第32話

 次の日、ルカを誘ってマルガリータの家に行く。

 クレトはまだ学園に行くか迷っているそうだ。迷っている理由は言わないらしい。

 祖父の工場を継ぐから、とかではないようらしいけど。

 


 練習場について、その場にいる騎士たちに挨拶をする。

 すぐに男の子たちが集まり、最後の一人とマルガリータも入ってくる。


「今日は剣がいいかしら?」

「レイピアは使ったことがないから、剣がいいな」


 男の子が答えてる。貴族だからといって、レイピアをみんなが使っているわけではないらしい。

 マルガリータがルカに気づき、声をかけてくれる。


「あなたがルカ? 私はマルガリータと言うの。よろしくね」

「初めまして。こちらこそよろしくお願いします」

「シャイン、ルカって大きいのね。身長だけですでに騎士としては優秀ね。ランバートさまと同じくらいあるんじゃない? お兄様、負けたわね」 

「ランバートさまとは以前ダンジョンでご一緒しました。同じくらいだったかもしれません」


 ルカがちゃんと敬語になっている。やればできる子! 隣でニマニマしてしまうのは、親心ってやつですよね?


「そう、では私と手合わせをお願い」

「分かりました」


 早速マルガリータとルカが手合わせをするらしい。マルガリータはルカを男の子たちに紹介しながら、早速剣を握り、手合わせを始めた。

 

 体力的に当たり前だけど、ルカが余裕で受け止めたり、かわしたりしている。

 ありゃりゃ、マルガリータの目が爛々と輝いているよ。

 この様子だとルカも毎週のようにお屋敷に呼ばれることになりそうだ。



 ふと隣を見ると、未来の同級生たちが食い入るように二人を見ている。

 騎士希望者が多いんだもんね。

 二人が息を切らしながら、剣を下すと、男の子たちは駆け寄っていく


「すごいな!」

「マルガリータさまとも戦えるだなんて、どこで習ったんだ!?」


 興奮しながら叫ぶように言っている。


 あれ? 彼ら騎士になる予定なんだよね? 

 ルカはマルガリータさまには余裕だけど、彼らの中には騎士の弟もいたはずで……。確か名前はエリアスだったかな。


 ルカを中心にワイワイ言っていたが、彼らもそれぞれに手合わせを始めた。

 それを見て、少し納得がいった。

 エリアスたちは動きの洗練さとか綺麗さなどはあるのだが、速さとかがマルガリータよりも遅い。


 マルガリータは一つ上だし、隙をみては稽古を騎士たちにもつけてもらっている。思ったより、マルガリータの腕は上だったようだ。ま、男の子たちは急に強くなったりするから油断はできないけど。


 ルカは俊足で動く私に合わせられる。

 魔力を筋力や体力に回す方法は少しではあるが、できているし、元の体力もあるから私が俊足でもそれ以上の力や技術で闘う。

 もちろん、ルカのほうが剣も体力も上だ。


 それに、ダンジョンで魔物と実戦しているのも大きいかもしれない。

 一方、彼らはたぶんまだ実戦はしたことがないように思える。義兄たちがそうだったから。


 私は彼らの動きを見ながら、魔心臓が二つであることもマルガリータとの力の差かもしれないと思った。マルガリータは魔心臓が三つある。その分、魔力をたぶん体力には回していると思う。筋力までは分からないが。女の子だから、あまり筋力には回さないかもしれないから。


 一人見学させてもらっていたら、マルガリータにレイピアを誘われた。


「剣じゃとてもあなたには敵わないから」

「マルガリータさまのレイピアの動きはとても綺麗なので、参考になります」


 本音だ。貴族らしい動きというのだろうか、ピンと伸びた背筋と優雅な動きをする。

 一方、たぶん私は戦い方は泥臭いと思うのだ。タブレットで動画を撮れないから自分の動きを客観的に見たことがなくて分からないけど。


 レイピアの手合わせをし、マルガリータから終わりの合図をもらい水を飲もうとしたら、先ほどのルカのように囲まれた。


 ち、近いよ?


「兄に習っていると言っていたよね? 兄って誰?」

「動きが早すぎて見えなかったよ! どうやっているんだい?」

「ルカもすごいけど、君もすごいね!」


 うわぁ。貴族の子供たちがこんなに人懐っこいってあり?

 一度にわいわい言われて、なんか聞かれたようだけど質問がよく分からなかった。


「ええっと、一度に言われても分からないので、一人ずつお願い」

「ふふ。シャインが人気ね。シャインはマディチ家のお嬢さまなの。前等部の二年にお兄様がいらっしゃるはずよ」


 マルガリータが水を手渡してくれながら、助け舟を出してくれたけど、お嬢様っていうのがこそばゆい。

 マルガリータって、領主の娘だけどそれを鼻にかけない。だから後輩たちもこんなに素直なのかな?


「あぁ、フェルミンさまか!」

「お嬢様ぽくはないけど、動きは早かった」


 そこ、本音がダダ漏れてるよ!


「フェルミンお義兄さまをご存じ?」

「うちは同じ子爵家だからか、交流があるんだ。君が妹だったんだね。あまり似てないから分からなかったよ」


 エリアス君は子爵家でしたか。私にとって、お義兄さまはかっこいいのだけどなぁ。似てないんだ。がっくりだ。


「それよりなぜあんなに早いの? たまに動きが俊足のように目で追えなかったよ」

「俊足使いましたから」

「ええ?! 俊足使えるの?」

「すごい!」


 誰だっけと聞かれた男の子の名前を思い出す前に、他からもお声がかかる。


「魔力を筋力に回してますから」


 その後、魔力を筋力や体力に回すコツなどを聞かれたり、実際に手合わせをしながら、なぜかアドバイスをしていた。


 帰りがけに「今度また指導してよ」と言われた。

 私に言いますか? ルカのほうがよっぽど剣も上手なんだけどね。


 二人になってからルカが言う。


「俺とはライバルって感じになるんじゃねーの。でも、お前は体の動きや魔力の流れ方とかに薬師ぽいアドバイスをしてるだろ?」


 そう見えるんだ。


 確かに、領地ごと良くなるといいなと思うから、知ってることは伝えるし、持って行ったポーションもあげたけど。

 ルカをよろしくねって言いながら。人間関係の潤滑剤だ。袖の下ともいう。冗談です。ルカも材料集め手伝ってくれたポーションってだけだから。


「確かに体調管理とかの補佐も必要かもねぇ」

「そこまでは求めてねーよ。まぁ、いつも勝手にパーティで、シャインが俺たちの体調管理まで気にしてくれるから、助かってはいるけどな」


 頭をポンポンってしてくれるルカ。思わず笑顔でルカをみたら「ほら、俺にもポーションくれ」ってポンポンってしてくれた手を目の前に出された……。噛みついていい? がるるるるる……



 夜になり祖母に昨日からの貴族の話をする。


「私は半貴族だけど、皆いい子そうだったよ」

「差別を心配したってことかい? シャインの同級生にあたる子供たちは子爵以下だろう? マディチ家は子爵の中では歴史も長いからね。この領地の一番上が伯爵だから、その次は子爵になる。まぁ、あまりそこらへんは心配しなくてもいいだろうね」


 私の下手な説明でも、言いたいことを読んでくれるババさま。


「ルカも楽しそうに手合わせしていたの」

「男の子たちは確か騎士の家柄が多かったはずだ。ルカは体が大きいからそれだけで有利だろうね」


 ババさま、貴族の事情までよくご存じ? そんな疑問が顔に出てたんだろうか。ババさまが理由を教えてくれた。


「騎士とはどうしてもポーションを通じて話が入るんだよ」

「そなんだ。でもね、体力の加点があるのに、騎士が多い割にこの領地、去年は最下位だったのですって。あ、入試試験だけじゃないから違うかな?」

「騎士はどこでも多いけどね。貴族の女の子がシャインの年に少なかったんだね。平民は同じくらいいるんだけどねぇ」


 ここの家が外れだからかな。女の子の友達が少なすぎて、分からない。


「学園は寄付を沢山する国外からの留学生なども優遇してるようだし、寄付をする平民には優遇処置があるって聞いた。お金のない特待生は大丈夫かなぁ……」

「ルカたちのことが心配なんだね。でも、今日だって頑張ったじゃないか。未来がどうなるかなんて、予想はできてもどう転ぶか分からないんだよ。頑張ったシャインがいた、それで十分さ」


 ババさまが手招きして、膝の上に乗せてくれながら、頭をいい子いい子してくれる。


「そろそろ膝の上に乗せられるのは終わりかもね。大きくなったよ」

「ババさま、私ね、頭で思うことがあまり口で説明できないことが多いの。頭のなかで考える時、自分じゃないみたいに賢く思えるのに、出る言葉はあまり上手くいかないの。貴族の言葉はもっと難しいね」

「シャインは理論的・体系的に言葉が出てこないだけで、きっと頭の中では多くのことを分かっているんだろうね」


 うーん、頭の中で知らない単語で考えてることあるけど、その文章があっているかも実は分からなかったりする。なんか自分がちぐはぐに感じてしまう。


「大丈夫、だいじょ~ぶ。シャイン、どんなシャインでも可愛い可愛いババの孫だよ。見ても見ても、また見ていたくなるほどかわいいね」


 笑顔でぎゅうぅっと抱きしめながらそう言ってくれるババさまが温かくて、ほぅって息をつける感じがする。私は緊張してたのかな、そう思った。

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