第115話 王族に連なる者カルロスside~舞踏会~

 私の名前はカルロス・サボア。

 サボア公爵家の長男であり、王族に連なる者だ。

 王族は婚姻関係でも入ってくるから、王妃などは王族ではあるが、王族に連なる者とは違う。特に王族の中では、連なる者とは、ある特徴を持っている者たちを指して言う。


「マルガリータ・アンブル嬢、今年の舞踏会、私と踊ってほしい」

「まぁ! カルロスさま、申しわけございません。申し込みは嬉しいのですが、すでに決まってしまいました」


 すでに?

 朝から待ち構えていたのに?


「今日から申し込みが始まったはずだが? ……領の者と三曲全て踊ることにしたの?」 

「いえ、今回遠征がありましたので、間に合わないかと前もって受けましたの」


 いかん。思わず声が低くなったので、気を付けて優しく聞いてみると、やはりか。


「それなら、遠征もすでに終わっている。再度考えてみてはくれないだろうか? 最後の学園での舞踏会の最初をマルガリータ嬢とぜひ踊りたいと思っているのだが」

「ありがとうございます。考えさせていただきますわ」


 にっこり微笑むマルガリータ嬢を見るに、まぁ、大丈夫だろうと感じる。

 私たちの最高学年には、王族に連なる者は三名いるが、他二人はすでに婚約者がいる。いないのは私だけ。おかげで女子生徒には人気なのだから、このまま人生を進める予定だ。誰か一人に縛られるのなんて楽しくない。

 花は愛でて楽しまないと。

 

 五年前の入学時にアンブル領の領主の娘が奇麗だと噂になっていたから、早速見に行った。だが、剣が強そうな感じが私の好みではなかった。残念だ。

 それを最後の年、そのマルガリータを舞踏会に誘ったのは王族としての矜持のため、だろうか。最近、アンブル領の功績が大きい。そこの娘も毎年舞踏会では違う者と踊っている。これは誘っておくほうがいいだろうと思ったのだ。すでに決まっているとは意外ではあったが、再考することをお願いした。彼女に申し込んだ者が誰かは分からないが、前もって申し込むなんてことをする奴に負けるのは癪だ。



 後日、一番目の踊りを受けてもらえた。マルガリータ嬢は賢いらしい。賢い女性は嫌いじゃない。

 マルガリータの手をとり、軽くキスをする仕草をして喜びを伝える。上目遣いで微笑するのも忘れない。


「こちらこそ楽しみにしておりますわ」


 頬も染めずに答えるマルガリータは、少し高飛車気味で女の子らしい可愛さはいまいちだけれど、隣でエスコートするのには美しさも身分も申し分ない。 



 アンブル領と言えば、かの地の宝玉と噂に上ったシャインという一学年下の女子生徒を四年前か、見に行ったことがある。可愛い女の子を見に行くのに、嫌があろうか。数名の取り巻きを引き連れて新入生を見に行った。

 入学したてのシャインという女子生徒は可愛かったが、髪の毛を見て、驚いた。よく見ると瞳の色もそうだが、アースの意思を受け継ぐ者の色が濃く出ている。

 ここまではっきりと分かるのは珍しい。元の色金色にアースの色ピンク寄りの紫、マゼンダ。瞳の色も本来の色彩は青なのだろうが、そこにマゼンダが混じるからかグラデーションになっていて、確かに珍しくキラキラとした目の輝きは宝玉のようではある。

 完全なツートンに分かれた髪の色を見ながら、実際に見るのは初めてで、声をかけるのも忘れて見入ってしまった。


 そこにシャインを私から隠すように立つ者がいた。こちらをけん制する姿に、王族の印を見る。

 おかしい。一年下には王族に連なる者はいなかったはずだが。


「銀髪のあの者は誰か分かるか?」

「聞いてみます」


 隣にいた取り巻きの者に尋ねる。早速一年八組と思われる者に問いかけていた。八組だからか、私たちが見知った顔がいない。これが一組とかだと知った者が多いから楽なのだが。


「平民の特待生だそうです」

「平民? そんなわけないだろう! ……あぁ、いや君の調べを疑っているわけではないよ。よく尋ねてくれたね。ただ、できれば名前や出身領なども分かれば後で教えてくれ」

「はっ!」


 可愛い女子生徒がいたとはいえ、隣に立っている者が王族に連なる印があり、それが平民だという不自然さに、踵を返した。

 他に可愛い女の子がいると、友人たちは騒いでいたが今は騒ぎたかった興は削がれた。

 あれは私が王族に連なる者だと分かっていて、私からシャインを隠したのだ。

 シャインは半貴族だと聞いていた。半分平民が入るのに、アースの寵児だと? アースのエネルギー色は紫にピンクを入れた色、すなわちマセンダ。

 知る者が見たら、彼女の存在は憎しみの対象になるだろうと思う。平民の血が混じったアースの寵児なんて近寄らないに越したことはないと思う。トラブルの種だ。アースのエネルギーを持つのなら、我が国に貢献はしてくれるかもしれないが、半貴族ならいつ嫉妬という悪意を向けられるか分からない微妙な存在だろう。

 声をかける前に気付けて、いや、あの者が邪魔をしてくれて助かったと言うべきか。



 王族に連なる者は瞳に紫が入る。

 紫紺の彼の瞳は王族直系の可能性が高い。

 その後、件の者は名をクレトという平民だと分かったが、召喚獣がフェンリルだという。紫紺の色から言っても王族、それも闇属性の可能性がある。

 これは父親へ報告案件だな。そこまで考えて思い出す。同じ年に一人いたなと。

 父母を殺され、その後行方が分からなくなっていた者、それがクレトだろうか。


 紫というエネルギーの性質は高貴でもあり、運勢的にも強いという。王族に連なる者たちに出る色であるのだから、強いのは分かる。だが、エネルギーが強いとは凶になるとそれもまた強く出るという一面がある。王族に連なる者はその強さから、その強さを緩和するかのように、犠牲の道を歩まないといけない者が数百年に一度出る。その犠牲を出すからこそ、この世界が回り、我が一族が王族としていることができる。召喚獣が王家を示す馬系なのも、そのおかげだ。犠牲を払う者をカジュバ・マルガと言っており、その者は生まれたときに候補者として出される。私はその年の生まれではあったが、闇属性がなかったため外れていた。私が二歳の時、私より九年前に生まれた者に決まった。


 神話での九つの世界の名前をつけて九年で一括りにし、その第一番目の年に生まれた闇属性を持つ男子からカジュバ・マルガに選ばれる。クレトも候補者であったはずだ。二歳のときに候補者から外されてはいるが、選ばれた者に何かあれば候補者になる可能性があるかもしれない。クレトはそのことを知っているのだろうか……。


 

 父に連絡を入れたところ言われたのは「知らないふりをし、傍観しろ」だった。侯爵に返り咲くのは分かっている存在。特待生。頭脳明晰、容姿端麗か。これで武道もできるとか言わないよな。いや、一つ下に入っているのだから、あり得るか。

 俺の家族に姉妹がいたら父は何と言ったのだろうか、と邪推した。

 

 その後、入った情報などから思う。

 キンダリーが担任なのも偶然ではないのかもしれない。クラスの代表を平民がしている。いくら学園が身分を問わないとはいえ、よく文句が出なかったなとは思う。実際は一つ年上なのだ。背も高い方だし、優秀でもおかしくない。

 王族に連なる者なら、気付く者は気付いているだろうが、誰からも何の話も出ない。王族には秘密が多すぎて、クレトの件など問題とも思っていないのか……。

 たまに入ってくる情報では彼らが優秀だという話ばかりだった。シャインの話題だけはよくおかしいのが入っていたが、彼女のことはクレトのことを知るおまけのようなものだし、聞き流ししていた。

 今回の遠征では大変だったようだが、無事に多くの成果を出したようだった。



 舞踏会当日は、アンブル領のマルガリータ嬢との入場は一番の話題の的となった。真っ赤な衣装は派手でそれだけでも目を引くが。

 エスコートしながら、さりげなく尋ねる。


「アンブル領は優秀な人材が豊富だと耳にするよ。マルガリータ嬢を始め、下級生にも優秀な生徒が多いのだろうね」

「ええ、おかげさまで我が領の徳のなせる業でしょうか」

「来年、王族が学園の最上学年にいないから、気になっているんだよ。アンブル領の生徒たちはどうだい? 昨日は後等部二年の舞踏会があったが毎年目立つ生徒たちがいると聞くよ」

「あら、つまらない話題でお耳汚しをしましたかしら。上位貴族がいませんので、陰で支えるように言ってはあるのですが、何しろアンブルの宝玉と言われる逸材や特待生たちも多いですからどうしても目立ってしまったのでしょうね。我が領の可愛い後輩に代わってお詫びしますわ」

「いや、謝ることではないよ。今回の遠征でも君に続いて大きな功績を出したのだろう?」

「ありがとうございます」


 笑顔だけで、詳しい内容は話さないか。上手くかわされてしまったようだ。舞踏会に相応しい話題でもないし、仕方がない。 


 その後のダンスは楽しかった。

 練習の時もそうだったが、本番に強いのはマルガリータ嬢の性質なのか。見られていることに慣れている。度胸も申し分ない。歴代のパートナーの中でも一番踊っていて楽しい相手だった。

 あまり情報は手に入らなかったが、良しとした。

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