第37話

 通いで家庭教師から学び始めたのはもう秋のおいしい香りが辺りに漂うころ。

 最近は、栗がおいしい。焼き栗最高~。モンブランは神々の食べ物じゃない?

 栗は種だからね、ぎっしりと発展したい気が入っているんだよ、きっと。たぶん?


 そういえば、春のタケノコは栄養学的には食物繊維くらいであまり価値ないらしい。でも一日で食べれなくなるくらい成長が早いんだから、春の優しい気でいっぱいの食材だと思うんだ。

 あれ? 私、タケノコ好きだっけ?……前世の自分は好きだったらしい。

 たまに混乱する。



 マルガリータたち、一年上の子供たちは学園でいい成績を取ったそうだ。

 だが、また制度が変わった部分があったらしい。主に地方領地にはきつい方向で。


 私はマルガリータに言われていたように、結構優秀だったらしい。

 周りの友人たちからアホの子とか、残念な子とかが私への評価だったから、少し心配してたんだけど、一つ上でも本当に合格するくらいはできるそうなんだ。

 そういえば、貴族の男の子たちからはすごいすごいと連発されてたっけ。

 でも、彼らって子犬みたいで、平民のルカにも同じこと言うから、彼らの性質かと思ってた。


 一対三とかで試合をすると、後ろにも目があるんじゃないかって動きをルカも私もするらしい。

 他には魔力を筋力にまわすから俊足を使えるとか、怒ると目からビームが発射される――されません! どうやったら目からビームが出るかね? 怒っているのではなくて、動体視力を上げようと目に力を入れてるだけなんだけど……。

 こんな評価を頂いてる。……やっぱり嬉しくない気がしてきた。


 座学の方は、前世の記憶がたまによみがえるから、できた。そうだよね。小学低学年の内容だもの。気象とか忘れていてもこちらの生活で使っている部分だし。雲の様子で天気の流れとか日々の暮らしで感じるから、かえって詳しいかも。

 神話に関しては、前世の北欧神話だったし。全部思い出したわけではないから完全に一致するのかは分からないけど。

 各領地の名前とかはすでに覚えたし。領地の特徴に関しては私の好きなお菓子に例えて覚えた。

 読み書き、計算は言うまでもなく。

 音楽も、毎日ぎこぎこしてたら、かなり腕が上がってた。楽しいのがいいらしい。


 とにかく、家庭教師たちが言うには「教えることはありません」だった。小学生の部分はすでに終わっていると。


 それに比べて、貴族としてのマナーはまだまだらしい。

 ダンスとかもそうだけど、貴族としてのマナーの先生を雇うことになった。

 結局、音楽とマナーだけ一年学ぶことになった。


 レイピアは兄の帰省に合わせて先生が来るからその時一緒に習う。

 入試と直接関係する習う科目が音楽だけ?

 習いたかった魔法は中級魔法を三つ以上だせるし、威力もこれ以上いらないということで、却下された。子供にあまり多くの魔法を扱わせるのは心配らしいけど、私は知りたいし、できるようになりたいのだけどな。

 しょうがない、タブレットが頼りだ。後はクレトに学ぼう。


 そういえば、クレトって元貴族だったんだよねぇ。それもたぶん高位貴族ぽいんだよな。ま、私は魔法を学べたらそれでいい。

 

 今日はクレトも誘って魔法を勉強しよう。私はいそいそと先にルカの家に行ったのだが、彼らは剣を持って、出かけるところだった。

 イバン以外のパーティメンバーが揃っている。


「よぉ、ちょうどいいな。一緒に行こうぜ」


 にかっと笑って剣を肩に担ぐルカが言う。


「私、魔法を学びたいと思ってたんだけどなぁ」

「最近は、お屋敷で座学ばっかだろ? たまには体動かさないと鈍るぞ」


――いえ、座学は学べてません。


「ダンジョン?」

「いや、村の方でシカやウサギなどが出すぎて困っていると駆除依頼があったんだ。それを受けようと思ってる」

「イバンは?」

「寄ってから行く」


 イバンは最近、家の手伝いという鍛冶屋見習いの仕事が多いらしいから行けるかな。

 イバンの家に行ったら、予想通り見習いの仕事をしてた。


「シャインが行くのかぁ。シャインがいると面白いことに出会えるから行きたいんだけどなぁ。今日は忙しいんだ、残念だ」


――面白いことに出会えるって何ですか? 魔物対峙たいじとかいつも精いっぱいなんですよ? 退治たいじじゃない。私にとっては、対峙の時点ですでにドキドキしすぎるのだ。


 真っ赤な血じゃないけど、青の血が出るんだ、魔物だって。消滅するときはすぅっと消えるのに。流す血がないわけじゃない。それが未だに怖い。治療ポーションをかけてあげたくなる。でも魔物のあの目を見ると討伐しなきゃってなる。

 目が動物とは違った光を宿しているんだよね。

 ジーンたちは目がどこについてるか、分からないのだけど……だから怖くないのかな?



 

 村に着いたとき、私は肩で息をしていた。

 村に来るのに俊足まで使って四十分かかるって聞いてませんでした。


「シャイン、お前どんだけ体力落ちてるんだよ」


――違うよ! ルカたちの体力がすごい上がっているんだよ! 


 息があがって、反論できず、心の中で叫ぶ。

 ルカたちが村長に挨拶と説明を聞く間、私だけ休んでいた。挨拶は大事だけど、ムリ。休ませてもらう。

 ルカに「これから毎日ルカの家までの俊足を使った往復」を約束させられた。ルカがいないときは、近くに住むクレトに確認ですと。


 実は、今年の入試試験でマルガリータが体力で加点した。加点点数は満点のマルガリータ……。

 体力測定での加点は騎士コースを目指す者が受ける。でも、他の子たちが受けちゃだめってことはない。加点されるのだから、皆受けろというマルガリータの無茶ぶりにより体力測定に男子は全員参加したそうだ。

 もちろん、この無茶ぶりは来年、私たちにまで及ぶのは間違いない。

 一点でも加点されるならそれでいいとの話だが、直接指導した私たちの加点点数をあのマルガリータがチェックしないわけがない。

 まさかの走り込みまで、それもマルガリータがいないのにさせられるとは思わなかったよ……しくしく。

 貴族の学園に行くのに、体力づくりに励む毎日になろうとは。どっか違う方向へ向かっている気がする。


 

「ほら、行くぞ」


 ルカの声で立ち上がる。

 冒険者見習いってことで、ウサギを駆除してくれたらそれでいいらしい。ウサギが増えすぎて困っているからとのこと。シカはたまに出るそうだ。

 ウサギだろうが、シカだろうが、私は冒険者。やってやろうじゃないか!

 


――畑横。


「ムリーーー! こんな可愛いのをやっつけられませーーんっ」


 私の叫び声は響き、そのために逃げる動物を退治するのがさらに大変になる仲間たち。 


「お前がやらなくていい! 追い込め!」


 くっ! 私は若干泣きべそをかきながらも、その指示に従った。

 追い込む途中に蛇が出たので、それは一突きで退治しておいた。

 ざくっと斬られたところから血飛沫があがる。

 一度止めた足をウサギに向けて走り出しながら剣を振り、蛇の血を飛ばす。


 でも、追い込んだウサギは斬れない。代わって退治する仲間。

 蛇は平気でウサギはだめって自分の身勝手さに少し凹むけど、あの蛇は人間も食べる。一部人間だって蛇を食べるけど……。


「ピーター、イノシシだ!」


 息を完全には整える間もなく耳に届くマリオの声。


「どこ⁉」

「シャインから八時の方向!」


 ルカの言葉に私は左後方に振り向き、駆け出す。

 ルカは全体を見渡せる目でも持っているのだろうか? 私より前方向にいたはずだけど。流れる景色と共に浮かんだことも、目の前の場面シーンで霧消した。


 私が見たのはピーターに突っ込んでいくイノシシの斜め後姿。心臓が跳ね上がる。

 ピーターはギリギリで横に転がりながら避けると起きざま短剣を投げる。

 びゅっと音を立てイノシシに命中した。


 だが、威力が足りなかったのか、イノシシの勢いは止まらないけど、私はピーターが無事で冷静になれた。

 イノシシは巨体の割に小回りが利き、敏捷だった。

 すぐに方向転換してまた迫ってくる。

 私は魔力を手にのせ風魔法を放つ。


 「切り裂け 【風刀エア・カッター】!!」


 弧を描きながら風刀がイノシシの横腹に入った。

 そこにマリオの魔力をのせた矢が突き刺さる。

 動きが鈍ったところへピーターが剣で止めをさした。

 

 終わってしまうとあっという間だったようにも感じるが、たぶん数分もかかってない時間がとても長く感じた。ダンジョンに何度潜っても、狩りをしても慣れるってあるのかな。


「すごいな! イノシシを倒したのか! 村人たちに喜ばれるぞ」

「畑近くだからな。駆除できてよかった」


 仲間たちは喜びながら、すぐに首の付け根付近の頸動脈を切断し、頭部を低くし血抜きしている。その後内臓を抜くそうだ。手慣れている。


「メスだから臭みもあまりなくておいしいだろうな」

「百キロ超えてるぞ、持って帰るのもどうだろ」


 結局、イノシシは村長たちに買ってもらうことになり、お金が貯まった。

 血抜き後の流水にさらしたり、皮剥や解体はそれなりに時間がかかるから。

 私たちは村人たちの笑顔に見送られながら村を後にした。


 ……うっ、今からまた四十分の走り込みだ。

 ポーションでピーターのかすり傷を治し、残りで魔力も補充したけど、やる気は補充できなかったらしかった。

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