第40話
試験当日は、学園内で領地の子供たちと待ち合わせをした。というのも、マルガリータが、応援に来るとのことで、集合させられた、というのが正しい。
応援って何だろう?
応援されないよりはいいのだろうと思いこむことにして、集う。
「おはよう、みんな揃ったわね」
「「「おはようございます」」」
みんなが挨拶する。マルガリータが一番乗りで待っていてくれたらしい。
領主の娘も大変なんだね。
「筆記試験からあるけど、それはすぐ終わるの。次が楽器、その次魔法、最後が体力測定だから、最後まで私は応援するつもりよ」
「「「ありがとうございます」」」
揃うお礼の言葉。軍隊かい……。十人しかいないけど、揃うと周りの視線がさすがに痛い。
「今年は直前の変更がなければいいのだけれど。もし、試験内容が変わっていたとしても、持つ力全力プラスアルファで頑張ってくださいね」
プラスアルファとは何でしょう?
気合いとかど根性とかでしょうか??
よく分からなかったけれど、私たちは「はい」と声を揃え、会場へ入った。
張り出してある説明を見る。
【試験説明】
・筆記試験は三種目各十五分。休憩は各十分。
・楽器及び声楽は一人及びグループで五分以内。
・魔力量測定及び鑑定。中級魔法は発動させ、威力を試験官立ち合いの元、測定する。
・体力測定科目は五百メートル走タイム他
うん、聞いてた通りらしい。良かった。
と思ったら、変更事項の説明が始まると放送があり、急いで各教室に入る。
試験官の一人が壇上に立ち、説明を始めた。
「今年は魔力蓄積での魔力量増加はせずに、中級魔法発動を行い試験する」
ざわつく教室。一人の子供が手を挙げて、質問する。
「なぜですか」
「ペンダントをして試験に臨めないのは例年通りだ。蓄積量というのは、魔力鑑定ではっきりと別に識別できることから分かるように、本来の魔力量を故意に増やしたものだ。蓄積なしでどこまで魔力を使えるのかを見たいと思う。魔力量を測る時に試験管の指示に従うように」
蓄積なしで魔力を使うなら、いつもの力を使えないだけでなく、きっと魔力量のコントロールも大変になる。
なぜなら、三種類の中級魔法を打たなければならないが威力が大きいほうが点数が高いから、多くの者は自分の持てる最大を三等分して、力を使うだろう。そのいつもの感覚を生かすことができない。
それだけならいいのだが、元々の魔力量が少ない特に平民にはきついと言える。
もしかすると、平民の不合格者が増えるかもしれない。
「特別処置を与えてある」と続ける試験官。
だが、その内容は平民、特に富裕層でない者たちには笑えないものだった。
「中級魔法を使えなかったものは本来試験不合格ではある。だが、特別処置として、魔力蓄積量も加えて中級魔法を使えたものに関して、寄付金による補助合格を認める」
その寄付金額が金貨五枚。
これって、名付けて「平民からも金をとろうよ、作戦」?
ざわつきが大きくなるが、試験がもうすぐ始まると言われて、教室は静けさを取り戻す。――不安が渦巻く中で。
この話を魔法の試験前に言うのではなくて、筆記試験前に言ったのは、動揺を促すためだろうか?
主に下位貴族と平民の動揺を。
アンブル領は今年の受験生全員が下位貴族以下なんだけど……。
この教室に集う同領のメンバーが目に入る。全員ここにいるんだよね。動揺してなければいいけど。
私は挙手して質問した。
「中級魔法を三種類打ち出せたら合格ラインですよね? 少なくとも不合格にはなりませんよね?」
「……一応はそうだろうな。風魔法などは少なくとも的に届いていなければならないし、威力の大きさは測るぞ」
一応ってなんだ。やっぱり動揺を誘いたかったのかなと思わずにはいられない。
試験用紙が配られ、試験が始まった。
十五分の短い時間が過ぎ、休憩時間になるとリタが近づいてくる。
「シャイン、さっきはありがとう。シャインの質問で落ち着いた。他の子たちも同じだったようね。あれで場の空気が変わったから」
リタが小声で言う。私はリタの気持ちが落ち着いたことが嬉しくてにっこり笑う。
「よかった」
筆記試験が終わると、音楽だ。講堂へと移動する。
グループ演奏は多くない。足を引っ張ることになったり、同じ時間演奏するのに、目立たなかったりするから、独奏を選ぶ者が多いという。
アンブル領でも私たちクレトのピアノを入れた四人だけがグループ演奏だ。
グループ演奏から始まり、人数の多い順になる。四人組の私たちは二番目だ。
舞台袖で順番を待つことになった。
この日のために、私が彼らに指示したことは、首を傾げられたが、今の仲間を見るとその成果が表れていて、にんまりしてしまう。
試験だからと言って、特別な服は持っていないルカたちのために、私は義兄たちの服を集めた。リタには私の服を貸すのではなく、あげた。その服を彼らのサイズぴったりに仕上げたのだ。それこそ、ミリ単位で。
もちろん、顔に色合わせもしたし、彼らの体格に合うスタイルのものを選んだ。
裁縫が得意なリタがいて本当に良かった。
私だけだったら、ムリだったな。
お古でも、自分のサイズにぴったり合う服と言うのは、あつらえ服に見える。
それに、義兄たちは貴族だ。そんなに着古すこともない。数度着ただけの服もある。その中から、今日の一品を選んだ。
「ミリ単位って、そこまでする必要あるの?」
「あるよ。前も後ろもチェックしてね。このミリ単位で自分に合わせるのは、制服だと特に他の子と差が出てくるから、古着が古着に見えないんだ。それくらい自分に合わせた服というのは体も楽だし、見る方にもあつらえという評価を知らないうちに与えるの」
パッと見で、貴族か平民かの違いなんて、所作ももちろんあるけど、服など外見も重要なのだ。
髪の艶から、髪型まで彼らに合う形で、貴族たちが好みそうなスタイルを選んだ。教師の中には平民出身者もいるけど、絶対数が少ない。
爪の先まで気を使った。冒険者なんてしてると、そこまで気づかないから、私が気を付けた。
「舞台の上にいるのに、爪まで分かるかよ」
「気持ちから違うよ。それに、マナーの言葉使いは減点になる、ってことはどこかで試験官に見られているということだと思う」
そうやって、仕上げたのだ。
おまけに、リタはとびっきりの美少女だ。クレトもとても整った顔をしている。まぁ、彼は本当に元貴族だけど。
ルカは体格は大きくて、ニカッと笑うのがルカらしくていいのだが、舞台用と説得し笑い方も練習した。貴族らしい垢ぬけた感じはないが、ルカはルカの良さがある。
それに彼にはあの音量がある。
息継ぎもほとんどせず歌い上げる。
これらがどこまで通じるかは分からない。でも、持てないからこそ、工夫でできることをしてきた。それをこの音楽と言う貴族のたしなみの中で披露する。
だって、舞台の上だ。演出させてもらおう。
私たちが呼ばれる。
「さぁ、ショータイムだね! 楽しんでいこうー」
「シャイン、言葉遣い!」
「まぁ、私ったらおほほほほ……」
ため息ついて置いてくなぁああああ、という心の中の叫びを残して舞台に上がる友人たちの堂々とした後姿に、あぁ、これなら大丈夫だと安心して私も続いた。
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