第91話
魔物が大量に発生する時期に当たるのかはまだ分からないらしい。
何となく不安もあり、ニーズも飛び回るのが好きなこともあって、現在、散歩を兼ねた空中での探索中。
探索スキルがあったらいいのにな。
鑑定や探索スキルが欲しい今日この頃。
「ニーズには探索機能ってある?」
『機能か分からない。気配分かる』
「そっか! スキルじゃないのかもね。気配って魔物と人や動物の違いも分かる?」
『距離にもよる……かな』
「薬草探すとき、かなりの高確率で薬草のある場所に行ってくれていたけど、まさか植物も分かるの?」
『シャインの探す薬草、近くでなら匂い感じる』
匂いかぁ。動物の勘なのかな?
私たちは、先日の魔物討伐の地域やそのほかのダンジョンの辺りを朝や夕方の散歩コースにしていた。これもニーズの飛翔能力が高く速度が出せるからできることだろうけど。
残りの魔物探しもそろそろ終わりでいいかなと思いながら、林の上を飛んでいる時だった。
『襲われてる』
「え!? 魔物がいるの?」
『人間同士かも……』
「とりあえずそこへお願い」
『あそこだよ』
遠目でまだよく見えないけど、馬車があるのは分かった。街道沿いを走っていたのだろう。と言っても、林の中にある街道だから、獣の危険性もある。
急ぎ向かってもらうが、近づいて盗賊らしいことに気づく。
「ニーズ、どうやら盗賊らしいわね。殺さずに捕獲したいのだけど、捕獲道具は一個しかないか……。仕方ない。とりあえず、やっつけようか」
『捕獲、わかった』
ニーズは単独で戦えるかなと降りると伝えようとしたら、ニーズが分身の術を使った。……分身の術でいいのかな? とにかく、ニーズが五匹になった!
初めて見た私が慌てそうだ。
「ニーズ、それって以前言ってた分身よね?」
『うん。降りる?』
「うん! 馬車の屋根に飛び降りるから低空飛行お願い」
ニーズはちゃんと屋根の上に飛び降りやすい角度で飛ぶ。ひらり、とまではいかずにドスンっと飛び降り、そばで戦っている盗賊らしい人たちに向けて風魔法を放つ。
「おらおらぁ、早く死ねやぁ」とか口汚く罵りながら剣を振り回す盗賊たちの腕や足を狙う。間違ってもいけないので少し慎重に風魔法の【風刀】で傷つけていく。
ニーズたちは近づいて「ガァアアアアアアアア!!!」と咆哮した。
それだけで固まる盗賊もいるけれど、全員が倒れるまではもちろん行かない。
盗賊のほうは三十名くらいだろうか。襲われているのは十数名か。
ニーズたちは爪で引っ掛けて、木の上に放り投げては次の盗賊を襲っている。遊んでいるようだ。圧倒的だね。五体もいるんだもん。
それを見て気を抜いてしまったらしい。馬車の上という目立つ場所なのに。
背後の「カッキーン!」という音でしまったと振り向いたらフェンに跨るクレトがいて、私への攻撃を跳ね返してくれているところだった。
繰り出すクレトの魔法攻撃で、私を襲った盗賊はドサッと倒れた。冷汗が背中を伝う。
「クレト、ありがとう!」
クレトの加勢もあり、ほどなく制圧できた。
襲われていた商人風の装いの人達に「この手に宿れ、聖なる光よ! 【
「拘束する縄などありますかっ?」
「あぁ、あるはずだ。その竜たちは君の召喚獣?」
「そうです。あなたたちを襲うことはありませんから、安心してください」
そこで分身の術を他の人たちに見られたのはやばいかなと思い始めた。
ニーズに念話で話しかける。
『ニーズ、分身の術を見破られるのはまずいかも。分身の方は遠くに飛んでもらえるかな』
『分かった』
次々とお縄にかけられているどさくさに紛れて、ニーズ分身たちは姿を消す。複数の召喚獣がいるのもおかしいだろうけど、もし聞かれたら友人の召喚獣だったとごまかすしかない。
仲間に指示を出していた男性が声をかけてくる。
「ありがとうございました。おかげさまで助かりました」
「あなたも腕を見せてください。癒せ!【
「すごい治療の腕前ですね」
あ、しまった。
ポーションでも良かったのに、思わず魔物討伐ではりきった治療を使ってしまったよ。まぁ、いいかな。
「ポーションもありますが、みなさん大丈夫ですか?」
「大丈夫だと思います。私たちはスヴァルト領の商人です。最近、商人を襲う盗賊が出ると聞いて警戒していたのですが、ここまで多くの盗賊がいるとは思わず危ないところでした。騎士団に引き渡さないといけないので、ここで私たちは待ちますが、どうされますか?」
どうやら襲われた時点で騎士団にはタブレットを使って連絡していたようだ。そのとき、ニーズから念話が聞こえる。
『シャイン、逃げた盗賊を分身が追っている。アジト見つける?』
『さすがニーズ! うん、お願い』
私は考えるふりをしてから答えた。
「逃げた盗賊がいないか探しますので、後はお願いできますか?」
「分かりました。報奨金が出ると思いますので、お名前を教えてください。王都魔法学園のマントですよね」
「報奨金はもらいたいですが、たまたまお手伝いしただけですし、学園にばれたら怒られるかもしれないので、辞退しますね。クレト、それでいい?」
学園のマントがばれていたので、正直に答えた。
最後の会話だけは、クレトにだけ聞こえるように耳元で聞く。クレトは頷いてくれる。
三十名なら報奨金ってどれくらい出るのか興味もあったけど、仕方ない。
「私はスヴァルト領第二商会のブルノと申します。では、報奨金を私たちが一時預かりという形で頂いて、その後、お渡しするのはどうでしょうか?」
「……いいのですか?」
商売人だからか、人当たりのいい笑顔に甘えてもいいかなと思わされ、王都にあるポーション窓口へ連絡してもらうことにした。
領の第二商会というので、その領主公認の商会だと分かるから信頼してもいいかもと思ったのだ。
デルタ・ガンマ中級ポーションを数個渡して、騎士団がきたら盗賊のケガをポーションで治してもらうようにもお願いした。今治して逃げられたら嫌だから。
傷が深かった盗賊には、軽く【
私たちは気になる逃げた盗賊を追った。
クレトがニーズの分身を見ただろうけど、追及を逃れるために、アジトが分かった後は分身を解いておくようには伝えた。
誰かに言うような性格ではないから、ばれていても問題ないけど。
「ニーズ、アジト分かった?」
『あっちのほう』
ニーズに連れられて行ったのは狭い洞窟の入口を草で覆ったようなアジトだった。中が広いかは分からない。
人数が多いわりにアジトが適当なのか、いくつかあるのかは分からないけれど、様子を伺う。
今になってドキドキしてくる。先ほどはいきなりのことだったから緊張する暇がなかった。クレトが「大丈夫か?」と小声で言ってくるので、私はそっと手を握らせてもらう。冷たかった手先にクレトの体温が移り、そこから全身に温かさが広がっていく。クレトがいてくれて良かった。
洞窟にいる人数によっては騎士団に応援を求める必要があるだろう。騎士団に連絡すべきかクレトに聞こうとしたとき、手をぎゅっと握られて相手に動きがあったことを知る。
出てきた盗賊は五人。
全員カバンをたくさん下げて、剣を持ち警戒しながらどこかへ移動しようとしている。
『ニーズ、あの五人で全員かな? 洞窟の中に他に人がいそうか分かる?』
『洞窟の中、気配ない』
『じゃぁ、五人なら余裕?』
ニーズの『もちろん』って楽しそうな声が聞こえてきたときには、盗賊たちは「ひえーーー!」、「あっれ~」と声をあげながら空を舞っていた。フェンとのコンビプレーは盗賊がボールの代わりになってキャッチされている。盗賊で遊んじゃダメでしょう、と思ったけど、目を回しているだけでケガはないようだし、お手柄すぎるんじゃないだろうか。
うちの子たちが優秀すぎる。
落ちてきたカバンを見ると、マジックアイテムだった。
他のカバンも回収して見てみたが、ほぼ全部マジックアイテムのカバン。
「こんなにたくさん収納カバンがあるよ」
「思ったより多くの商人がやられていたようだな」
時空間魔法の収納カバンは、入口の大きさよりも大きいものすら仕舞ってしまえる摩訶不思議な物で貴重なのだ。それをこんなにいっぱいなぜ? の答えがクレトの言ったことなのだろう。
商人が持っていたカバン。中には香辛料だったり、様々な物が入っていた。奪い取ったであろう防具や剣などもあった。
防具や剣もこれだけあるということは、かなり多くの商人が犠牲になったのだなと分かり、気分は落ち込むけど、先ほどの商人のところへ盗賊を連れていくことにした。
早くしないと騎士団が来てしまう。
悪いことをしたのではないから、学園にばれたときは仕方ないけど、今は放課後で外出届けは出してない。
私たちは手早く盗賊たちを商品をまとめていた紐でくくると、ニーズとフェンに運んでもらい先ほどの商人のところへ行く。まだ騎士団は到着してなかったらしい。
「この者たちも見つけました。あと、このカバンは他の商人から奪ったもののようです。移動しようとしてましたから、隠れ家が他にもあるかもしれません」
「商人たちはたぶん殺さているだろう。このカバンと中身の半分はたぶんシャインさんたちのものになると思うけど、いったん騎士団預けにする?」
「はい、商会がつぶれているわけではないでしょうし、証拠になるものがあるかもしれませんから。ク、……それでいい?」
クレトの名前は出さずに尋ねる。頷いたからそれでいいらしい。
見つけた者の物になるとか、何それと思いながらも収納カバンが欲しいなぁと考えてしまった。じぃと見ていたのだろうか。「見すぎ」とクレトから言われ、ブルノさんからも聞かれる。
「収納カバンが欲しいの? 一つ先に持って行く?」
「え? いえいえ! とんでもないです。どこから盗られたか分からなくなると困りますし」
「それはないと思うよ。盗賊たちがカバンの中身を入れ替えていることもあるだろうし、商売をするのに控えも取引先の書類などもあるだろうから」
「いえ、いいです。これ以上誘惑に負けそうになる前に、行きますね。後はお願いします」
私は口早に言ってその場を去った。
そうじゃないと、本当に手が伸びそうだったから。
収納カバン欲しいなぁ。
大きさも重さも関係なくなる。ポーションを安全に運ぶのに便利そうだし。なんでも料理とかも入れて、振り回してもそのままだと聞いたんだよね。
お鍋も入れれるらしいよ。
遠征が入ってもアツアツのご飯が食べれる。ごくり
はっ! 私は今騎士コースではなかった。魔物討伐の後遺症がこんなところに出てるよ。
「クレトが来てくれて助かったよ。ありがとう。クレトの用事は大丈夫?」
「ああ、構わない」
『フェン、たまに夕方の散歩には付いてきてた。今日も同じ』
「え? 付けてきてたってこと?」
クレトがニーズが何か言ったと思ったのか、キッとニーズを睨んだ。
私が気づいてなかっただけで、付けてきてたの???
『夕方だけ。夜の闇、シャイン怖がるから』
「私が怖がると思って、付いて来てくれたってこと?」
私は言い方を変えてクレトに尋ねた。
「臆病なくせに、夕方の見回りとかするな」
ばれてる!
ぶっきらぼうに答えるクレトだけど、基本優しいからね。
私のために付いて来てくれていたんだ。何だか嬉しくなる。
「わーい、クレトありがとー。フェンもありがとー。フェンもクレトも大好き~」
「……はぁ」
クレトはため息だったけど、フェンは「わふんっ」って言った。きっとわふんっの意味は「僕もシャインが大好きだよ~」なのだろうと勝手に解釈しておいた。
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