第21話
領主の館を出て、周りに人がいないのを確認してから私は祖母に聞く。
「小売り価格が大銅貨二枚? 冒険者には高くない?」
「常連たちが若草色のほうを買ってくれたら、別のを一つをつけて試してみてとあげても誰も困らないだろう? それに、シャインは追加の効果を知りたいのだから、常連からも情報はもらっていいと思うがね」
つまり、一個買うとおまけでもう一個ついてくるのですか。そして、私たちには効果の情報が入ると。
「領主さまにばれたら怒られない?」
「最初だけ試してもらっていると言えばいいよ。そのうち、小売り価格を下げてもいいしね」
にっこり笑うババさま。ついでに私のマフラーを綺麗に整えてくれた。
「結局、作り方は広めない?」
「広める気は今のところないよ。いくら二つを補えると言っても、所詮は初級ポーションだしね。五倍化を話してないから、そこまで問題になることもなかったね」
「じゃあ、他領の窓口は領主にしたのは、どうして?」
「私たち平民が他領の貴族に対応は難しいだろう。この領で一番の権力者は領主だし、他へ出せるものがあれば、それは領主としても歓迎したい部分だし、両方に利があるのさ」
そうでした。私は一応貴族だけど、ポーションの作成者となっているババさまは平民だった。
「父親や義兄のことも領主さまは知っていたね」
「ロランドのことは子供の時分から知ってるからねぇ。話してあるよ。話さなくても、貴族のことだし知ってただろうがね。今は立派に見えるが、若いころはマルガリータが可愛く思えるほどのヤンチャで、貴族街を抜け出しては色んなところへ遊びに行っていたのさ。だから昔から情報通でもあったね」
マルガリータが可愛く見えるって、今の領主は相当だったらしい。情報通というよりは、諜報活動していたというほうが似合ってる気がするけど……。
「シャイン、ポーションの売りあげがいいようなら、実験で必要なものの代金に一部充てようと思ってるよ」
「ババさま、ありがとう!」
思わずババさまに抱き着いてしまった。
貴族街の南門が見えると、祖母はレイバ伯爵の処へ行くために私と別れる。
レイバ伯爵の処へは配達ではないらしいから。
私はルカのところへ行くために、足を速めた。
私は、ルカの家につくと、「シャインだよー」と名乗りながら、勝手に扉を開けて入る。
ルカはちょうど昼を食べているところだったから、ルカの昼食を一緒に食べながら、話をする。
「おい、俺の飯っ」って怒ったけど、ちらっと領主さまの処のお土産を見せたら私のほうへ皿をくれた。
後でバウムクーヘン、一緒に食べようね。
「そのお菓子、貴族街のか?」
「よく分かったね」
「お前、自分の姿鏡で見ろよ。髪は色々手が加わって半分下してるし、服もいいのだし、その菓子の包み紙も町では見ないだろ」
「髪は編み込みのハーフアップにしてたね。ワトソン君、いい推理だ!」
「ワトソンって誰だよ。褒めてないだろ、それ」
「あ、解決できないほうだって気づいた? 名探偵の物語の脇役なんだよね。でも、名わき役だよ! 彼がいるから主人公の推理が華やぐからね」
ん? あれは前世の物語だったような……。
「知らんわ。どうせ、ポンコツのほうとか思ってたんだろ。……お前、本読んでるのか?」
ばれてる! いやいや、ワトソンあっての、名探偵ですから!
「う、うん、タブレットで図書館の本読めるんだよ。今度一緒に読もうね」
「ふーん」
今、聞こうかな……。学園に一緒に行ってほしいな。
もし、行きたくないとか言ったらどうしよう。ドキがむねむねしてきた。
「ルカ、騎士になったらって話前したよね。もし、魔力量が上がって学園に行けたら行きたいと思う?」
「学園か。勉強がなぁ」
「冒険者よりは、騎士のほうが、勇者に近いと思うよ」
「行く!」
――チョロいな。チョロすぎないか? 私の胸を返せっ。あれ? ドキドキを返せか。
「シャイン、お前、魔力上げる方法でも知ってるのかよ! 教えろよ!」
あ、やっぱり、マテができないタイプだった……。
「はっきりとは分かってないよ。ただ、やってほしいことはある」
「はっきりしてないのかよ。しょうがないな、何だよ」
「夜寝る前に、魔力をなるべく消費してから寝ること」
「あぁ、それ魔力を上げる方法ってやつだろ? でも、そんなに効果ないと聞いた
ことあるぞ」
「私がしてみたんだけどね、効果がなくはないと思ってるの。それが年齢的なことなのか、個人の資質なのか分からないのだけど、私に少しでも効果があったことだし、ルカが試してくれたら、嬉しいかなって」
さすがに、これはリタにはお願いできない。いつ熱が出るかもわからないから。
ルカも魔力量を上げることについては興味があったようだし。私は次の段階に移ってはいるけど、一緒にするとどれの効果なのかも分からないから、ルカにも協力してほしいんだ。
「あんまり微妙な感覚だと分かりづらいと思うけどなぁ」
「二か月は続けないと分からないと思ってやってね」
「二か月もかよっ」
私は首を傾げながら答える。
「学園まではまだ二年以上もあるんだよ。その間、効果があれば、どちらにしろ続けなければならないんだから、やってみてよ」
「そう言われるとそうだけど……。他にはないのかよ」
「今、色々してるよ。魔力弾に、魔力圧縮弾ってあるでしょう。圧縮できるのなら、体の中でもできないかなぁって思ったら、実際にあるみたい。調べている途中なの」
「そっか、ま、頑張れよ」
「頑張るのは、ルカもだよ? 今から勉強一緒にしよう」
「げぇえええええええ」
鳴いても無駄です。
学舎を休みがちなリタが進み具合を心配していたから、三人で五日に一度くらいの頻度で復習することにする。学舎が冬休みになるまでは、ルカがうちにそのまま来て、昼を食べてその後勉強することにした。
計算問題をちょこっと見せてもらったけど、二ケタが難しいらしい。
私も昨日、動画で因数分解を見て、そっと消したから、気持ちが分からなくはない。
なんで分解するかね?
自然のままにしとこうよ。逆の展開とかいらないよ?
動画の誘い文句「三分で分かる因数分解」。
なのに、動画は三十分構成……。
そっと消したあとに、よく見たら、後等部推薦の動画だったけどね。
さ、気持ちを入れ替えて遊びますか!
その後ルカと剣の練習と称して遊んでいた。魔法も練習したけど、土魔法なのか、土遊びなのか分からないレベルだった。
ルカは、詠唱をさらに増やしてなんか色々付けていた。もちろん、発現しないけど。
例えば、「契約に従い我に従え大地の精霊よ! 地割れ来たれ! 叫べ! 堅牢強固に立ち向かえ! 出でよ 土壁!」。
土壁なのに、地割れなの? なぜそこで叫ぶの? 色々言いたいことはあったけど、喜々として詠唱してるルカが幸せならいいのかもしれないね。
挙句は、「土の精霊を称える歌ってのがあっただろ? あれを入れたら、さらにかっこよくないか?」ですと。
長いよ……、もう詠唱中に敵にやられて死んじゃうレベルで長いよ。
かっこよくて幸せでも、死んじゃうよ?
私なんて「出でよ」もいらない、短いほうがいいのにって思ってたのに……。
ま、ルカのやる気が出るならいいことだよ、ね??
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