第41話
舞台の上から講堂客席に目を向けて、ビビる。
うぉっ! すごい人だよ。
私たちは二番目に演奏という事もあり、かなりの受験生が会場にいる。
独奏になったら、ブースが分けられて、別々に演奏するそうだ。
グループ演奏だけは舞台なのだが、グループ演奏は毎年十組以下。
舞台での演奏をしないといけない、これこそが、皆が独奏を選ぶ理由だったのかもしれない。今更ながらに選択を間違ったのではないかと、緊張のあまり大勢の受験生を見て思う。
受験生だけじゃない。執事から、一部上級生、親・家族たちも多くはないがいるのだ。
三百人超える人の中での演奏。
その大勢の人の中で真っ赤の服で目立つ人がいた。その名はマルガリータ……。
上からだからなのか、色のせいなのか、威風堂々とした姿のせいか、マルガリータは目立っている。それもちゃんと前の方の席を確保してるあたり、すごいな。
手を叩きすぎな気がするけど、手は大丈夫かな? 後で治療魔法をかけてあげるかなぁ。
マルガリータのお陰で緊張がどこかに行ってしまった。ありがたい。
舞台を選んだ理由を思い出せ! 私は自分を励ます。
私たち四人は先ず挨拶をする。男の子は騎士の礼を、私とリタはカーテシーをして楽器を持ち席に着く。クレトはピアノの前に座る。
ルカは前に出て、深呼吸している。
クレトが一番優雅に弾くのもあり、出だしは美しいピアノの調べから始まる。
ルカが原曲キーで歌え、なおかつ彼の音声に合うアニメ曲、もとい、クラシック。
五分以内で演奏するから、五分近い曲のほうがいいのかもしれないが、それよりも歌いやすく、私たちが綺麗に弾ける曲を選んだ結果、三分台終わりの曲になった。
四分弱を弾きこなすのは子供の私たちには長いと思ったから。
クレトが奏でる調べに私たちが合わせる。それぞれ楽器が違っていて、音楽の先生の採点は間違うことなくそれぞれにされるだろう。
私はワクワクしながら、クレトとリタに合わせ、そこへルカのあの大音量がのった。
――うん、いい感じ! お互いの音が合わさり、生み出される私たちらしいハーモニー。
そこは音楽の神が支配する空間。
心を合わせて音を奏でたら、五線譜より螺旋しながら立ち昂る音符たちが跳ねながら踊ってる。
心地いいルカの振動するような声音が、音にのって響き渡る。
あっという間の四分近いときが終わる。
私はゆっくりと立ち上がり決めていた礼を取ろうとして、会場内がシーンと静まり返っているのに気づく。
自分が楽しすぎて会場の様子を全然気にしてなかったよ! まさか、あまり良くなかった? それともどこか間違った?
私は慌てて何か問題があったかを確認しようとして――
――ぶわぁぁあああああああと沸き立つ拍手と歓声に包みこまれた。
会場中の人に、起立して拍手されてる?
「っ…… え?」
私たちは顔を見合わせたが、クレトの合図でハッとして優雅に見えるように礼を取る。
舞台を降りながら、耳に届くのは
「独奏よりずっと素敵じゃない!」
「受験生のレベルじゃないよ⁉」
「すごいかっこいい、あれ誰? どこの領だった⁉」
「背が高いけど、本当に新入生? 信じられない大音量だったよね⁉」
「あの美少女は誰だ⁉」
そんな言葉。
ひとまず、もまれないように、会場の外へ歩みを進める。
会場内の熱気から逃れて、誰もいないところでほっと息をつくのは私だけじゃないね。
うぅ、今頃少し緊張が戻ってきた。手が震えそうになるお。
目立ちたくない、でもいい成績はとりたい。
ジレンマ……。
本当は悩んでばかり、戸惑ってばかり……。
「おい、試験の先生たちが拍手してたぞ! 舞台で歌うのは気持ちいいな!」
ルカの興奮した声に我に返る。
そうだ、今はまだ終わってない。大事な魔法の試験も残ってる。
私は一瞬目をつぶり、息を吐くとにっこりしてルカに答える。
「うん、あれだけ拍手されてびっくりしたよ! ルカは大勢の前でもあまり緊張しないし、舞台映えするから。綺麗に音が重なれば、グループ演奏のほうが、印象に残りやすいのも良かったかな。先生も拍手してたのはルカが年上の女性に人気があるからってのもあると思う」
彼の良さというのが年上の女性に好かれる点。ルカのニカッて笑う笑顔は、こっちまで心を明るくさせてくれるから。
本当は年下にも好かれるけど。――主に男の子。
「最初のグループがあまり上手じゃなかったから、っていうのも大きかったな」
「そうだったの? 聴いてなかったけど、得したね」
「……シャインらしすぎだろ」
あの緊張の中で他の演奏を聴けたクレトがすごいと思うけど。
一番目の演奏で緊張したんだろうな。私もマルガリータのお陰で助かったからよく分かるよ。
うんうんと頷いているとリタに言われた。
「シャインの言う通りにして、良かったね。平民だとは今の私たちの姿なら思われないだろうし。曲も短くて大丈夫かと思ったけど、あの四分がすごく長く感じて、後一分もあったら、私ムリだったかも」
「それな」
「そかそか」
「口調崩しすぎた。今から気を付けるぞ」
「了解」
クレトが引き締めてくれて、私たちは難関、魔法の会場へと歩みをすすめた。
魔法会場は特殊結界が張ってあると言う屋外だった。
先ず魔力量を測る。素敵なコテージ風のウッドハウスに男女別々に入り、身体測定やスキル鑑定もあるらしい。と言っても、魔力量測定と身体測定を兼ねた台に乗るだけ。簡単だね。
ここの二階で着替えもできる。前もって、魔法及び体力測定用の服を用意して置けるのだ。
個室に入り、専用カードを魔導具にかざすと、ウィーンという小さな音と共にキャリーが届くのが分かった。
私はランプが点いたのを確認すると、ドアをあけ、キャリーを取り出す。
リタはそのままで、私だけ装備に着替えた。
スキルも教えてもらえる。鑑定士がいるから。
「君のスキルは変わっているね。【慧眼】とあるけど、初めて見たよ。おまけに【仲良し小好し】スキルって……意味不明だ。おい、慧眼って何か分かるか?」
「けいがん? 眼は目の事でしょ? 何か見えるとかじゃないの?」
先生なのか、ただの鑑定士かは分からないが、こっちそっちのけで話あっている。
「俺たちが聞いたことのないスキルだから、魔法の教師にでも聞いてくれ。もしかしたら知ってるかもな。後、【調剤】と【植物】、【抽出】、【光の複合魔法】スキルがあるんだが……【複合魔法】別にあるのか? ……」
首を傾げてる。
「ありがとうございます」
魔法の教師は中級魔法のほうへいるのかな? 私はそのことが気になり、小さくブツブツと呟く「これらはなんて発音するんだ」という言葉は耳に入ってなかった。
「リタさん? あなたは【料理】、【裁縫】、【楽器】、【手先器用】、【良妻賢母】のスキルね。あなたを奥さんにする人は幸せでしょうね」
そうだろ、そうだろ。リタは美少女なのに、良妻賢母スキル持ちってどんだけ?
「リタのようなお嫁さんが欲しいですわ」
「……。中級魔法のほうへ行きましょう」
リタにスルーされた気がしたんだけど、表情がひきつっているのはなぜ? 褒めたつもりだったんだけど、な。
外に出ると、ルカたちが待っていてくれた。
中級魔法の会場には講堂に入れなかったであろう見学人、主に男の子や男性が結構いた。可愛い女子は隣だけ、と。野獣含むであろう観客の目からこの良妻賢母の美少女リタをどうやって守ろうか。
そう思案していたら、試験官が手招きして、説明してくれる。
「この魔導具に手を置くだけで蓄積された魔力だけが抜けるようになっている。さぁ、順番に手を置いて」
手を置くと、力が抜けるのが分かった。魔石に魔力も貯まるのも見える。しなくてもいいことをしてくれるよ。
私はルカたちを見る。緊張の面持ちの彼ら。
その時、歓声が上がる。振り返ってみると、楽器演奏を一番目にした五人の子供たちが中級魔法を放っているところだった。
あまり思わしくないらしい。「あーー↘↘」歓声が尻下がりで残念そうだから。
やっぱり、普段のような調子が出ないんだろうな。
「先にリタ、ルカが受験してから私とクレトがしましょう」
「なぜ?」
「今してる彼らは調子が出ないみたいだから、その後なら、彼らより少し良くても、加点が大きいかもしれないでしょう?」
「加点方式にもよるけどな」
そっか。さすがクレトは冷静だ。
「最悪、発動して的に当てればいい、くらいの気持ちで望めば何とかなるだろう」
うんうんとみんなで頷く。
会場の広さは、横が百メートルはある。縦はその五倍くらい長さがあるけど、的があるのはその半分もない所まで。
その広さが二つ。
中級魔法を出すところへ二列に並ぶと、タブレットを持った試験官が私たちの名前を確認して言い放つ。
「さっきから平民が多いね。すでに数名不合格になっているよ。君たちはどうだろうかねぇ? まぁ、寄付さえ沢山してくれたら、温情があるから、精々頑張ってくれたまえ」
にやついていると思ったら、見た通りの嫌な奴だったらしい。
受験生の情報は書類上に書かれてはいるだろうけれど、その中から、平民かどうかまで詳細を見てるってことだよね?
私の【仲良し小好し】スキルが仲良くなれるスキルだとして、人間相手にも発動できるものだとしても、お断りしたいタイプだ。
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