第73話

「全力を出し切るのよ!」


 マルガリータの声に「はいっ」と揃うのは一年生。心なしか声に緊張が混じる。

 出場するのは五人だけど。

 大きな屋根のあるツイン競技場にいる。屋根は観客席の上だけ。

 今はまだ観客席に集合している。

 

 対戦領地の発表があり集合した。

 最上学年で領主の息子であるベルナルドからタブレットの領地対抗戦一覧表を見せられ説明がある。



【領地対抗戦一覧表】

 ※順位は昨年のもの

 一位:ヴァナ/七位:スヴァルト/十七位:トルトーザ

 四位:ビフレス/十位:ウト/十六位:コスラーダ


 二位:ニヴル/十一位:フニット/十五位:モンソン

 五位:ニダ/八位:アルフ/十四位:バダロナ


 三位:ムスベル/十二位:ウブリケ/十八位:アンボスタ

 六位:アンブル(レイバ含む)/九位:ヨツン/十三位:ログローニャ



「幸い上位三位には当たらなかった。去年六位の成績を修めたからな。十八の領地だから一度勝つだけでベスト六入りする。今年当たるのは去年九位ヨツン領と十三位のログローニャ領だ。二つの領とアンブル領は他に比べたら順位にあまり差がない分、結託されると負ける可能性もある。九位のヨツン領に気を付けつつ、十三位ログローニャから潰すぞ」

「ヨツンとログローニャの領のフォーメーションは攻守六-六でしょうか?」


 一年生から質問があがる。


「守り七名で対抗する領は多い。ランバート覚えているか?」

「そこまでは覚えてないよ。結託するときは人数倍以下ルールがあるから、ほぼ六-六だけど、結託しないときは守り七名だね。最下位の領地だけ守り八名のところもあったけどね」

「去年最下位が一位の領と当たっていたからか」

「そうだね。今年は三位のチームと当たるようだよ」

「上位領に有利なトーナメント表になっている気がしますね」

「まぁ、そうだねぇ。いつもこんな感じだよ。誰かが言ったこともあるけど、上位三位は不動と言われているし、二つの領地で攻めてもいいという条件にしているからね。召喚獣も攻守三匹ずつに配置されているし、ルールは公平にと作られてはいるよね。壁で守れらて、召喚獣を全部攻めに使われたら弱い領地はひとたまりもないだろうからね」 


 ランバートが仕方ないよという感じでにっこり答えている。

 私たちはこの競技場で三番目に試合する。勝てば、たぶん三位と当たる。


 同じ競技場を使う一位のヴァナ領が戦う様子を観戦しようという声で各々席に着いた。

 対戦相手の十七位トルトーザ領には私たち八組の生徒がいる。


 合図の音と共に、一位のチームは十七位のトルトーザに六名で攻撃をかける。十七位のチームは攻撃にほぼ出れず、そのまま防御している。

 一位ヴァナの守り選手たちは三重の壁を次々と出した。

 七位スヴァルト領は五名の攻撃チームに急きょ一人増やして、六名で一位の領地を攻めるが、実力差なのか攻撃が全然届かない。


「せっかく一位のヴァナ領が十七位のほうに行ったんだし、十七位の領地が攻めに回れてないんだから、七位スヴァルトは二人残して後は全員投入すべきだな」

「いや、見ろよ、すでに十七位トルトーザは落とされそうだ」


 召喚獣の大きさや速さもさることながら、召喚獣二人の統制が取れている。

 すぐにゴーレムに接近して、頭を狙っての攻撃が始まる。

 地上戦も魔法を繰り出されて、手が出ないのがよく分かる。

 それに――


――容赦ない。


 足を狙ってはいるけど、血が出て片足ついている生徒もいる。

 救護の服を着た生徒がポーションを持っていき飲ませているが、三人にポーションを運ぶのに俊足が使えない生徒のようで、見ていてこちらが辛い。


 ゴーレムが落とされたら、落とされた領地は戦いを終えなければならない。

 七位スヴァルトに攻めていくだろうと思ったら、ピーと鳴る合図で試合が終了したことを知る。

 七位領地のゴーレムにサッと視線を移したが、一位の守備だけで落されていた。いや、最初からそのつもりで攻撃の召喚獣を一匹残しておいたようだ。地上組が四名、召喚獣組が二名での攻撃だったのは、攻めの召喚獣を七位に向かわせるためだったのだろう。


 攻撃メンバーは全員拘束されるか、治療を受けているかで動けなくなっていた。一位のディフェンス五名で攻撃してゴーレムの首を落としたようだ。


 何分経った?

 あまりの早い展開に驚く。

 ぽんとランバートに肩を叩かれる


「隣の戦いを観戦してみて。四位ビフレス領地が戦う様子を見るのは、自分たちと似た立場だからためになるだろう」

「はい」


 隣は四位ビフレス、十位ウト領、十六位のコスラーダ領が戦っている。十六位コスラーダ領にはクラスの生徒はいるけれど、女子だけなので、選手で知っている生徒はいない。

 まだ頑張っているようだから応援しないと。と言っても、モニター越しだけど。

 このままここの競技場にいて、次の試合を応援したあと、私たちの試合もある。 

 隣の試合は十位ウトと十六位コスラーダが結託して四位ビフレスの陣地に攻めている。

 

 ただ、私たちと違うのは少し順位に差があることくらい。

 ビフレスは守り・ディフェンスの召喚獣が目立つ。ディフェンスに力を置いたのか、二つの領地から攻められるときのフォーメーションなのかは分からないが、倍の人数に攻められながらもそこまで苦戦しているという感じはしない。

 攻撃のオフェンスも十六位とは十二位もの差があるからか、接戦しゴーレムを落とした。後は十位を攻めるだけだ。



 隣の試合が終わる前に、こちらの競技場でも試合が開始された。

 電光掲示板がヴァナ領から五位ニダ領へと変わり、大型モニターもこの競技場の様子を映し出す。

 手持ちのタブレットで続けて観戦もできるが、残りは落とすだけだから、こちらを見たほうがいいだろう。 


 合図の音と共に五位ニダ、八位アルフ、十四位のバダロナ領がそれぞれの陣地から出発した。やはり五位ニダに対抗して結託したらく、二つの領地から攻められるニダの陣地。

 十四位バダロナには同じクラスの生徒がいるから、どうしても応援してしまうが、五位ニダの立場はたぶん次の私たちと同じ。


 どういう戦い方をするのか、しっかり見届けないと。ニダ領地はベルナルドの戦法と同じで、弱いほうの十四位バダロナ領を先に攻めに行っている。

 十四位バダロナ領は召喚獣だけなら攻めより守備に力を入れているようで、召喚獣には黒二匹が守っている。一方、五位ニダは攻めの召喚獣に白と黒飛猫、飛竜を投入。守りはキジ飛猫のみ。

 私たちアンブル領も一匹だけ白交じりがいるけれど、召喚獣や攻め方などあまり変わらないフォーメーションを組む予定だと思う。


 十四位バダロナの守りには、クラスのボリバルたちがいる。個人戦の剣技でもいいところまで進んでいたはずだ。

 実際、ルカは体格がずば抜けているし、クレトなんて実は一つ年上。八組の一年生はあの二人に負けたとしても、一緒に練習している分、実力はあるようだ。

 ボリバルたちは地上戦だが、ちゃんと五位ニダ領の足止めをしている。

 その間に、八位アルフ領が攻めの人数を増やした。各領地に負傷者が出たから、攻めの人数を増やせる。新しい人員は休んでいたようなものだから、いい活躍をしており、それが突破口となりゴーレムに近付いた。


 五位ニダの飛竜が急ぎ戻ったが、時すでに遅し。

 八位アルフの生徒たちが攻め十四位バダロナの生徒がゴーレムを倒すというコンビプレイが終わった後だった。

 その後は、実力差と、すでに十四位バダロナの守りは満身創痍状態の者が多かったこともあり、あっけなく八位が勝った。


 負傷者や魔力がなくなった生徒を補欠メンバーと交代はできるが、試合自体を止めて交代することはまずない。一度交代した選手は試合が終わるまで戻れないし、同じ学年でしか交代を認めていない。補欠メンバーというのは、次の試合で交代して出ることが多く、試合途中に交代はあまりしない。

 負傷者が出た時点で選手交代したらいいと思うのだが、流れを止めるのを嫌うのか、プライドなのかニダ領すらメンバー交代をしていなかった。

 私だったら、治療のためにもすぐ交代させるのにな。


 五位ニダ領を押さえ八位アルフ領がベスト六位に上がった。

 目前の五位ニダ、次の私たちの姿に重なる……。


 私はベルナルドたちを探した。

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