第74話
「本当にこれで行くんだな?」
ベルナルドの問いに、こくりと頷くしかできない私。
すでに競技場のグラウンドの上だ。
結構な広さがあり、三チーム三十六名と召喚獣十八匹入っても余裕で広い。
派手な魔法だと目に付くけれど、剣で戦っている姿なんて小さくてよく分からないわけだ。モニターはあっても、一度に全員を映すわけではないし。
合図により試合が開始された。
やはり二つの領地は一斉に攻撃を仕掛けてくる。こちら守り六名に対し、各六名の計十二名。
元の指示通り、マルガリータを先頭に十三位ログローニャの陣地へと攻めに向かう。私はニーズに騎乗しているから、速い。途中、十三位の攻撃・オフェンスたちとすれ違う。
相手は警戒をしているが、すぃと素通りして、私は観客席からのどよめく声で作戦が始まったことを知り、ニーズの上でくるっと後ろ向きに座りなおす。
私の目に映るのは、我が領の守り・ディフェンス丸ごとゴーレムまでを引き連れてこちら、ログローニャ陣地に向かってくる姿。ゴーレムを引き連れての移動に、観客席が沸くだろうと思っていたのだ。
ゴーレムは敵味方の区別がつくのは元よりディフェンスリーダーの指示でも動く。アンブル領ならベルナルドが指示を出している。
私が後ろ向きになった時点で、前もってニーズに伝えてあった通り、ニーズが羽ばたき後退しながら飛ぶ。
私は魔力を込めながら弓に矢を五本一度につがえ、放つ。
放たれた矢は弧を描いて相手オフェンスの一人の防具に全て命中。
やった! 矢の制御練習を重ねた成果が出た。
『ニーズ五時方向へ飛んで』
『わかった』
斜めに方向へ後退するニーズ。私は何が起こったのかようやく把握した相手オフェンスの声を右に聞きながら、再度五本の矢を一度に放つ。
飛び出した矢は、四本だけがかろうじて当たったけれど、一本は先に倒した生徒の声でほんの少し避けられてしまった。
一人だけでもオフェンスを潰せて良かった、と思うべきか。
ニーズがゆっくり飛んでくれていたわりに、我がアンブル領のゴーレム移動で歩みが遅くなっていた五時方向にいる相手のオフェンスは目の前。
一本分残った。
どうするか――考えるまでもなく念話していた。
『ニーズ、少し上空へそのまま後退』
『うん』
ほんの少し上空へ上がりながら後退してくれるニーズの背の上で私は立ち上がり、空中へ跳んだ。矢を四本当てた相手に飛びかかり、剣先で突く。
「うわっ!」
思い通り、相手の腕に命中。これで五本。
相手が声を出すときには飛猫の背をバネにして、足で蹴り空中へダイブしていた。
私は落下するところをニーズに空中で拾われる。
うん、予定通り!
隣では同じような奇襲をかけたクレトがすでに先行のマルガリータに向かっている。
剣は領地が準備してくれたものではないけど、騎乗しているからどうせ剣ではほぼ戦わない。騎乗しての戦い方自体をまだ習っていないのもある。
学園が用意した相手に安全な武器で、防具だけ傷つけて失格させた。人数の倍以下ルールは守っている。
ベルナルドたちは六名に私とクレトが入っても八名。十三位のオフェンス六名。ルール内。
十三位ログローニャのオフェンス騎乗組三名は全て失格。
これでベルナルドたちは移動するゴーレムを守りやすくなっただろう。それでも前後から挟まれる形で九名と戦わないといけないが。
私たちは速く十三位ログローニャを攻め落として、九位ヨツン領地のゴーレムへと向かわねば。
背後を警戒しつつも、空からの襲撃はたぶんないことに安心する。
マルガリータはすでに敵の陣地ないに到達して、乗せていた俊足が使えない上級生を二人降ろした。
降ろすとすぐに飛び上がり、召喚獣同士で戦っている。クレトも少しの差で到着し、召喚獣三匹がマルガリータに飛びかかったり、攻撃させないように、空中で風刀などの魔法を繰り出して応戦している。
ルカは俊足で追いつき、応戦。新しい剣を思う存分振り回している。たぶん相手は上級生だけど、ルカのほうが優勢。一人は倒して拘束した。拘束道具も準備される道具の中にある。でも、それを使うのは時間もかかり、危険もある。何より道具が小さいと言っても持ち歩く不便さから使わないチームが多いとは聞いていた。
左腰につけておいて、パチンと手首か足首にはめるだけでいいのに。足を怪我させて動かせなくするのは、いくらポーションで元通りになるとしても、痛いではないか。
ただ、重大な欠点と言われる部分はある。手錠のような形状で、他人なら外せる。つまり、仲間が傍にいれば外されてしまう。拘束なら加点、負傷は相手が少し減点される。どちらを選ぶかはチームもしくは本人次第。
ニーズもすぐに追いついた。
『ぶぉおおおおお』
ニーズが吐く火でマルガリータと敵の間が広がる。そこへ私も風刀で応戦し、マルガリータが動きやすいようにフォローする。
クレトが一人の動きを封じている間に、マルガリータが新品の剣でゴーレムの頭を落とした。
さすが、ゴーレムの達人。
すぐに合図があり、十三位ログローニャ領地の生徒全員が動きを止める。
私たちはすぐに地上戦の三人を乗せ、九位ヨツンのゴーレムに向かう。
ベルナルドたちを横目で確認すると、余裕で攻めていた。守っているというより、攻めているのがさすがだと思う。
耳飾り型通信機で状況はある程度分かるけど、目で確認するとさらに安心する。
九位ヨツンのディフェンスは強かったけれど、マルガリータには及ばず。
地上戦に二人三年生がいて、その二人の活躍も大きかった。三年生とマルガリータでゴーレムは落としたようなものだった。
私とクレトは妨害行為ばかりに徹していた。地味だな。
試合終了の合図で沸く場内。
三十分以内での競技。試合時間を見ると八分少し。
――アンブル領、無事ベスト六進出です。
「シャイン、よくやった!」
ベルナルドから褒められた。
試合が終わり、負傷していない選手は一列になり礼をとる。その後ケガをしていないかなどを確かめるために、救護員のいる部屋へ移動する。そこに着いたとたんベルナルドが寄ってきて先の言葉をくれたのだ。
嬉しいが、他の上級生たちもいるからあまり目立ちたくはない。それでなくても、騎士コースに進まないのだ。召喚獣が竜というだけでメンバーに入ってるだけの下っ端。
「ベルナルドさまたちが強いからこそ、提案できただけです」
「ま、俺たちは強いがな」
「だからこそ、向かってくるベルナルトさま達に気がとられてくれました。それに私たちが一年生だということも相手の隙を付けました」
うんうんと、満足そうに頷くベルナルド。
すぐに、ゴーレムを倒した友人たちによく頑張ってくれたと話しかけていた。こういうところは領主の息子なだけある。
試合が始まる前に提案したのは、守りも攻めに続いて移動すること。そこを私とクレトの召喚獣は速いから抜いたふりをして挟み撃ちすることだった。
私とクレトが矢で落したのは三年と二年の騎乗組。
マルガリータはどんどん先に先頭で進んで行ったし、私たちは一年生だから、無防備になったのだろう。回旋せずに後退したニーズたちにも感謝だけど。
普通、飛猫たちは数年経って後退できるようになる。伝えることはできるのだが、後退を嫌がるのか、回旋してしまう召喚獣が多い。後退する必要もあまりないからだろう。必要に応じたら後退することもあるけれど、方向転換してしまうのは一般の猫に似ているかもしれない。
竜とフェンリルだから、すでに後退まで覚え込ませたとベルナルドたちは思っているが、念話ができるだけ。
ルカの黒なんて小さいから競技途中で寝てしまう程だ。まさか一年生たちが回旋でなく、後退を召喚獣にさせることが出来ているとは、相手が思ってなかったのだろう。フェンは後退もできるし、空中で半回転もできる。
ニーズは翼が大きいから回旋したらさすがに気取られていたか、地上から進むメンバーから連絡が行ったはずだ。もちろん地上のメンバーより後ろから第一矢は放ったが。
ベルナルドたちが大声を出しながら自分たちに引き付けてくれたことも気取られなかった理由の一つ。
「用意された剣と弓しか持っていないから心配したけど、余計だったね」
「ランバートさま、ありがとうございます」
「余計なケガを負わせないのは、終わった後のしこりも残さないしね。良い作戦だったと思うよ。で、次三位と当たるようだけど、何か対策はあるかい?」
私は補欠メンバーと交代したかったのだけど。早く終わりすぎただろうか。
疲れてもいないし、魔力もあまり減ってもいない。普通に回復してしまうくらいの減りしかないし、魔力回復ポーションは試合後飲んでもいい。
「三位は今隣で戦っていますよね? 観戦した後で答えてもいいですか?」
「もちろん」
にっこり微笑むランバート。
私はモニターに映る隣の競技を観戦する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます