第22話

 母が、お店にも新しいポーションを並べていたから、一緒に並べながら、名前はどうしようかと聞いてみる。


「初級αアルファポーションとβベータポーションでいいでしょう」


 プラスアルファの効果があるからってことらしいけど、じゃぁ、ベータは何だろう?……。深くは聞くまい。


 商品の説明ポップはつけないのかって聞いたのだけど


「つけたいなら付けていいわよ」


――母さま、面倒なんですね? 


 私が付けることにした。どんな文句をつけるかで、売り上げが違うはずだ。

 私の実験の費用にもなるんだから、頑張ろう。



――一時間後


 ……浮かばない!

 誰か、私にポップの才能をくださーーいっ

 仕方ないから、そのままの説明にしておこう。思いついたときに、書き直せばよかろう。



 その悩んでいた一時間の間に新しいことが発覚した!

 私が気づいてなかっただけなんだけど。

 領主の言葉が気になって、母に尋ねてみたら、なんと、私は魔力を体力や筋力の増加に回していたらしい。

 道理で、自分より大きい子たちについて駆け回れるはずだよね。

 周りが、私よりも魔力量の少ない子たちばかりだったので、一人魔力を使っていたからできたのであって、貴族同士でそれをされたら、体力的についていけなかったのだろうと思う。

 なぜ自然に使えるようになったのかまでは、覚えてないけど。きっと、ルカたちに付いていきたい気持ちが魔力を使わせたんだろうね。


「シャインはコントロールがうまいほうなんだと思うわよ」

「うーん、風魔法とかの的はあまり当たらないよ? マリオたちのほうが上手いもん」

「投げるコントロールじゃなくて、体をめぐる魔力のコントロールのほうね」

「それが上手いと何かいいことある?」

「治療師としてはいいでしょうね。ま、これはうちの家系のお陰かな。後は複合魔法を使用するときに役立つかもしれないねぇ」


 あぁ、そうだね。母も治療魔法は使えるからね。


「複合魔法?」

「そう。光と土で錬金術が使えるとかね」


 そんなのがあるんだ。

 風と炎の複合魔法でひょうになるとか? ……違うな。炎が入っても、意味はつむじ風。


 まじめに本でも見よう――



 夜、ベッドの中で本を読んでいたら母たちに呼ばれた。


「私の体調を考えてくれてたのね。ありがとう、シャイン。このポーション飲もうと思うの」


 母は私を温かく抱き寄せて、頭にキスをする。

 祖母を見ると、微笑みながら頷く。


「レイバ伯爵の伝手で鑑定士に見てもらったよ。毒はもちろん副作用もでなかった。効果はシャインが言っていたように、虚弱体質改善治療薬だったよ。治療薬の部分が外傷に効かなくなっているかもしれないとのことだったがね」

「なぜレイバ伯爵に頼んだの?」

「初級αポーションが出てすぐだしね、それこそ、この薬に効果があったとしたら、すごいことではあるけど、材料が手に入らない。お前はもらったと言ってたけどね、殺したら消滅してしまうのが魔物だからね。たまたまだったのか、そこも分からないだろう?」


 そうだった。魔物の足が折れたから、彼らの一部である根っこをもらえたんだ。


「うん、消滅しちゃうと手にはいらないね」

「もし、話が広まったとしてもレイバ伯爵が絡んでいたら、まず人々は彼の領地である南の島に関心を向けるだろうからね。新しいのが出たとしたら、ナリア諸島を疑うだろうね」

「ジーンたちに迷惑がかからないのは、嬉しいよ。ありがとう」

「完全ではないだろうけどね。それでも、この薬が一本で確実に効くのか、それとも継続して飲まないといけないのかも分かってもいない。鑑定士の話では例えばレイバ伯爵夫人なら一本で十分だってことだけどね」

「え? 奥様が飲まれたの?」


 驚く私に、母が答えてくれる。


「私が飲んでからにしてもらうそうよ。鑑定士が視てはいるけど、私が先に飲んでからってことになったわ。奥様もたまに具合が悪くて寝込まれることがあるそうね」


 伯爵も、薬が欲しい理由があったってことだね。

 奥様の体調に冷えは関係しないのだろうか、そう思っていると祖母が続ける


「シャインが言っていた、冷えとの関係も話してはみたよ。確かに冷えやすいそうだけどね。シャイン、薬はあと何本くらいできそうかい?」

「作ってみないと分からない。全部で百できるかなぁ。知り合いだけに分けるとしても、販売するの?」

「いや、今のところは売ることは考えていないよ」


 ジーンたちの根っこはそのままでも乾燥させても同じようにポーションができたから、乾燥させて置いてあるけど、全てポーションに作ったほうがいいかな。


「ジーンたちのことは伯爵に話をした?」

「ダンジョンが彼の領地でもあるし、もし広まった時の出処として了解してもらうためにも、話をしたんだけどね、根っこのような植物系魔物はマンドレイクしか知らないとのことだったよ」

「ババさまはマンドレイクだと思う?」

「マンドレイクは引き抜くと音を立てるんだけどねぇ。シャインはどう思う?」


 逆に聞かれてしまった。


「よく分からないけど、山参? オタネニンジン、あれも根っこが人みたいな形してるよね?」


 しばらく考えてから、祖母が口を開く。


「ほとんど知られていない魔物だね。マンドレイクしか知らない人は、山参の魔物を見てもマンドレイクだと勘違いしそうだね。生態も知られてない魔物で、マンドレイクの別種だという説もあるくらいだ」

「そっか。ジーンたちが何の魔物でも、薬ができたんだから、それでいいや」


 そういって、話は終わり、私は自分の部屋に行って、眠りについた。


――母は、体調が特別悪いこともなかったからか、飲んでも特別な変化がないとのことだった。期待が大きい分、がっかり感も半端ないね……



 薬の効能が気になりつつ数日が過ぎたある日、一通の招待状が届いた。

 マルガリータからの「遊びに来い」違った、「遊びにおいで下さい」という父の屋敷へ届いた招待状だった。

 どうやら貴族として招待されたらしい……。期日は二日後。


 私はふらふらと心の友リタの家に行った。

 ルカもいたが、ルカそんなのはどうでもいい。 

 

 リタにお願いした。

  

「私が死んだら、骨だけは拾ってね」

「シャイン、領主さまのところへ招待されただけで、死なないと思うよ」


 リタのお菓子が食べ納めかもしれないと、泣く泣くお腹いっぱい食べてたら、ルカに頭を叩かれ言われた。


「お前が菓子の食いすぎで窒息死なら、信じられるぞ」


――ひどい! その言葉さえ、口いっぱいのお菓子で言葉にならなかった。無念だ。

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