第39話
時は悠々と過ぎ、とうとう試験の日を三日後に控え、私たちは王都に向かう。
王都と各領地は地下鉄で繋がっている。放射線状にのびた地下鉄だ。
あたかも、全ての領地の道は王都へ繋がるという体だ。
王都から見て南南西の端に位置するアンブル領は、王都に行くまでに二つの領地を通過する。
地下鉄に乗るのはもちろん初めてで、貴族街の中にある駅に着くまで胸が躍っていた。
思ったよりこじんまりとした駅。
自動キャリーをふんわりと押しながら、エレベーターに乗り、地下へのボタンを押す。
「シャインのキャリーいいね?」
「マジックアイテムの鞄ほうが便利な気がするよ。これはちょっと機能が万全じゃないの」
リタに言われたけど、この自動キャリー、モーター付きなのはいいが、持ち主を認識して自動で付いてくる機能までは付いてないのだ。少し片手落ちだけど、子供用だし、仕方ないかな。
マジックアイテムの何でもポケットならぬ空間収納魔法の鞄のほうが、小さくて、軽いしそっちのほうがいい気がする。空間容量は様々らしいけど。
地下へ向かうふわっという落ちる感覚が眉間を寄せさせた。
「もどしそう」
「吐くなっ」
そう言われても、朝いっぱい食べすぎた、と思うと同時に軽い揺れで地下に着いたことを知る。
ドアが開いて深呼吸をしてようやく落ちつく。
地下鉄は、金属の塊が魔石で動く魔導車の大きいバージョンと言う感じだろうか。
一両のみだが、個室が六つと二階は寝台にもできる広いスペースがある。
直通なら二時間少しだが、二つの領地で止まるので二時間半ほどかかる。
馬車で王都まで行くと、数日かけて行かなければならないから、かなり早い乗り物だ。
角を曲がると、駅のホームだった。
幻想的な灯りがぼうっと魔導車を照らし出しているが、金属の塊だから、そこまで情緒はないな。……少し怖いけど。情緒はないくせにオドロしいって何だろうね!
「幽霊でも出そうだな」
ルカ! 言うなぁあああああっ!
「シャイン、大丈夫?」
「うん、リタ」
私は怖かったから、というのではないが、決してないが、リタに抱き着いた。でも、それだと進めないから、手を繋いで開いてるドアから魔導車に乗り込んだ。
横でクレトが「十歳になるのにまだ幽霊が怖いのか」と言ってるけど、夏で早生まれの私にとっては十歳はまだ先なのだ!
個室番号三番にリタ、ルカ、クレト、私の四人で乗り込む。保護者はいない。領地の駅までは母が送ってくれたし、王都の駅では兄と執事が待ってくれている。そこから王都の屋敷へ向かう予定だ。
「遠足と言えば、お菓子よねぇ~」
私は席に着くなり、お菓子を取り出す。あまりお腹はすいてないけど、とりあえず目の前に、出す、出す、出す。
「はえ~よ」
と言いながらも、壁にあるボタンを押して台を出してくれた。ルカがいい仕事した!
「おっ、台が出て来たぞ。おもしれーな」
……知らなかったらしい。緊急呼び出しボタンだったら、とか考えない?
「飲み物あるけど、飲む?」
「飲みたい」
リタがボトルを出す。保温保冷で、ツーボトルになっているから、茶葉の濃さを調節できる優れものだ。
「王都に着いたら、義兄が待っているけど、そこからは敬語だけ使おうね」
「そうだな」
「今は四人で遠足を楽しもう~。景色が見えたら良かったのにねぇ。ずっとトンネルだのー」
「遠足じゃねーし」
「試験前だから、対策することとか考えてもいいかも」
むぅと口を尖らせた私にリタが賢い提案をする。
最後の試験対策やら、王都でしたいことなどを話ししてたら、あっという間に王都に着いてた。
改札口を出ると、兄たちが待っていた。
「フェルミンお兄さま、お待たせしました。お出迎えありがとうございます」
「シャイン、一緒に来れなくてすまなかったね」
「いえ、友人たちと楽しい時間をすごしました。こちらがルカとリタ、クレトです。みんな、フェルミンお兄さまよ」
「歓迎するよ、さぁ、先ずは王都の我が家に行こうか?」
それぞれ挨拶をし、私は執事のホセにも挨拶する。
ホセは、男爵家の五男だ。
経済的な理由から学園に行くのが難しいところを、父が援助し、その代わりに執事兼護衛として卒業後我が家で働いている一人だ。
フェルミン兄が学園に入る時に、執事として従事している。
私にも侍女を探していたらしいが、私が辞退した。元々、つけてもらえると思っていなかったのもあるけれど、ポーション作りなど、割と秘密が多いから。
貴族のお嬢様と違って、一人でしてきた部分も多い。それは貴族社会ではいいことではないかもしれないが、侍女がいないことも私的には最適だった。リタがいるから、ってのが実は大きいけど。
馬車で揺られること、三十分程だろうか、馬車が止まり、ドアが開く。
領地の屋敷よりは小さめの屋敷が目の前にあった。庭が狭い。森は……ないね、うん。ここに滞在することは私はほとんどないだろうけど。
社交界の時期に使うお屋敷。小さめだけど、中の応接室やホールは広めに作られてあり、豪華に見える装飾品で飾られてる。
「シャインは小さい時に一度だけ来ているんだけど、覚えてないだろうね」
「え? そうなのですか。うーん、覚えてないです」
まだ赤ちゃんの時だったのだろうか……
地下鉄にも乗ったことがあったのかもしれない。
「シャインの部屋があるから、そこをリタも一緒に使ったらいい。ルカとクレトは僕の隣の部屋を一緒に使ってくれるかな?」
部屋に行くと、中はピンクと白で装飾されていて可愛い小物が置いてあった。
ベッドはセミダブルだから子供二人、十分な広さだ。侍女がついて来て、荷物を整理してくれるけど、三日分しかないからすぐに終わる。
私たちは昼食を頂いて、その後王都内の観光へ出かけることにした。
兄と執事のホセが一緒に行ってくれる。
「お兄さま、王都のおいしいお菓子のお店に行ってみたいです!」
「そういうだろうと思っていたよ。マカロンか、暑いからジェラードのお店はどう?」
クスクス笑いながら兄は言う。
「マカロンはお土産に、ジェラードは食べるために行きましょう!」
「どっちもかよ……、ごほん、シャイン、お菓子だけでなく、観光もお願いしたいのですが」
ルカが言葉を改めつつも、お菓子以外をすすめてくる。
「大丈夫だよ。観光もしつつ、お店にも寄れるから」
兄が言うが、私だって観光も考えていたよ?
王都は王宮を中心に、貴族街があり、その周りを囲むように町がある。
学園は王宮と東の森の間にあり、研究所なども近くにある。
貴族街と町は塀で分けられているが、貴族街のスィーツ店などお店の従業員は平民もいることから、各門の近くに集まっている。
アンブル領の貴族門は南北二つだが、この王都では王宮が北にあるので、北門は王宮へ繋がる。北東に学園が位置するので、北東門もあり、全部で六つの門がある。
王都の町も栄えていて、そちらの方が、ショッピングにはいい。貴族ご用達のお店が並ぶ通りもある。
今回は貴族街側のマカロン店でお土産を買い、町のほうでショッピングした。
色々と目移りしてしまって、お菓子だけは大量に買い込んだけど、他のはあまり買えなかった。
「おま、、ごほっ、シャイン、買いすぎだと思う」
「マリオたちにお土産で持っていくからね」
学園に通うことになったら、もうマリオたちとはほとんど会うこともないかもしれない。特に私は……。
だから、お土産いっぱい買うんだ。
「土産はお菓子でなくてもいい気がするが」
「てへ。そうだね。クレト鋭い」
「シャインお嬢様、てへっと舌を出すのは、可愛くても学園ではやめて下さいね。少し言葉が崩れてますからそこも気を付けてください」
「はぁい、ホセ」
「お返事ははい、でお願いします」
「はい」
「よくできました」
ホセは私たちのマナーも見てくれてる。なぜか注意されるのは私ばかりだけど。……おかしい。
「シャインお嬢様、家に帰ったら魔法の練習をしましょうか?」
「ホセが教えてくれるの?」
「ホセは魔法の練り方なんかが上手いんだよ。少しの魔力で大きな威力を発揮できるようになるコツを教えてもらったらいいね」
「嬉しい! 早速家に参りましょう~」
私が空にあげた拳はホセにそっと下されたが、魔法を教えてもらえることで心は踊っていた。
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