学園に行く準備

第29話

 ルカたちは学舎の二年生になった。


 リタたちと一緒にタブレットを見ながら、学舎では足りない部分を学習したりしている。

 休みがちだったリタはすっかり元気になっていて、リタの家族もとても喜んだ。

 リタが学園に行きたいと話をしたら、最初は心配していたが、魔力量が足りるなら好きにしたらいいということになった。

 ふわふわしてそうなのに、リタは決めると早いらしい。


 それからは、積極的に学園に行く方法を尋ねてくれる。

 ルカと三人で算術などはもちろん、楽譜の読み方を覚えたりしている。


 ルカが楽器はムリだというので声楽をすすめたら、肺活量があるからか、声量が大きいうえに、息継ぎをほとんどせずに歌い上げる。

 声量と息継ぎだけなら天性の才に恵まれていることが分かった。楽譜の読みがまだいまいちだけど、入学まで後二年近くはあるからそれまでに覚えればいい。


 学園が試験する楽器の中にオカリナが入ってないのだが、父から貰い受けた四弦の楽器でもいいことが分かり、それをリタが使っている。


 私と言えば、ヴァイオリンのようなフィドルがだいぶ上達している。

 クラシック調のアニメ曲っていうのがいいのだ。学習というより楽しんで弾いていて、それにリタとルカが合わせて歌うのだが、最近少し演奏ぽくなってきたので、楽器の練習が進んでいるのだ。


「入学試験は三種目だったよね?」

「うん。ルカは体力も入るけどね」


 入学試験は基本学力の筆記、楽器演奏もしくは声楽、一定の魔力量及び中級魔法を三つ以上発動させること、が条件となっている。


 マナーは試験にこそ入ってはいないが、基本的な受け答えがあまりにもできないようだと、マイナス評価されるそうだ。


 騎士に進むコースを選ぶ場合はこれに体力測定も加わる。加点される方式なので、騎士になる場合は、学力がそこまでなくてもこの体力でカバーされるようになっている。騎士コースに進む者以外も体力に自信があれば、受験可能だ。


 楽器演奏はたしなみの一つのため、点数自体はそこまで高くはない。ただ、領地対抗の演目にも入っているから、入学後も必須ではある。楽器演奏を入学試験に入れているあたり、平民へのけん制と取られかねないが、声楽でもオッケーなのが情状酌量を指しているのか、よく分からない入学試験だと思ってしまう。


 踊りがないのは助かった。ダンスは相手が必要なため、踊る相手の力量も関係するから、入学試験には入っていないそうだ。もちろん、入学後にレッスンはあるから、ある程度練習しておく必要はある。



「結構覚えることあるね」

「うん。楽器やダンスは学舎ではないものね。歌は歌うけど、楽譜を覚える必要はないし」

「学力は読み書きと算術、地文学の三つだよな?」


 ルカの心配は学力だねぇ。


「読み書きの中に、歴史や神話などがそれとなく入ってくるよ」

「うわぁ。歴史とか知らねーぞ。学舎でもほとんど習わねーし」

「基本、読み書きの試験だから、簡単だとは思うけど、知識として少しは知っておいたほうがいいよねぇ。これから覚えようよ」

「地文学はどこまでだ?」

「気象とか天文、地質とかを指すけど、試験に出るのはこの国の地理と気象くらい」


 兄からもらった魔法学園のパンフレットを手に答える。


 このパンフレットは立体映像が出るのだ!

 と言っても、魔法学園の建物だけなんだけど、パンフレットに立体映像を仕込むってどんだけ金かけてるんですか? 

 何でも、このパンフレットは対外国向けに作ったものだったらしい。去年のだけどね。

 それでも、この立体映像の学園を見たら、広大な敷地にそびえる立派な建造物の様子に、ほぅとため息が出てしまうくらいには素敵なのだ。


 ルカなんて、この映像を見て


「親は絶対に説得する! 学舎の勉強でも三十位には入る!」


 と燃えてくれた。うん、学舎の勉強もっと頑張ってもいいよ?


 平民入学はそれだけで特待生枠なので、入学金から学費、寮費、食費まで全て無料になる。ただし、制服など些細な物は入らないので、平民にとっては結構な金額が必要と感じるはずだ。

 もちろん、その後騎士や国の機関で働くことを考えたら、投資金額としては妥当だけど。


 学園に入る平民というのは、魔力量が多くないと入れないので、親や先祖に貴族だった者がいたという話もあるくらいだ。事実、富裕層の平民の子供たちが特待生枠らしいから。そういう者たちは寄付をして、個室を得たりしているようだ。

 そんな中で、たぶん全くの平民であろう二人を入学させようと言うのは、今更ながらに、無謀だったのかもしれないと思う。


「二人とも大丈夫かなぁ」

「三食を貴族が食べるのと同じものが出るんだぞ! それだけでも行く理由になるな」

「口が肥えそうだよね」


 笑顔の二人が羨ましいよ。貴族も二食が多いけど、軽食付だし、お茶会もあったりで結構食べてるもの。


「ほら、ここに軽食の時間ってのがあるぞ」

「おやつの時間! いやっふぅ~」

「シャインが一番嬉しそうだね」


 学園で出るスィーツがおいしいと義兄たちから聞いたんだもん。ジュル。


「俺らが受かるなら、クレトのやつは余裕で受かりそうだけどな」

「クレトも受けるの?」

「さぁ、どうだかな。学舎もすでに学んだとかで一年目は行ってなかったしな」


 へぇ。知らなかった。


「二年目から学舎で学んでいるの?」

「三年目だけ行くかもって。魔力量もあいつ多いからな」


 クレトの魔力量は私より多い気がする。いや、確実に多いだろう。

 私が感じるクレトの魔心臓は三つなのだ。それって、少なくとも片親は貴族だと思うのだけど……。


「クレトも魔法学園に誘ってみる?」

「俺は嬉しいけどな。あいつが一緒なら」


 途端に笑顔のルカ。ルカが誘うからパーティも仲間になったし、ルカが誘えば一緒に行くかもしれない。




 私たちはタブレットで神話を見ることにした。

 

 動画名「誰でもすぐに分かる前等部のための神話」。

 「三分で分かる因数分解」と似たようなかほりがしますが、大丈夫ですよね?

 とりあえず、再生。ナレーションが始まる。


 「大陸ができるまでのお話。それ以前を神の話といって、神話」


 おお! 分かりやすそう!……要らない説明な気もするけど。

 何々、最初には虚無だけだった。そこに巨人が現れ、その孫三人が巨人を倒し、その体で作ったのが、この世界であると。

 うん、簡単!


 ……あれ? どっかで聞いたような話だね


 巨人の名はユミル。三兄弟の名はオーディンと……! 


 うわぁ、これ北欧神話だ!!!

 よりによって、ダークで奇奇怪怪な北欧神話。

 アニメでも『巨人の〇撃』とかの世界観が前世の記憶として浮上する。


 血と炎で彩られた希望もないような北欧神話……。

 他の神話は楽園的要素が入っていたけど、北欧神話は戦いで幕をあけ嘘や駆け引き、その他もろもろダークな色彩の中、予言すら最後の戦争の話だったような。

 意味不明の内容ばかりだった気がするのだけど、神話とはそういうものか。


 神々なのに魔法をあまり使わず、オーディンすら途中で魔術を授かったけど、その後も力技で闘っていたような世界じゃなかったかな? 

 まぁ、魔法って生活の一部だから、戦いだといって魔法ばかり使うわけじゃないだろうけど。


 動画に意識を戻そう。


「オーディンの息子バルドルが、悪神ロキにそそのかされた盲目の神ホズを通して殺される。そこから神々の戦いは始まり、全世界は炎の中に死に絶えた。新たな大地が現れ、復活したのは神バルドルとホズだった」


 端折りすぎてませんか、説明……。

 十分の動画だったらしく、その後もささっと説明して終わった。


 リーヴとリーヴスラシルという人間が生き残り、それが先祖となったと。


「神話ってこんなんだったのか?」

世界樹ユグドラシルで天上と地上、地中が繋がっている世界だったのね」

「神話の中の物語でしょう?」

「神話だもんな。俺なんて、雷の力を使うトール神とかしか知らなかった。『放て、サンダーボルトォォォオオオ!』 の神で有名だからさ」


 そっちですか。それってサンダーボルトにトール神を絡めただけですよね?


「神の名前とかって煩わしいけど、魔法の呪文の神だと思うと、自然と覚えるよな」

 

 あぁ、確かに何かに絡めると覚えやすいよね。

 私は手を上にあげて、くるっと回りながら言い放つ。


「じゃぁ、『巻き起こり唸れ! シャイントルネードォォオオオ』とかってどう?」

「そういうのいいから。まじめにやれよ」


――ルカにだけは言われたくないよ? そりゃ、風の北欧神がいきなりは思いつかずに、思わず自分の名前を入れちゃったけど。シャインだから光魔法との複合魔法ぽくていいかなと思ったのにな。

 決めたポーズのこの手をどうしてくれよう……

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