第9話
父から贈り物をもらった。本当は新品を贈りたかったようだが、兄が使っていた中古。でも、すごく嬉しい。
タブレット型の放送受信機。
これで勉強をしなさいということらしい。
ペンタブで書く練習もできるし、保存も少しはできるらしい。書いたそのままの大きさで保存される。拡大・縮小はできない。
下の兄が初等部に入学した。魔法学園は前三年が前等部、後半が後等部と呼ばれる。その後専門機関に進むこともある。国立の魔術研究所や魔導具研究所などがそれだ。
――兄が入学祝で新しいのを買ってもらったからお下がりが来たのね
機種も色々あるようで、動画が撮影できたりするものもあるらしい。
大きさそのものが変わってしまうタブレットまであると聞いたときは「それどんな魔法?!」って驚いた。いいなぁ。
でもでも、いいんだぁ。
「初めての私の魔導具!」
テンションがあがって、顔がにやける。
放送受信機の魔導具で、放送だけでなく、国立図書館の本も一部ではあるけれど、受信可能で、本も読めるのだ。音読されている図書もあるという。
受信可能地域は結界で囲まれている地域。
貴族街は高い城壁に、町は低い壁に囲まれているが、それらの壁内は結界が張られていたらしい。魔物対策用だけでもないようだ。
森では受信できない。
放送の番組は日々の情報、教育関係、魔法関係、政治関係などがあり、日々動画が上がるものの、生放送ではなく、録画している物を選んで見る。
魔石がはめ込まれているところはあるけれど、一センチくらいの薄さの胴体。宝石がついた革張りのタブレットって感じで高級感あるんだなぁ~。
ついでに、弦楽器も二つもらい受けてきた。
ハーフフィドルと言うんだって。もう一つは不思議な音色の4弦しかない楽器。
父が言うには、数か月前に、私が義兄たちのフィドルを持つと音を出し始め、何かのメロディーを奏でるようにギコギコしたそうだ。
確かに触った覚えはあるんだけど、義兄たちには到底及ばない音しか出なかったはずだと答えたら
「フィドルは音を出すのも最初は難しい楽器なのだよ。音は酷かったが、何かメロディーを奏でようとしていただろう」
と返ってきた。
義兄たちに聞いても誰も教えたことがないと父は後で知り、今回贈ってくれたらしい。
――まさに四分の一ヴァイオリン。前世で弾いたことがあったんだろうなぁ。
持ち方すら教えてないのに、見よう見真似で覚えたのなら弾けるようになるかもしれないから、持っていきなさい、と持たせられた。
はい、これもタブレットで見ながら、音楽を学べということらしいです。
学園で音楽の授業もある。貴族の嗜みなのだろう。
楽器の習得は確かに一年では時間が足りないかもしれない。
早速、音楽の録画を見てみた。分類されてて、分かりやすい。
学業関係もある。前等部推薦クラシック曲というのがあり、フィドル楽譜の曲を見てみる。
音楽が流れて、目をつぶり曲のリズムに体を合わせていたが、その調べに体の動きが止まり、目を見張はる。
「アニメ曲だ! これ……」
日本で聞いた曲、アニメ曲がクラシック風にアレンジされている。
「えぇえええええええええ?」と驚きながらも笑いが出る。
「なにこれ、楽しい!」
なにせ初めて聴く知らない曲ではない、私の中では知ってる曲で、なおかつアニメ風も知っているのだ。
他の曲もどんどん聞いていく。
……なんと、前等部推薦クラシック曲の大半が分かるアニメ曲だった!
その中には、アニメの絵も思い出したものもあった。
最初、この国の感覚でなのだろう、目が異様に大きいとか、子供の書いた絵のような、それでいて詳細な絵に違和感しか覚えなかったが、絵が動くアニメ自体を思い出し、その楽しさまで思いが蘇ると、アニメ画を見たい、とまで思うまでになっていた。
アニメ画を描いた人の才能って天に愛されすぎ!
曲によってはフィドルに合わせて元の曲から移調が必要だと思うのだが、なんて素敵なアレンジなんだと思うくらい自然なクラシック曲なのだ。
もしかして、こちらのクラシックから日本のアニメ曲ができたのかなぁ? とその可能性も考えて……やめた。考えたって少なくとも今は分からない。
音楽の天才たちに拍手を送るだけだ。
今! 目の前にあるこのアニメのクラシック風曲を聴けるのだ。
なんて至福!
結局、その日はずっとアニメ曲、、もとい、クラシックの動画を観ていた。
――充電が必要ないこのタブレットはいい! そう思いながら……
次の日は、タブレットをお店に持ち込んで朝から音楽で常連客を迎えた。
曲はもちろん、冒険に出かける前に気分があがるようなテンポのクラシック風アニメ曲で。音量は抑えて。
アニメ風の調べで鼻歌が出てしまったりしたが、お店に音楽は必要だなと思う。きっと常連客の方々にも喜んでもらえたことだろう。
――その日の私が朝からニマニマしながら鼻歌を歌い、体を揺らして接客する姿が、スライムのようだったとか、聴こえてくる音楽とシャインが出す鼻歌は少し音程が違って、どうやら音痴のようだ、とか、冒険者さんたちの間で色々と言われていたことを、私は知らない。
……母から朝の音楽は禁止されたんだけど、なんでかなぁ? 人がいないときならいいって……
記憶が戻ればもしかして読めるかと思っていた楽譜は読めないままで、どうしようかと思ったら、近いところに解決策があった。
母が楽譜を読めるという! うちの母、できる子! だった。
楽器がフィドルなので、音を聴いたり、見よう見真似でも弾けなくはないだろうが、読めるに越したことはないから、素直に嬉しい。
相変わらず、音はギコギコだけど、楽しいからいいんだ。
他の教科も視聴している。
本読みも続けてはいる。まだまだ分からない単語が多いけど。
タブレットの充電がいらない理由が本に載っていた。
魔導具は空気中にある魔力エネルギーで動くのだという。
充電せずに壊れない限り、永久に動くって、素敵だね。
「空気中の魔力エネルギーを変電するのが、魔法なのかな?」
考えても分からないから、他の読める部分を読んでみた。
――『体も魂もエネルギーである。森羅万象とはエネルギーの表れにすぎない』
エネルギーが集まったり離れたりして形どっているということらしい。
……動力なしに動かせるのが魔法だと思っていたけど、魔力エネルギーをこの世界での動力に変えるスイッチのようなものが魔法で、魔導具に書いてある魔法陣はその発動条件が書かれているもの、のようだ。
魔導具は空気中の魔力エネルギーをフリーエネルギーのように使えるため変電機能があるらしく、魔法陣で魔術をかける方法が一般的なのだとか。
そこに魔石を組み合わせることにより、同時にいくつかの事をできたり、起動時の初期負荷が大きいものも動かせる。
体内にある魔力エネルギーは自分が願ったように変えれやすいらしい。動力性能がいいということ。個々には魔力の個性により属性という名で理解しやすいように区別もしている。
体内に蓄積できる魔力エネルギーは使えばなくなり、同じ量の魔力を蓄積するまでには時間が必要。
……わかんないぃぃぃぃいいいいいいいい
ここまで読むだけでもかなりの時間がかかった。動力の意味から調べないといけなかったし。
「動力とは機械等を動かすために必要となるエネルギーのこと」らしい。
でも、これ今の六歳の私ではこの文章すら本当は何となく分かるよ、くらいだよねぇ。
単語の意味が分かるものがあるっていうのは、前世の記憶のお陰だけど。
――結論、魔法とは便利なものってことね! ドヤ?
読む前と読んだ後の魔法に対する認識が全く同じ!!
いや、だって読んでいくうちに神話だの神々の登場から数式、化学式も出てくる。
魔法以前の知識がどんだけ必要な初級の魔法本なの? 基礎とか、誘いとかの字は本全体の内容には掛かっていませんでした。
くっ、くじけそう……。私は膝と両手を床に付く……。
(二秒後)ま、いいや。
よくわからないときは、実践で身につけよう。
本には風魔法とかの呪文などもあったから、できたらいいなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます