第31話

 マルガリータに話があるとかで、領主の館に呼ばれた。

 私が学園に入学するときの話もあるそうで。


 来年マルガリータは学園に入学するが、来年の見込み新入生の数は平均並。しかし、その次の年、私の年齢の貴族の子女が少ない。

 魔力量は貴族も王族が一番多く、次いで高位貴族、下位貴族と続くことが多いが、私の年は下位貴族しかいない。かつ、人数も少ない。


 ここ数年前から学園の管理貴族の方針が変わり、領地としては頭を抱えているそうだ。

 もともと優秀な生徒を支援する制度はあった。

それは学園内では貴族であろうと平民であろうと同じ生徒として同等の立ち位置の上でのことだった。


 ところが、領地の差別のようなことが始まっているのだという。

 平民の特待生枠を少なくするような制度へ変わったり、魔力量が多い領地への優遇処置などが加速しているという。

 魔力至上主義者はいる。しかし、少なくとも学園外でのことであった。


「シャインの年齢の貴族の子女が十人もいないのよ! それも男爵・子爵までの子供しかいないの」


 私は、どうせ分かることだしと友人の話をする。


「実は、私の友人たちが優秀なのです。二人は平民ですが、特待生を狙っています」

「まぁ、それはいいことだわ!」


 マルガリータの曇った表情が一瞬明るくなる。


「それでも十一人。他の年には二十人以上はいるのに、再来年が今から心配なのよ」

「領地対抗戦のことでしょうか?」

「それだけではなくてね、領地ごとに寄宿舎が分かれたの。以前は領地対抗戦の間だけ使える建物があっただけで、全ての生徒は男女に分かれているだけの寄宿舎だったの。それを、老朽化という名目で建て直したときに、領地ごとに変わってしまったのよ」


 新しいパンフレットでの立体画像付きは、建て直しのお披露目も目的だったらしい。主に寄付金を募るため、かな。


「領地ごとだと問題があるのですか?」

「大ありよ! 施設の広さから設備まで違うのよ。立地も学園から遠い宿舎は歩けば三十分以上よ。もちろん召喚獣を使ってもいいけど、不便でしょう?」

「え? 広さは人数で違うとかではないのですか?」

「そうなのよ。だから夏までは大変だったらしくてね、数名は一人一部屋使えなかったそうよ。今年兄たち領主の息子が二人もいたし、人数も多かったから、かなり上の方に変わったと先輩たちが喜んでいるそうなの。新入生の試験点数がそんなに影響力を持つなんてね」


 以前は、後等部の宿舎が学園から遠い場所にあったらしく、召喚獣にも慣れているから問題は少なかったらしいが、召喚獣を持たない一年生もいる。上級生が乗せてくれなければ、一年生の足で学園まで歩くことになるのだ。そんなことはないとは言うが、新入生の成績が足を引っ張り宿舎が遠くなる原因になった時にも機嫌よく乗せてくれるだろうか。 


もし私たちの年にガラッと施設が落ちたら、先輩たちの心証はよくない?


「そんな……。新入生の点数が良くないと上級生からのいじめとかに繋がりませんか? もちろん、領地ごとなら、より仲良くなれるかもしれませんが」

「いじめはすでに他領で起きているそうよ。兄が心配してたわ」


 時期領主になるのかは知らないが、領主の息子としてベルナルドも大変だろう。

 新入生の試験点数が大きな意味を持つのは、領地対抗戦と同じくらいの比重になっていると思われる。


「各学年の試験が大きく反映されないのはどうしてでしょう?」

「新規改革とかで色々実験してるらしいのだけど、各学年の試験結果と領地対抗戦、新入生の試験結果、その三つが同じ比重で加点される方式を再来年まで継続することは決定事項なのですって。上位領地の思惑でもあるのだろうという話だけどよくは分からないわ」


 新入生の試験採点方式を上位領地の優位なように変えたら、新入生の試験結果に重きを置いた方が有利だろう。

 宿舎の建て直しで大金が必要だったがための処置なら仕方ないだろうけど、ただ単なる自領可愛さや、既得権絡みだったら子供たちを巻き込むのはいただけない。 

 王都に接する領地が常に上位なのは人数的にも当たり前だけど、それで優越をつける制度を学園にまで導入する必要はないはずだ。


 気になることを聞いてみる。


「入試試験というのは、上位領地が有利なのですか?」

「もともと、上位領地三つは王都に隣接しているでしょう。人口が多いし、学園からの情報も早く入るし、帰省も週末ごとにもできるから、兄姉がいれば有利に事が運んでいたみたい。いい教師にも恵まれることになるし。年齢が上になるにつれて他領からも優秀な生徒は出てくるけど、最初の試験はどうしても平均すれば上位領地の成績が良かったの」


 上位領地が有利なのは、魔力量の多い上位貴族が多い点。

 特に上位領地と言われる三つは公爵が領主で、侯爵、伯爵も多い。人数が多い分、下位貴族も多いが、入試試験に魔力量が入るのだから、平均点は高くなる。


 領地が王都から遠いこの領は、ゆっくりとした地方の特性も合わさり、対応に遅れることが多く、宿舎の件ものんびりしていたら最初の年に領地の中で最下位になってしまったらしい。


 お兄さま、大変だったのね……。


「今から対策を練るのはどうでしょうか? 幸い来年はマルガリータさまがいらっしゃいますが、その次の年が問題であるなら、その年の者同士で連絡を取り合うことはできませんか?」


 何かできないかと思いつくことを提案してみる。

 私は同い年の貴族を誰も知らない。貴族街に住んでいないからだろうけれど。


「そうねぇ。お茶会も学園が始まってからがほとんどだけど、先に交流して情報交換の場を設けるのはいいかも。私からも話しておきたいし、今度招集をかけましょうか」


 

 そうして設けられたお茶会。

 領主の娘からの、それも学園に行けば一つ上級生になるわけで、呼ばれた全員が集まった。私の同級生になる子供たち。


 ……男の子が多いのは、この領の特徴でしょうか?

 男の子六名、女の子は二人だけ。私を入れてようやく三名!

 女の子は二人とも私よりは少し背が高いけど、柔らかそうな雰囲気で少し安心する。マルガリータの前だからかもしれないけど。

 少し緊張した面持ちの者もいるが、子供だからか椅子に座ってくつろいだり、知り合い同士で話をしている者もいる。


「今日はお集りいただいてありがとう。私は知ってる者ばかりですが、お互い初めての者もいるとは思います。でも、同級生になるのですから、仲良くして、楽にしてくださいね」


 マルガリータが挨拶をする。皆の視線が一堂に集まる。

 さすがに、こういう場では堂々としていて、頼りになる上級生という感じだ。

 最初に自己紹介として右から順に名前を名乗る。それが終わるとまたマルガリータが話しだす。


「実はお知らせしたいことがあって、今日のお茶会を開催したの」


 マルガリータはそこで一息つき、皆を見渡す。


「学園の方針がかなり変わってきています。領地ごとの宿舎になったのはたぶん皆さんもご存じね。問題は、あなた方の年は毎年二十名はいる生徒が十名もいないということなの。移動がなければここに集まった者が再来年のこの領から貴族として入る人数になります」


 頷いたり、集まった者の顔を見たり、反応は様々だけど、いい話ではないからか、表情は明るくはない。


「それでね、情報交換したり、一緒に何かできないかと思っているの。急だから案もすぐには出てこないと思って、一応私が考えてきた提案を聞いてね」


 マルガリータは案を考えてくれていたらしい。さすが領主の娘だ。


「男の子が多いでしょう? ここには騎士たちが練習する場があるので、そこで一緒に練習するのはどうかと思うの。もちろん、私もレイピアなら相手できますし」


 マルガリータ、私心が入ってる? レイピアをしたいからってわけじゃないよね?


「あとは、兄が送ってくれたら今年の試験の内容が分かるから、テストをしてみることはできるけど、これは私のほうが先ね。女の子たちは楽器を一緒に演奏してみる?」


 女の子たちは顔を見合わせる。一人の子が話す。


「マルガリータさま、ご提案ありがとうございます。入試試験の結果が宿舎の良し悪しに関係するのですから、何かできたら嬉しいと思っています。ご一緒できるのでしたら、ぜひ楽器を練習させてください」


 うお! しっかりしてる! 練習してきたのかな? それとも貴族の女の子たちはみんなあんなにしっかり話せるのだろうか。自分が心配になる。


 「アリシア、ありがとう。とても心強いわ。楽器は一緒に練習できる部分があれば私も励みになるから、私の先生が来る時間に合わせて来てくれる?」


 二人の女の子は頷く。男の子たちは考えているようだ。

 そこで私は発言する。


「あの、私はここにはいませんが、特待生枠で受ける友達と一緒に楽器演奏をしたいと思っているんです。それでも見学させてもらえますか?」

「シャイン、もちろんよ。男の子たちも最初は見学だけでも大歓迎よ。その後、レイピアの練習もしましょう。シャインはレイピアも剣も得意なのよ。そうそう、特待生を受ける者が二人いるそうなの。一人は男の子で、冒険者見習いとしても優秀だそうから、剣の相手に不足はないはずよ。シャイン、今度連れてきてね」


 マルガリータはやはりレイピアが目的ですか。でも、平民のことをそれとなく紹介してくれることがありがたい。

 何より、私に様付けだったのを、年下だからとシャインと呼んでもらうことになっていて、本当に良かった。同い年の他の子たちにはさま付けてないもの。一人だけ浮くところだったよ。



 お茶のお替りと料理人が作ったアツアツのアップルパイが出てきて、それを頂きながら意見交換が始まった。

 男の子たちは活発なイメージの子が多いと思ったら、騎士を目指している子ばかりらしい。早速話しかけられた。


「君は剣やレイピアはどの先生についているんだい?」

「剣を習ったのは、今度一緒に来る予定のルカのお父さんです」

「有名な先生や騎士ではないの?」

「冒険者ですよ」


 おお! 活発そうだけど、話しかたは貴族だ。

 顔を見合わせている子もいるけど、まぁ、平民へのあたりがきつい子もいるかもしれないのは覚悟の上だ。それに、領地のためには一丸とならないといけないことは知っているだろうし。人数が少なすぎるから、特待生は必要だろう。


「レイピアは?」

「レイピアは兄たちに少し手合わせしてもらっていたくらいです」

「そう、明日早速集まろうとエリアスと話をしていたんだ。君も来るかい?」

「ここにですか?」

「エリアスの兄がここで騎士見習いをしているんだ」

「僕の兄が練習場に小さな女の子がマルガリータさまと来て、剣やレイピアの練習をしていてすごく上手だったって言ってたんだ。それって君だろう?」

「分かりませんけど、もしかしたら会ったのかも」


 首を傾げながら答えたら、きっとそうだよって言ってる。

 話しやすそうな子たちがいて良かった。でも、女の子とも話をしたいなぁ。

 二人は知り合いらしく、にこにこと笑顔でマルガリータと話がはずんでいる。

 私もあっち側がいいんだけどな。そうは思うけど、男の子たちから剣やレイピア、騎士のことまで話しかけられる。

 私、騎士にはならないから、騎士のことまでは知りませんよ? 


 楽器の先生が来る日にみんなで集まることになった。

 男の子たちは早速明日の午後練習場に集う。私もルカと一緒にお呼ばれした。

 クレトはどうなったかな。見学だけでも誘ってみるかな。それとも、平民への風当たりなど様子を見てからのほうがいいかな。

 最後にマルガリータが話をして場を閉めた。


「では、明日練習場でお会いできることを楽しみにしていますわ」


……最初から最後まで手合いのお話を入れてくるマルガリータ。ずれないね。

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