第129話
世界樹の中に入ってからどれ位経ったのだろう……。
「二十三日だね」
ちゃんと、記録をされている方がいらっしゃいました。
記録、大事ですよねー。
先人たちの記録、そのお陰で、多くのことが分かったというのに、私は何も記録してないけどね。
言い訳すると、そんなこと気づかないほど目標に向かって努力していたのだ。
「日記を読んでいたら日付を目にするから気づくと思うが。俺よりお茶の時間は多かった気もするしな」
うっ。せ、正論。
「で、でも何か読みながらお菓子食べると、味わえないから、ね?」
「悪いとは言ってない。一人が記録していれば十分だろ。お菓子を美味しそうに食べるシャインは見ていて和んだ」
見ていたの?
うーん、お菓子がやっぱりほしかったのだろうか?
優しすぎるその言い方に裏の意味がないか思わず疑ってしまった。だいぶお菓子も減っているから、大事に二人で食べよう。やっぱり独り占めは遺恨を残すよ、うん。
げに恐ろしきはお菓子の恨み、だからね!
世界樹の中だけど、外の様子が分かる。映写機に映し出されるのだ。
それは元からあった機能のようで、壁にはめ込まれてあった。戦争が終わり、外に出ることが出来るようになるのを映写機を通してリーヴたちは知ったのだと思う。
つまりは、神の遺留品?
遺跡には変わりないのか、な。古代ゴーレムとかが出てきて「排除する」といきなり襲われるそんな遺跡でなくて、本当に良かったよね。
「どんな思考だと、遺跡にゴーレムが出るとなるんだ?」
あれ? 昔の王族の大事な遺跡を守るって普通じゃないの?
「ほら、王族の遺品は大事なものが多そうだから、ゴーレムに守らせているんじゃないかなぁと。物語よ、物語」
「王族は生きて続いているのに、遺跡になるようなところに大事なものは残っていないだろ」
さいですか。
この世界が安全であることを喜ぼう。遺跡はただの観光名所、前世と同じだね。
その時、私たちの頭にはダンジョンがすっかり抜けていたと、数時間後にクレトに謝られた。現在進行形で使っているものだけど、神の遺跡ではあるのかな。
厳冬はあと一週間程で第二段階へと進む。
「寒くないかなぁ。アンブル領の皆、寒くないといいな」
「そうだな。南のアンブル領にとっては大変だろうな。厳冬に対応してないのはレイバ領もか。二領主共に賢いからある程度は大丈夫だろう。ここは暑くも寒くもないし、快適と言えないこともない」
そうなのだ。引きこもりには、いい環境だと思う。ネットは使えないが……。
うん、やっぱり会いたい人に会いたいとき会えないのは寂しい。早く出よう。
そう思っていたのに、さらに二十日があっという間に過ぎて行った。
多くの書き残しは中途半端だった。部分的な細切れの情報。それらを繋げて考え、希望をもってはまただめだった、の繰り返し。ヒントはいっぱいあるけれど、全然繋がらない、物も不足。
例えば、太陽と同じくらいのエネルギーを造れるかもしれない核融合炉関係。海水の代わりにリチウムが使えることが書かれてあり、知った。
で、リチウム自体はあった。あったのだ。だが、核融合炉は? 真空管は? となるとそれっぽいのはできていたのだが、それを組み合わせる方法が分からない。
プラズマは上級魔法の雷で代用可能とか、何だか細切れだけど、魔法でいけるんじゃね!? と期待させる情報はいっぱいあった。
確か前世で十三歳で核融合炉を自作してしまった人がいた。
それを思うと出来そうな気もするが、実際にはクレトが書いてあることを私でも理解可能なように説明してくれてやっとだから、私は無理。
クレト任せになるけれど、彼でも難しいらしい。
それが、だいぶ行き詰まり始めた。重要な資料は一つにまとめている。
「かなり全部調べたのに……」
「後は、俺では分からない昔の文字で書かれたリーヴたちの物と思われるノートか」
リーヴたちは人柱にはならなかったけれど、この中にいて、長いこと暮らしていたようだった。その時に書いたものと見受けられるものがあった。その後、長いこと人柱は必要なかったから、昔の言葉で書かれたのはリーヴ達の物だけだった。少し読んで気づいた。
そう。昔の文字が私には分かる。
それを知ったのは、皮肉にも魔眼持ちのフェルマー隊長のお陰だった。
私のスキルが異常に変わったものが多いらしく、全てを覚えていたようだ。まぁ、その場で鑑定すればすぐに分かるのだけど。鑑定士よりもさらにそのスキルの意味まで分かるという魔眼。
さすがはヘイムダルの再来。違った、ヘイムダル憑き。光の神だけど。
「シャインは【仲良し小好し】スキルを持っているから保母や乳母に向いているのだろう。だが、子供の親たちが心配になるだろうから、仕事ができないことがかえって幸いだったかもな」
最後の方は独り言のように言っていたけれど、はっきり聞こえましたよ?
酷いことを言われた気もしたけれど、【仲良し小好し】スキルのことを知っている人がいたことに驚き、かつ保母スキルと聞いて、私は一気に嬉しくなった。
ただし、私の精神年齢がある程度育たないと発動しないスキルらしく、大人になったら自然と子供たちの仲を取り持てるスキルになるという。
魔物を引き寄せるスキルじゃなかったよ!
そして、普通の鑑定士では鑑定出来なかっただろうと教えてくれたスキルがあった。古代文字でステータスに映るというスキル。魔眼があるからこそ、スキルの意味から名前も内容も知れたらしい。
「【言語翻訳機能】があることで、古代文字も読めるだろう。世界樹の中で役立つことがあればいいな」
そう言われていた。だから読めはするんだよね。でも、ですよ。古語は古語なんだな。もしくは漢文のよう、と言ったらいいのだろうか。
読みずらいことこの上ない。
「いとおかし」も「超ウケる~」も似たようなものか。
さらに、いとおかしには「もののあはれ」のように趣があるという意味にもなるような、実に五つの意味があったように、何度か読み直してようやく意味を理解するものもあった。
だが、スキルというのは進化するというか、努力に対して伸び率が大きいからか、だんだんとスムーズに読めるようになっていった。
クレトが核融合炉について頑張ってくれているのだ。私も頑張って解読しようとしていた。
そして、そして、見つけてしまった……。
「はぁぁああああああ!!!???」
「どうした? シャイン、大丈夫か?」
私はすくっと立ち上がり、あの男女がいた木の洞へと駆け出した。後ろからはクレトが追ってきていたが、彼の話も足音も耳に入ってはいなかった。
木の洞にはすでに男女はいない。
あれから三日後だったかには消えていたらしい。私はその後入っていない。消えたことを感知したフェンから聞いたクレトが一人で確認してくれたそうだ。
だからと言って、その後私たちの体調に変化はなかった。私たちの魔力が使われるというより、インターフェースであるだけというクレト説が有力だなと思われる。
怖くて、とても足が向かなかったその場所へと、私は俊足を使ってやってきた。木の洞のある空間。
棺型の洞の前にある物へとゆっくり視線を移す。
「あった……! マジ!? うわぁ、何て何てアホなの?」
「落ち着け、シャイン。大丈夫か?」
「あははは。クレトぉ、これどうしたらいい? 長い間王族は無駄に無駄にっ……」
「……そんなに辛そうに泣かなくていい」
叫んだ私にクレトがそっと手を頬にあて、涙をふき取る。自分が涙を流していたんだと雫の存在に気づかされた。道理で言葉が詰まったわけだ。
そこでハッと気づく。
「そ、そうだ。まだ、これが動くかも分からない! クレト、右側の木の洞に入って! 私は左に入るから!」
「お、おい! それって――」
私は慌てるクレトの声を後ろに木の洞に足を向けた。
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