第92話

 盗賊との対決後、しばらくして王都のポーション窓口経由で、盗賊討伐の戦利品なるものが届いた。十個以上の収納カバンと、その中には多くの食料が入っていた。

 盗賊は商人たちの命を奪っていることが明白なので、強制労働がある収容所に送られたそうだ。


 中身が食料だけなのは、私が時空間魔法の収納カバンを欲しそうにしていたことで、魔石や剣などよりも収納カバンを優先してくれたり、引き取り手がいなかったものが残ったらしい。

 持ち主の商会は複数だろうし、収納カバンは商会にとって命綱じゃないのかなと疑問はあったけれど、くれるならもらってもいいのよね。中身をよく見たわけではないが、香辛料や魔石などはないから、引き取り手がいたのだろう。

 中に入っている間の時間は止めてくれるからいいけれど、食料品ばかりが大量に入っていた。


「俺はカバン二つでいい。中身はシャインが全部もらってくれ」


 クレトは手伝っただけだからと、最初はカバンすら受け取ろうとしなかった。結局あまり入ってなかったカバン二つをもらってくれたけど。

 収納カバンは買えばすごく高い。容量によるけど小銀貨から金貨までする。日本円だと上は何百万円。カバン一つにと思うが、動くコンテナバックスだと思えばそのくらいするのだろうか。 

 ダンジョンからしか出ないものらしく、この国で時空間魔法が闇魔法の一つと言われる遠因になっている。


 受け取った収納カバンも容量の大きさはそれぞれだったのだけど、一番多く入るカバンにはオート麦など穀物がこれでもかってくらい大量に入っていたから、それをどうにかしないとカバンは使えない。

 オート麦なら、三十年近く保存状態が良ければ食べられるという賞味期限の話を思い出した。時空間魔法なくても、大丈夫そうだなと、私は宿舎の建物に地下倉庫を作りそこに穀物を仕舞った。

 地下倉庫を造れるのが分かったのはラッキーだった。小さな箱型を埋めれるかなと思ったのだけど、さすが土魔法なだけあって、土の中で作る分には地上に出すより簡単に感じられた。繋ぎ部分だけは少し試行錯誤が必要だったけれど。


 ローサ夫人に食料を卸すところを探してもらおうと思ってはいるのだが、何の食材か分からないものが結構あったので、名前と何に使えるのかを調べることを優先にお願いしている。

 助けた商会は、食料は扱っていなかったけれど、商品名が分かれば、食料を扱っている商店などを紹介してもらえるだろう。


 食料の中には私が欲しかったお米もあった。

 お米が手に入った!

 醤油はドレッシングに使われていたから王都で手に入ることは分かっていた。

 収納カバンとお米は有意義に使わせてもらうことにして、消えた命に祈りを捧げた。



 お米と醤油を手に入れて、何を作ろうかとずぅっと考えていたらルカから「食いしん坊め」と言われてしまった!


 ルカ、いつの間に読心術を身に着けたの!!?


「んっふっふ~ぅ」とヨダレ垂らしそうな顔でニマニマしていたら誰でもわかるらしい……。「後等部生になったのに、残念なヤツめ」と言われた。

 ルカにはお米を食わしてあげないことに決定した。


 お米は玄米状態なので精米する必要があるけれど、風魔法でいけるかな。

 もみ米状態じゃなくて良かった。

 小麦粉の製粉にはかなりの工程が必要で、水を含ませて寝かす調質から、破砕と粉砕する挽砕工程は五回以上。一粒が五十種類の上がり粉に分けられるから、とても個人では真っ白サラサラな白小麦粉はできないだろうけど、精米なら少し玄米部分が残ってもいけると思うんだ。

 お米は精米すると一週間で味も栄養もがた落ちするから、精米したてのお米が美味しいというのも、自分で精米する利点になる。


「何を作るの?」

「お煎餅にミタラシ団子は絶対作る! 後は秋の味覚のキノコ窯飯とか焼きおにぎりもいいしなぁ。じゅるり」


 いかん。ヨダレが。

 リタに聞かれた私は食べるまでに時間がかかるお煎餅から手を付けることにした。


 まずは粉にしないといけない。上新粉に。

 お米を洗って乾燥させて粉にしたもの。もち米で作るみたらし団子が好きだけど、お米の団子も好き……って前世の記憶だな。

 天日で三日は干さないといけない。魔法でちょちょいと乾燥させてもいいんだけど、天日干しって日向ぼっこしてるみたいで気持ちよさげなので、半分は天日干し。半分は味見のために魔法を使う。

 魔法万歳!

 それでもとても面倒な工程を経て、焼いた煎餅と揚げた煎餅が出来上がった。

 上新粉を作ったので、もちろんみたらし団子も作った。


 バリッ 


「かたっ!!」

「あー! 私もまだなのにぃ!!!」


 先にルカに横取りされ、食べられた。鼻が利きすぎだ。

 もう、いつまでたっても子供なんだから!

 手伝ってくれたローサ夫人とリタと一緒に試食する。クレトも何気に座っているけれど、彼の取り分もあるから、まぁ、良しとする。

 ローサ夫人がすぅと息を吸い込んだ。


「香ばしい香りが食欲をそそりますね」

「シャインが教えてくれたドレッシングの材料の醤油の香りなのよね?」

「リタは記憶力抜群だねぇ。そうだよ。早く食べよう」


 黙祷して、手を伸ばす。 


「堅いけど、おいしいな」


 バリバリ食べるルカは、焼き煎餅がお気に召した様子。

 私は揚げ煎餅を食べる。

 ……うーん、もう少し甘くても良かったかな。


「ミタラシ団子は柔らかくておいしいよ?」

「団子の触感が面白いですね」 


 リタとローサ夫人はミタラシ団子を食べたらしい。

 私もミタラシ団子にフォークを突き刺す。串にさしたいところだけど、試食だしおいしければ形にはこだわらない。適当とも言う。

 そして大皿にいっぱいあるけど、試食となる。

 甘辛いとろみのついたタレが絡まり少し焦げ目の付いたモチモチの団子によく合う。


「クレトもおいひぃ?」

「口に入れたまましゃべるな。……俺は煎餅というのが一番気に入った」


 クレトに煎餅ってなんだか似合わないけど、お気に召したのなら良かったね。

 天使リタちゃんは、他の生徒たちにもあげたいらしい。


「シャイン、これならビアンカたちも喜んで食べそうだよ? 呼んでくる?」

「呼んでくる間になくなると思う。今日は試食分しかないし、次いっぱい作るよ。日持ちするはずだから後で作って渡してもいいんだけど、作りたいのがもう一個あるんだよね」


 収納カバン内の食料の中に自然薯があった。山芋のこと。

 栄養価に優れていて、すりおろしたものをただご飯にかけて食べてもおいしいのだけど、思い出したお菓子の名前があったのだ。


 かるかん。


 確か九州の郷土菓子。上新粉に山芋、卵白や砂糖を入れて蒸せばいい、はず。

 山芋といえばお好み焼き、と言いたいが、ソースや青のり、鰹節がない。マヨネーズは作れるし、いろいろなソースはあるけれど、あのお好み焼きソースに近いものがないので、断念した。


 結局できあがりは、午後になったけれど、かるかんは上出来だった。

 蒸しあがったばかりのかるかんは、しっとりなのにふわっとしていて記憶のかるかんより遥かにおいしくてびっくりした。

 優しい味になった。あんこがなくて残念と思ったけれど、あんこはなくても最高に美味しかった。

 たぶんだけど、市販のお菓子よりも、山芋の量が多かったのだと思う。

 あんこないほうがいいかも、と思うくらい甘さ控えめになったかるかんは、弾力もあるのに、口に入れるとふわふわで、ローサ夫人のお気に入りになったらしい。


「シャインが作るのは根っこが多いよな」と誰か言ってたけど、気にしないもん。自然薯は芋だし厳密には担根体たんこんたいといって根ではなく、根が生える部分になる。

 芋といえば、午前中の試食会では、揚げ煎餅よりフライドポテトが食べたくなってしまい、ローサ夫人にジャガイモを揚げてもらった。

 ちなみにジャガイモは茎菜類になり、サツマイモは根になる。……どうでもいい前世の記憶まで芋づる式に出そろってしまった。

 フライドポテトに戻ろう――


 揚げ物って自分で揚げると、食欲が半減するのはどうしてだろう。

 誰かに揚げてもらって、それをつまみ食いするのが一番おいしいと思うんだ。たまに口の中を火傷しちゃうのだけど、つまみ食いの誘惑には勝てない。

 その日から上新粉を使っていろいろ試している。

 

 焼きおにぎりは、みりんがない中、料理酒に近い味のお酒を見つけてきて作った。見つけてくれたのは万能侍女さまさまのローサ夫人だけど。

 癖のない料理に使えるお酒、と言っただけで調達してくれた。このお酒のおかげでミタラシ団子の味がさらに良くなったのはおまけかな。

 でも、焼きおにぎりより、一緒に作ったイカ焼きのほうが断然人気があった。

 焼きおにぎりは、外カリッ、中ふわっ、で美味しいのにねぇ。


 お米、負けるなっ! ……お米に責任転換して、私もイカ焼きを頬張った。あっちぃ!

 今回はお供の海苔がいなかったお米より醤油のほうに軍配が上がったということにしとこう。

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