第16話
冒険者ギルドの説明会や講習会もかなり出て、とうとうダンジョンに潜ることになった。
どうしてこうなった!
いえ、普通に誘われただけです、はい。
おかしい。
私は狩りやダンジョン潜りはムリ、と言ってたはずなのに、なぜ誘うの? とは思うが。
装備が完璧だな。
愛用の剣に、母が着せてくれた一式……
なぜ一式装備があるのだろうか。私に合うサイズで。
一部は貰いものぽいけど、新品もあるのはどうしてでしょうか?
「あら、あれだけ剣の練習をニコラスについて教えてもらっていたら、冒険者に登録した時点で、ダンジョン潜りに行くと思うわよ」
「自分で作ったポーションもいっぱいあるね」
外堀は埋められていました。はい。
でも、カワかっこいい!
装備なのに、ケープワンピース風の魔法使いマント。
これファッションショーに出てもよくね?っていう素敵すぎるデザインで、腰部分の絞りを取ればマント。
そこに、レギンス風のピッタリしたパンツと革靴が見えている。本当はレギンスではなく、上下に分かれたボディスーツなんだけど。
ちなみに、これら全て魔法陣が描かれている……服だけど魔具?
ボディスーツは体温を一定に保つ働きと、素材自体が伸縮性があり、破れない、切れにくい。
魔物の皮で作られた革靴は、俊足可能になり、足が疲れにくいとか。
最後、マントは魔法攻撃を跳ね返す。石化させる魔物とかに対応。毒も受け付けない。汚れないのはお約束。
あ、まだあった。腕のバングルと髪留めのバングルも魔導具だった。これは常用しているものだけどね。
後ろの高いところで一つにまとめて、結んでいる部分にも魔導具。後ろも抜かりはございません。
とても軽くて動きやすい装備に、幾らしたんだろうと気になりつつ外に出る。鎧の全装備でないだけましだと思おう。
今日の装備のテーマは『過保護』。
「お、準備も完璧じゃねーか」
「……親たちが先走っただけ」
ボソッと答える私の言うことは聞かずに出発する仲間たち。
いつものメンバー六名ですね。
かわいい女の子はどこかにいませんか? 一人くらい女の子入れてよ。
ダンジョン前に到着した。
その場で耳飾り型の片耳通信機を六個出してパーティメンバーに渡していく。
「なんだ、これ」
「通信できる道具。トランシーバーと思って。二キロくらいの範囲のみ使えるからね」
「は? なんでそんなのをこんなに持っているんだ?」
「父から貸してもらった、というか押し付けられた? 後、これまだ売られていないけど、一つで二つの初級ポーションになるから一つずつ持って行って。売り出されるまでは、まだ秘密でお願い」
言いながら、ポーションも彼らに私が押し付ける。
通信機をみんなで装備して、ちゃんと声が聞こえるか、音量も確認する。
小声はきちんと拾い、どんなに大声を出しても普通の大きさに聞こえる設定になっている。
右耳につけるようにいう。左脳の言語処理能力があるほうで聞いたほうがいいかなと思うから。
一人くらいは反対側にしていたほうがいいかもと思ったのもあり、反対につけたいっていうマリオには左耳に装着してもらう。
実はこの耳飾りはだいぶ前からもらっていた。採集をするから、父が心配したらしいが、七つもくれるって、ダンジョン行くこと前提だった気もしなくはない。
「どこまで行くんだって装備になったな……」
「こんなのCランクパーティでもつけてるの見たことないぜ」
色々言われたが、スルーさせてもらおう。
私の着ている装備がフル魔導具だなんて言える雰囲気じゃないし、ポーションのことは言えないし。
「行くぞ」
ルカの声で足を踏み出す。
私は後衛。初ダンジョンってこともあるけど、中級の風魔法の威力が割とあるから距離も出せるし、中級ポーションは私だけしか持っていない。中級ポーションはいらないって声もあったけど、薬剤師なのだ私は。見習いだけど。
見習いパーティは基本三層までしか行けないことになっている。
今日はもちろん、一層だけ巡る。主に私の願いで……。
――一時間後
現在、二層に来ている、オーバー。
なんでこうなった?!……本日2度目の心の叫び――
いえ、二層に行くのを了解したのは私ですけども。
今日は一層だけじゃなかったのかって?
ええ、そう思ってました。
一層では、スライムしか見かけませんでした。
そりゃ、最初は悲鳴を上げながら、仲間の後ろに隠れたりしてましたが、結構出没されるスライムさまにですね、だんだん近づけるようになり、一度剣をズブッとですね、こう前に突き刺しましたら、シュワヮと無くなってしまったのです。
手ごたえというものが、ですね、消えちゃうからそこまでなくて、ホッとしたら、もう後は次から次へと駆け回ってスライムを倒してしまいまして……。
――まさかの一日で、いえ、一時間でスライムに飽きた、そういうことです。
少し前に震えてなかったか? ですか?そうですね。そういうときもありましたね、かっこ遠い目付きです。
いえ、まさかスライムしか出ないのが一層とは思いもしなくてですねぇ。あ、これはここのレイバダンジョンだけらしいです。何でも他の魔物が嫌う匂いか音を出すスライムがいるんじゃないかとか言われているらしいですが。
小さすぎる魔石しかほぼ出ない。
なぜ他の仲間が一層だけの攻略を嫌がっていたか、実感できてしまい、二層に来てしまったわけです。
はぁ。口調がおかしい。元に戻れ、自分! どっか行くない。
緊張の連続の果ての精神状態が心配になる目の前では、二層に来れて、元気を見せるメンバー。
一層では、ほぼ私一人で駆け回っていて、他のメンバーは座ってたり、マイクオフにして話してる輩もいたな。
ただし、二層に滞在する時間は三十分から長くても一時間にしてもらった。
「ここからは気を抜くなよ。蛇系から昆虫系まで色々出るからな」
「分かってる」
声まで元気がみなぎる仲間たちと打って変わり、私のほうはまたへっぴり腰になりそうになるのを踏ん張る。ここからは、みんなにお任せしよう。万が一、私の近くに魔物が出ても、あれはスライムと同じ、と思えばいい。
「シャイン、講習で学んだと思うが、魔物の種類によって攻撃が違うからな。気をつけろよ」
「あ、そっか」
耳飾りからルカの声が届き、スライムと同じと思っていたらだめだと気づく。
「おまっ、聴いてなかったのか?」
「聴いてたよ。ただ、スライムと同じって思い込もうとしてただけ」
「スライムも種類によって攻撃違うだろ」
「え? 攻撃違った?」
「……今はいい。後で話す。周りに注意しろ」
「了解」
呆れたようなルカの声音だなぁ。俊足が出る靴に気を取られすぎだったか?
恐る恐る進んでいくと、斜め右前方の草むらが動いているのが見える。マイクに小声で伝える。
「二時の方向、草むらの動きに注意」
「みんな気をつけろ」
他のメンバーにちゃんと伝わったことにとりあえずホッとしたその時、焦った声が耳に届く。
「九時の方向に――レッド・ベア発見!」
九時の方向を一瞬だけ確認しようとしたけど、遠いのかここからでは木に隠れているのか見えない。
「二時の方向にマリオとシャインが注視。それ以外は九時の方向の敵へ攻撃開始!」
「了解」
私は動く草むらに注意を払いながらも、攻撃を開始する他の仲間も気になってしまう。
呪文を唱える声や「はぁぁああっ」とか「えいっ」という仲間の掛け声が耳に届く。
「グァアアアアアア」
レッドベアの咆哮が響き渡る。その声が思ったより近くで聞こえた気がしてマリオが二時の方向へ注意を払ってるのを確認しながら、九時の方向を一瞬確認する。
ルカより少し大きいくらいの個体だけど、動きが早いのか思ったより近くで戦っている
クレトの「切り裂け! 【
「グォオオオッ」
レッドベアの怒声で命中したこととまだ倒れてはいないことを知る。次の瞬間、「喰らえっ」という大きなルカの声に思わず振り向く。
いつの間にかレッドベアの背後に回ったらしいルカが、傍の木を足掛かりにして、飛び上がりながら、レッドベアの右後方から剣を振り下ろす。
その剣を受けたレッドベアは粒子になって消えていった。そこまで目に入れ、急ぎ二時の方向へ顔を戻すその耳に「九時の方向、討伐完了! 二時に向かう」声が飛び込んでくる。
大きな動きはないが、草むらはまだ揺れている。
九時の方向へ行っていたメンバーが戻り、息が落ち着くのを待ってから、動きを開始する。
さぁ、何が待っている?
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