いている。
虚弱体質改善ポーションを追加で作れないのは残念だけど、私は鹿角やリンドウの根から作る竜胆、牛黄、
これらも祖母に一切を任せている。そう、いつもの丸投げ。
漢方として飲むときには副作用があった。しかし、ポーションでは副作用が出にくいのか、副作用の項目が鑑定士に言わせるとないらしい。嬉しいことだ。
それでも、血圧が高い人には鹿角入りのポーションは出さないようにお願いしたりと記憶を元に、一覧にして祖母に渡した。
経過報告も聞いてほしいと伝えてある。
おかげで祖母と母は忙しい。
治療魔法もかなり使えるようになった。
母に複合魔法について尋ねたとき、光と土で錬金術が使えると教えてくれたけど、治療魔法も複合魔法だった……。先にそちらの情報が欲しかったよ。知ったからと言って使えるようになるわけではないけどさ。
上級魔法の上が複合魔法かと思っていたら、それはちょっと違うらしい。
適正やスキルがあると、複合魔法を駆使しやすいとか。
まだ自分のスキルを鑑定してもらってない。
治療魔法を使えることから適正はありそうだけど。
少し変わった特徴としては、毒及び毒素を抜くことができる。
薬草などの材料から成分を一部抜くこともできたりする。
体の中の違和感というのだろうか、異物を抜くイメージで体に浮かぶようにまとい付く毒素を除去できた。
血管の中や臓器の中に貯まっている毒素を最初感じたときは勘違いかと思ったけれど、毒素が消えると血流が良くなったり、臓器の働きが向上した。
実験台になってくれた母は、起き上がりつつ、頬に薄っすらと朱をのせて微笑みながら口を開く。
「すっきりした! シャイン私より治療魔法の腕がいいわね」
「まさか。外傷はまだまだだもん」
「それは慣れと知識で上達していくわよ。シャインは内面にまで治療できるって言う点で一線を画しているわよ」
それは前世の知識で体内の様子をある程度把握できている上に、ぼんやりだけど流れ的なものが視えるからだと思う。
でも、はっきり臓器が見えるとかではないし、技術は不足すぎる。
「病に対して、手術……体を開けて切除とかなぜ発展しなかったのかなぁ?」
ポーションがあるから手術が発展しなかったのは分かるけど、病に対しての手術も発展しなかったのはなぜだろうと思う。
「腫れたら切開・切除してポーションを直接かけることもあるわよ。でもそれくらいかしら。病の切除は、外傷と違って、そこを治したとしても、別なところが病んだりするから別の方法をとるらしいわね」
この世界の価値観なのかな……。まだまだ薬剤師見習いとしては知らないことだらけだけど。
「シャインは学園に行くけど、将来何になりたいとかあるの?」
「え?……何があるのかも分からないけど、貴族にも薬剤師っている?」
「もちろんいるわよ」
「そうなんだ。学園出た後に学ぶところがあるの?」
貴族も薬剤師がいるらしいけど、この領では貴族の薬師なんて聞いたことがない。
「貴族で薬剤師になるのはスキル持ちがほとんどね。王都医療研究所というところの見習いになったり、薬剤師ギルドに学園に在学中に登録して見習いとして経験を積む方法などあるそうね」
「医療研究所というのは何?」
「心理療法研究や医療の魔導具作成とか聞くわよ。義足とか作ってるらしいけど。後は薬剤師ギルドと提携して新薬の開発もしてるそうよ」
「新薬の開発してたの?」
「そうね。聞いた話だと貴族だからか、不老の薬などを開発してるらしいけど、もう少し他の薬とかを頑張ってほしいかな」
不老の薬かぁ。薬じゃなくて、毒素を抜く要領で、活性酸素の除去はできないかとは思ったな。
活性酸素を除去したら、
不老にはあこがれるのだけど。
不老への憧憬は「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花 ババアになればしおれ花」の衝撃が、きっと幼い心に傷を残したからだと思うんだな。
私も若かったから、しょうがない。
当時六歳だったのに……不憫だ。
この花もずっと綺麗だったらと、そう思いながら、部屋に飾ってある花とその葉を撫でながらふと浮かぶ画像は――ほうれん草?
ほうれん草の色がどんどん薄く色素が抜けていく。葉脈から植物細胞が抜けていってる? 頭に浮かぶ画像なのか動画なのか、何だろう。
セルロ――
「なりたいことが見つかったら教えてね。シャイン、おやつにするわよ~」
母の声でハッと我に返る。
おやつの言葉が妄想の葉っぱよりも魅力的なのは、これ常識。
「はぁい~」
私は元気よく返事をした。
◇
魔石目当てでダンジョンに入り、休憩中のことだった。
ポケットに入れていた草笛に思い当たり、ルカを誘いメンバーから少し離れたところで草笛を吹いた。
横では魔物に警戒しながらも一緒に野草を口にして演奏するルカ。
ルカは私が魔物の足が折れたことを心配していて、探していることを知っているから、何も言わずについて来てくれる。
それだけじゃないんだけどね。
「おい、あれ」
ルカが演奏をやめて指さす方向をみると、そこには揺れるツタがあった。
もしかしてと近づくとそこにいたのは、植物の魔物二体。
どう見てもジーンとプーニだ。よぉって感じで手をあげるように、ツタを上げて揺らす魔物たち。
あまりの可愛さに笑ってしまう。
「久しぶりだね~。元気だった?」
それにキュキュと答える二体に、会話できたことを思い出す。
モールス信号だった、よね?
そっとルカを伺うと周りを警戒してくれてる。私は少し安心して彼らに手のひらを出す。
そこにトン・ツーとモールス信号で答えてくれる彼ら。
『げんき だよ くすり できた』
「薬ができたの? あぁ、私に聞いたのね? うん、できたよ! ありがとう! すっごく良いのができたんだ。ジーンも折れた足も無事に生えててよかったよ」
覚えていてくれたことが嬉しくて頬がさらに緩む。記憶力もいいんだね。
『すぐ はえた』
「うん。葉も根っこも再生するのね?」
『そうだよ』
「よかったぁ。そうだ、今日はお願いがあるんだ。ジーンたちが良かったらだけどね――」
そうして、私たちは楽しい歌の時間を過ごしてから別れた。
名残惜しいけど、草笛で呼べばいいよって言ってくれたから。
他のメンバーには採取するものが見つかったと伝えておいた。その間、合流するまで他の四人は魔物を狩っていたらしい。
通信機があると、こういう時便利だね。
耳飾りを触りながら、思った。
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