第7話
見習いには学舎を終えた後なることが多いけれど、冒険者見習いはギルドで学舎に入る七歳前から、見習いとして登録できるようになる。冒険者や兵士の息子たちは三~四歳ごろから小さな剣で遊んだり、主に親に教わったりしてるから七歳ともなれば、小さな獲物は狩れるらしい。すごいね!
学舎での学び時間は午前の三時間だけ。職人や農家の子供たちにとっては、午後はお手伝いや遊びの時間だが、冒険者を目指す子供たちは、ギルドにて冒険者としての説明や実技を教わり、簡単なギルドの仕事から任されていくより実践に近い時間になる。
近所の子供たちがよく集まる遊び場で、木剣を振り回しながら来月七歳になるルカが冒険者ギルドに登録する話を誇らしげに語っていた。私にとっては少し早いけどいい機会だと声をかける。
「ルカが冒険者ギルドに登録するなら、私も一緒に登録する」
「は? シャインは貴族としての仕事に就くんじゃないのか?」
「採集があるから。冒険者ギルドに登録してたら、お小遣いが欲しい時は多く採れたら売れるし、買いたい時も募集をかけてもらえるしね」
「そっか! じゃぁ一緒に登録に行くか? 明日の午後一番で登録して、ちょうど始まる初心者説明会ってのに出ようぜ」
面倒見のいいルカは笑顔で喜んでくれた。
ルカやリタを見ていて最近思うことは、一緒に王都の魔法学園に行ってほしいってこと。
二人とは赤ちゃんの時からの付き合い。ルカとは母親同士が友達だし、リタはお向かいさんだから、一緒にいることが自然で、とても安心する。
平民が魔法学園に行ける道は幾つかあるけれど、魔力量も平民並みだろう二人、それも体の弱いリタ。一緒に行く方法を調べれば調べるほど壁にぶつかっている。
魔力量を伸ばす方法を探しているけど、先人たちが探してきたものを私ができるだろうか? できないね! はっきり、きっぱりしてるよ。
ただ……それでも、一緒に学園に行きたい。なぜなら――
ボッチは嫌だから!
ボッチは嫌だから!……大事なので二回言いました。
独りでいるのは、たぶんあまり気にならない。かも、しれない。きっとそう? オロロロ……くらいで心配する最大重要最高地点はそこではない。
私はうっかりが多い、らしい。
例えば、トイレに入った後、ドロワースの中にスカートを巻き込んで外を歩き回る。いつもじゃないよ? たまにだよ。
これ、貴族社会でしてたらアウトじゃね? いや、平民社会でも指さされて笑われてるけど……。
笑ってごまかせる友達がいれば、こういう時でもなんとかなるのにねぇ。
『自分の恥体験は他人の笑いの種!』 これが信条です。決まった!
だいたい、髪型はどうする? 母がいればいいが、親はついて行けないし、一人侍女なり従者を連れて行けるらしいのだが、付けてもらえないだろう。
髪すらはねてボサボサで貴族社会で暮らせるわけがない。だからそこで必要なのが、手先の器用なリタ。
リタは可愛くて、いい子だから、男女ともに人気がある。
ルカは明るくて、大きくて力も強い。人を引っ張る統率力もあり、面白いから人が集まる。たまに言うことが痛い気がするけど、まだ子供だからか周りは気づいてないらしいし。そんなルカは貴族の子女の間でも強く生きてくれそうな気がするのだ。最悪、彼にかばってもらえなくとも、ルカが、リタが横にいてくれたら、それでいいんだ。
とにかく、学園でのボッチは嫌!
次の日、ギルド前で待っていると若干緊張した面持ちのルカが赤みが強い髪を揺らしながら駆けてくる。息づかいの少し荒い、赤茶の瞳を見上げる。
「ルカでも緊張することあるんだね」
「ち、ちげーよ! 父さんがギルド内では挨拶もしっかりしろとか言うから、名前を忘れないように頑張っているんだよ!」
――名前を忘れないように頑張るってどんだけ挨拶する人がいるのだろう。
「へー、偉いね。で、誰の名前?」
「えっと、ギルド長補佐がケインさんで、買い取り受付がギルさん……あれ?反対だっけ?」
「いや、私に聞かれても知らないよ?」
たった二人の簡単な名前すら必死で忘れないように頑張っているルカと一緒にギルドに入る。ルカの成績が心配になってきた。
奥の方にカウンターがあり、右の方に受付という表示がある。
壁に貼ってあるのは依頼のようだ。
ずんずんと奥にすすむルカについていく。
「ケインさんですよね? 初めまして。ニコラスの息子ルカです。今日は登録に来ました」
「あぁ、ニコラスから聞いてるよ。よく来たね。登録はこっちに記入が必要だけど、分からなければ署名以外は代わりにしてあげるよ」
――あ、補佐なのに受付にいるのがケインさんだからややこしかったのね。
ルカはちらっと私のほうをみる。うん、私も挨拶するよ。
「初めまして、ケインさん。私も登録するので、ルカと一緒に読んで書きますね。私たちだけで大丈夫だと思います」
「ちっこいのに字を書けて読めるのかい? まぁ、君たちなら書くのは名前、年齢くらいかな」
大きめタブレットとペンタブを渡される。
「紙じゃない……。これ、どうやるんだ?」
「タブレットだねぇ。タブレットの中に申請書が入ってるから、紙と同じように読んでこのペンタブで署名すればいいんだよ」
「へぇ」
ルカはタブレットを重さを確かめるように上下に二度揺らし、少し持ち上げ裏側を見たりと、興味津々のようだ。
「手のひら十個分くらいかぁ」と大きさも自分の手で確認してる。
申請用紙サイズより少し大きいタブレット。
見習いの記入事項は少ないが、保護者の名前も必要だった。一般人も希望がなければそう書くこともないようだ。
縦にしたタブレットに、ルカは字の大きさはバラバラだけど、「字がはみ出そうだ」と言いつつも、ちゃんと父親の名前も書いている。
ルカが書いたら、用紙の上部分にある二の数字をペンタブでタッチする。
やはり二枚目の申請書のページが出てきて、そこに私も署名する。万年筆で書いたときのように、力の入れ具合で一部飛ぶところがある字になった。
「おまえ、手慣れてるなぁ」
「タブレットは初めて使うけど、使ってるのを見たことはあるから。放送受信機や通信のタブレットもあるよ」
義兄が使っているタブレットで一緒に録画されている動画を見たことがあると言うと、放送や通信、録画って何だって言われて、「そこからか!」って説明する難しさに頭を抱えた。
貴族社会では普通に使っているけど、平民の子供は見たこともないっていうのは結構あるんだなって今更に思う。
色々聞かれたら、説明が長くなるし難しいから、タブレットの使い方を教えてくれなかったのかな? と思いつつケインさんに署名済みのタブレットを提出する。
丸い水晶のようなものが付いた道具を準備してくれていたケインさんが、申請書を確認した後、手を水晶の上に置くように言う。
ルカが水晶の上に手を置くと、淡く光ったから何かの魔道具だろうと見当をつける。
私も同じように手続きをして、カードが出来上がってくる。当たり前なのかもだが、ちゃんとカードには名前とランクがついている。
「シャインさんは魔力が多いね」
「俺は? 学舎では多いって言われたんだけど」
「君も多いほうだけど、シャインさんはさらに多いよ。まぁ、まだ成長するから、魔力量も増えるからルカ君も頑張って」
申請用紙に父の名は書いたが子爵とは書いてない。冒険者ギルドに見習いで貴族は来ないから、この年では魔力が多いと思われたのだろう。
学舎では魔力も測ってくれるらしい。
「カードは出入金もできるギルド専用銀行カードの代わりにもなっているよ。買い取りのお金もここに入るし、身分証にもなるからなくさない様にね」
便利な魔法アイテムをゲットしたようでテンションが上がる。
ケインさんは依頼に関することからギルド内でのことを説明してくれたあと、見習いが受けれる実習などを教えてくれた。主に私のためだね。ルカは知ってることばかりのようだった。
「鑑定士の予約入れるか?」
「何で?」
「スキルを見てもらうんだよ」
買い取りの方かと思ったよ。スキルは別途見てもらわないと分からないらしい。説明会が終わった後に予約制で見てもらえるそうだ。
大銅貨一枚ね。それで自分の特別な才能が分かれば安いのかな?
「今回はいいや」
ルカは以前すでに学舎で見てもらったことがあるらしい。学舎は領主が管理してるから、平民の中で魔力が多い子や領に必要なスキルのある子を抜擢するためにも入学時に測定してくれるのだろう。
ルカに何のスキルもっているのか聞いたら
「まぁ、剣士のスキルはあるぜ」
誇らしげに言ってた。他にもあるらしいけど、あまり人に言わないものらしい。
その後、説明会に出た。
ルカは知ってる内容ばかりなのだろうか? 途中から居眠りしていた。
――ルカの成績が真剣に心配になってきた。
帰宅後、母にギルドに行った感想を聞かれて出てくる記憶は「ルカの成績が心配」これだけだった。私の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます