第17話

 顔を見合わせ、ルカが進行方向を指さし、手首をクィッと動かし合図を送るとそれぞれに動き出す。

 動く草むらを遠回りに囲むように、その姿を確認するために移動して行く。


 動物らしきものが見えない。地面を這うような蛇系の魔物だろうかと注意しながら、背を屈めて進んで行く。

 自然の風に添う動きとは違う、不自然に揺れている数本のツタが目に留まり、そのツタの元を目で追いながら、移動する。


――ん? 植物?


 そこにいたのは、ゆらゆらと動く植物二体。


 二人は楽しくおしゃべりでもしているかの如く、ツタ同士を絡ませあったり、小さな「キュー。キィー」って音を立ててる。

 植物なのに、意思を持って動いている。

 体の一部は土の中だけど。体が根っこなのか、一部出して動かしているのが、手のようでもあり、湯船に浸かりながら喜んでいる風なのがおかしい。葉っぱやツタもゆらゆら揺らしているのは髪なのか、それもまた手のようにも思えた。


 うぉ! か、かわいいよ?! 

 気づいた時にはその子たちの前にたち、話しかけていた。


「かわいいねぇ」


 見上げる植物もどき。目がどこかは分からないけど、体全体でこっちを見てる感じなのが小動物を連想してしまう。植物だけど。

 しゃがんで、手を出しながら、自己紹介する。


「私、シャインっていうの。とてもかわいいね、あなたたち。おしゃべりできるの?」

「おいっ、シャイン、そいつらは――」


 ルカの焦った声が遠くに聞こえるが、今はこのかわいい子たちを見ていたい。それでなくても、フェンすらも触らせてもらえなかったんだ。

――今回は邪魔しないでもらおうかい。


「キュ キュ」

「キュー」


 なんか言ってるぽい。かわいいを連発してしまう。癒されるぅ。ゆらゆらと揺れる植物もどきと一緒に体を揺らしてにこにこしていると、短いツタの葉を伸ばしてくれる。


「握手?」


 握手かなって思って手のひらを出したら、そこにツタの先でトントン、ツゥー、トンと「キュキュ キュー キュ」って鳴いてる。

 ん? これもしかして……


「ええと、最初からもう一度お願い。……おしゃべり する うた うたう……!おおっ! おしゃべりする、歌うたうね! 」


 短い根っこの手もどきをあげる植物。くぅ、可愛すぎる。殺しに来てるよ、可愛さで。


「歌も歌えるのね! 私も歌すきなのー。一緒に歌おう~」

「シャイン、お前何してんだよ。そいつら魔物だぞ」

「え? こんなに可愛いのに? 大丈夫だよ。この子たちと一緒に歌を歌うの」

「はぁ?」

「ほら、邪魔しないで、あっちいって、シッシッ」


 ルカが代表して私の処へ来てくれたらしいけど、今はこの子たちに夢中なんです。


「何の歌がいい?」


 えっと「--・ ---・- ・・ -  --・-- -・- ・---・ -・--・」だから――


『りずむ あわせる』

「おお、合わせてくれるのね。何がいいかなぁ。楽しいのがいいよね?」


 頷くようにゆれる植物たち。私は某アニメ曲を歌う。

 それに合わせ、「キュ キュ~」と楽しそうに合わせてくれる。くぅ、なんて癒し!

 次の曲を考えようとしていたら、またルカと今度はクレトまで一緒にやってきた。


「お前、そいつらと話ししてるみたいだったけど、何したんだ?」

「何もしてないわよ。この子たち、モールス信号使うんだよ。おしゃべりできるの!」

「モールス信号? 暗号か?」


 ルカに答えたら、クレトから突っ込みが入った。しまった。これって前世の記憶だね。やばい? でも今はこの子たちと遊びたい。


「とにかく、私は今この子たちと歌を歌って楽しんでいるの。一緒に楽しまないなら、あっちに行ってて」


 ピーターたちのいるところを指さして言う。二人は顔を見合わせてこそこそ話をしている。

 次は盆踊り音頭で行こうか。アニメ音頭やサンバもいいなぁ。


「ルカ、未来型と魔物モンスターの歌ならどっちがいい?」

魔物モンスターの歌? 未来型のほうがよくね?」

「じゃ、二つとも」

「おいっ」


 答えるのが遅いよ。悩むくらいなら二つとも歌い踊るのがいいなって思っただけなんだけどなぁ。


「二人とも私の後について同じように踊ってね。振り付けは簡単だからね」

「俺らもかよっ」

「……」

「この子たちは土の中だから。ぼぉっとしてるより今を楽しもう~」


 マントで盆踊るっていうのもシュールだなと思いつつ、


「♬ はぃ~、あ、どっこい どっこいどっこ~」


 歌って踊る。ルカは「こうなったらこいつを止められるものはいない」とか言ってるけど、私はイノシシじゃない。

 楽しく踊っていると、一緒にフリフリしてた二体の植物もどきがいつの間にか土から出てきて、体を揺らして踊ってる。葉っぱ部分を抜いたら私の膝より少し大きいくらい。ツタをかなり自由自在に伸ばせるようだけど。


 続けて踊ってる間にピーターたちも一緒に踊ってる。ノリがいい仲間たちと笑顔で踊りあう。ピーターが「ダンスとは全然違うな」って、言ってるけど、ペアじゃなくても踊れるし、これはこれでいいと思うんだ。

 一人クレトだけ、見張りしてくれてる、のかな。

 

 散々踊って、疲れたってころ、植物もどきの足ぽい根っこが折れていることに気づいて、急いで近寄り、腰のポーションを出す。


「足が折れてるよ! この治療ポーションで治るかな……」

『キュ……だいじょうぶ また はえてくる』

「良かった。生えてくるんだねぇ」


 モールス信号を解読する。


『おれたの あげる それに まぜる からだ つよくなる』

「ん? このポーションに混ぜると体が強くなるの? 体力増加?」

『よわい からだが つよくなる』

「虚弱体質改善のほう?」


 そうだよって言うようにさわさわって揺れる。

 おおお! それって願っていたものじゃない?!


「ありがとう!」


 笑顔でお礼を言う。


「ね、名前ある? 君たちの名前教えて」

『ない』

「ないの? 次また会いたいな」

『なまえ つけて。 このはで くさぶえ ふく わかる かれない』

「え? 名前を私がつけていいの? この葉を草笛にして吹くと、聞こえるのね?」


 頷くのを見て言う。かれないって、枯れないですよね?いいなぁ。ババぁになってもしおれ花にはならないら……ハッ! いかん、六歳が思っていいことじゃないっ。頭をぶんぶんと振った。


「ジーンとサイはどう? 女の子ならもちもちしてるからもちこと、ぷにぷにで、プーニはどう?」


 後ろで「もちもちもぷにぷにもしてねーよ」とか聞こえるけど、私的にはそう見えるのです。


『……ジーン プーニ』

「ジーンとプーニね! 分かった! また会おうね~」


 ジーンとプーニはバイバイと手をふりながらどっかに移動して行った。

 一部の根っことはいえ、自分の腕くらいもある大きさに、たくさんいいものが作れたらいいなぁと思っていると、ルカが声をかける


「マンドレイクだろ?」

「マンドレイク?」

「マンドレイクっていう魔物。植物の魔物、ナス科でマンドラゴラ属性。毒をもち、土から出すときに悲鳴をあげて、幻覚を引き出すと言われている」


 クレトが詳しく説明してくれる。


「ナス科? ツタがあったし、あれはどっちかって言うとウコギ科の――」

「そんなの捨てろよ。マンドレイクは毒があるんだぜ」


 話を遮り、私が持ってる根っこを指さしてイバンが言う。


「これ、私がもらったの!」

「ここで話し合いもなんだから、外に出よう。みんないいだろう?」


 ルカの声でダンジョン内にいたことを思い出し、周りに注意しながらゾロゾロと出口に向かう。

 

 ダンジョンの外に出て、冒険者ギルドへ向かいながら、話し合いをする。

 もちろん、こってりとルカに私がお小言を頂いた後です……しくしく。


 ゾーンとプーニからもらった根っこは私にくれたってことで、私がもらっていいことになった。

 他はみんなで分けるというのを辞退しようとしたけど、スライムはほとんどシャインが倒したからと、規定通り山分けすることになった。

 レッドベアは五層以降に出るのが普通だそうで、報酬に期待できるそうな。


 レッドベアに比べたら大量スライム魔石は幾らにもならないらしいけど、男の子たちが「もらっとけ」ってかっこよく言ってくれるのだから、と「もらってあげてもいいよ。どんどんもってきて」って言ったら頭をパシンとはたかれた。狩りをする男性って素敵だと思うから、これからも頑張れってことで付け足しただけなのに。……おかしい。 


「なんか疲れた」

「時間的には二時間も潜ってないのにな」


 そう言いながら私を見るのはやめてほしい。


「……はい、すみません」

「これからは勝手に魔物の前に飛び出すなよ。下手したら殺されるぞ」

「あの可愛さは殺人級のものがありま……いえ、何でもありません」


うぉ。皆さんの目からビームが出そう。


「そ、それよりレッドベアを倒すなんてすごいね! 大きかったねぇ」

「レッドベアが二層にいるとは思わなかったな」

「本当だよな。シャインの目つぶしがあんなに効くとは思わなかったけどな」

「そうそう、あんな小手先のって思ったけど助かったな」

「え? 何?」


 話をずらしたとホッとしてたら私の名前が出てきて、焦る。


「お前が目くらましだって言ってくれた、手作りの手榴弾みたいの、あったろ」


 そういえば、二個だけあったから、コントロールが上手いマリオともう一人誰か持ってと渡しておいたんだっけ。


「あれで、動きが鈍くなったからな。そうじゃなければ、応援に二人呼んでたかもな」


 私、弱いからね。てか、うちら見習いなんだから、できることは全て準備しないと怖いよ。


「投げた人の腕が良かったんだろうけど、貢献できたことがあって良かったよ」

「ま、それ以上にお前は仲間を振り回しすぎだ。今日は初めてってことで皆が大目に見たってことを忘れるなよ」


 ううううう。どうあがいても、怒られるのは逃れられないのね。

 下を向いて、反省。しようとしたら目に入る根っこ。これで実験できると思うと顔がにやける。気分も上がって顔をあげたら、ルカの三角お目目に出会ってしまい、私のあごが急下降した。


 怒られるまで、気分が興奮してたから気づいてなかったけど、モールス信号もアニメ音頭も前世の記憶だなぁ。急に堰を切ったように話を始めたときもそうだけど、気分が揺れたりして安定を欠くと前世の記憶が出やすいのだろうか……。

 

「あいつらリア充だったな。植物のくせに、魔物のくせに、すげーうらやましい!」


 ピーター、今日の感想がそれですか……。


「隣で激戦してたのも気づいてなかったようだしな! 羨ましすぐる」


……こっちにも一匹いた。ピーターとイバンの植物カップルに対する嫉妬感が半端ない。


 彼らの幸せそうな嫉妬で燃える姿を生温かく見すえながらも、全員が無事で帰って来れたことが心をほっこりさせていた。

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