第26話

 春はあけぼの やうやう白く――どころかどんどこ眠くて白目をむく時期がやって参りました。


 寒いのは苦手なので、さっさと通り過ぎていただき、春になり、採集の季節。


「シャイン、今日は春の山菜を採りに行くわよ」

「つくしやタンポポ?」

「タンポポは食べないわよ」


 おかしいなぁ。タンポポコーヒーってなかっただろうか??

 漢方としても母乳の出をよくしたり、発毛や冷え性、便秘対策にもなっていたはずだけど……。


「春になって、もっと元気になったね、母さま」

「おかげで、寝込むこともなくなったしね。風邪はまだひきやすいけど、こんなに春の風が気持ちいいのも久しぶりな気がするわ」



 そう、あの虚弱体質改善ポーションは効果があったようなのだ!

 リタも寝込むことがなくなった。

 リタに飲んでもらうときには、親から親へすすめてもらった。勝手に私がリタに飲ませるよりは、家族が近くで様子を見れたらいいと思ったから。


 リタもレイバ伯爵の奥様も「副作用も見られず、いつの間にか元気になっていたみたい」という感想をもらった。

 それからは、彼女たちの体調の良さを人伝に聞いた人たちから頼まれ、祖母がレイバ伯爵を通じてあげていたようだ。

 売ってはいなかったのだけど、無料ではもらえないという人もいたらしく、レイバ伯爵が一つ大銅貨一枚は出してくれて、まとめて五十個分の小銀貨五枚が入金された。そのうち二枚は実験に使いなさいと、祖母からもらってある。


「ひゃっほ~、実験ができるぅ」

「新しいものはできてる?」


 聞かれて、すぐにショボンと落ち込んだけど。 


 実験のほうは、ちまちまと頑張っているが、よく分からないものが、一応出来ている。

 鑑定士に見てもらわないと分からないから、そのままなのだ。自分でも飲んでいるが、元が健康なのか、さっぱり効果の程が分からない……。



 効果は分からないが、魔力の練り方や診かたは向上した。自分が魔力を筋力に変えたりするのも自覚できるし、他人の魔力も意識すればぼんやりと分かるようになっている。

 それと共に、他人や魔物の魔心臓とでも呼べばいいのか、第二の心臓のような部分を見ようとすると、薄っすらと感覚的に分かるようになってきた。

 魔物にそれを見たのは、思い返せば最初のダンジョンで、スライムを倒したときだった。

 スライムの中には核のように魔石が透けて見えるものがいた。そのスライムが姿を平らに変えたときに、その近くに心臓があるのだなぁと何となく感じた。そして、核の魔石から魔力の流れがあるように見えたのだった。


 魔心臓部分に魔力を貯めれないかと、試してみたが、それ以上に貯めるということはできなかった。しかし、貯めようとしたことで、密度の変化を感じることができ、その結果として密度を濃くすれば魔力量を上げることに成功はした。

 これを他の人、例えばルカに伝えたとして、できるのかはまだ分からない。


 自分の魔力が流れる魔心臓は二部屋がはっきりとしており、他が薄く感じるのだが、母やルカたちの魔心臓は一部屋のみしか感じられない。

 人によって感じられる心臓の部屋数が違うことを他の人が知らないようなのが、言えない原因にもなっている。一部屋しか動いてないようなのに、それ以上負荷をかけても大丈夫なのか分からないから。


 反対に、ランバートと手合わせした時には三部屋の存在をはっきりと感じた。


――爬虫類の心臓は三部屋のはずだけど、もしかしてベルナルドもかな? 


 再会の折に、その失礼な推理が当たっていたことを知ったのだった……。

 

 圧縮魔法の方法はまだ分かってないので、今度誰か知っていそうな人たちに聞いてみようと思っている。貴族の誰かになるだろうけど……。




 ――他に効果がみられたのは、初級αとβポーション。


 冒険者たちに一つ買うと一つおまけをしたところ、なぜかはりきって狩りをしたらしい。つまり普段より冒険をしたと? 

 二つの効果があるからといって効果が二倍ではないのだけど……。それはいわゆる、無謀というのではないでしょうか? と、私は思うのだが、大きな獲物を仕留めて喜んでいるパーティたちを見ているとおめでとうとしか言えず、その結果あまり出ないはずのポーションもかなり売れていた。……みんなが無事で何よりです。


 なんでも、冒険者特有のちょっとした疾病に効果を感じたそうだ。

 例えば、水虫とか……。び、微妙だね。


「あのポーションいいな!」

「……」


 あなたも水虫だったのですか。足が後ろに下がるのを許してほしい。


「疲れにくいぞ。三日ダンジョンにいても、まだ元気だしな」


 おお、それはいいね! 思わず前のめりになるよ。


「お前は前からいつも元気じゃねーか」

「そうだったか? 元気が取り柄だからな。 がはははは」


 ……おっちゃん、元気でよかったね。

 それでも、鑑定士が出した結果があるからか、プラシーボ効果なのかは分からないけど評判は悪くない。

 風邪を引きにくく感じたとか、歯茎が腫れなくなったとかなんだけど、まだ微妙かな。




 ジーンたちには会いに行ってない。ダンジョン自体、私は足手まとい認定されたし、まだ三回しか行ってないのだ。ようやく、魔物を見ても「怖ひぃいいい」とか思わなくなったけど、まだ腰は若干引けているらしい。

 二回目でようやく周りの景色も目に入り、ダンジョン内が聞いていた通り、明るいことなどに感心していたのだけど、「今更だよな」と仲間の反応は薄かった……。


 ジーンからもらった葉っぱは、本当に青々としていてそのままだ。でも、草笛がまだ吹けない……。致命的です。

 私が草笛を吹いても、「ぶぅぅぅ」とか「ぶっ」とかしか音が出ないのだ。

 男の子たちはとても上手だ。

 草に唇を当てるだけの草笛で演奏もどきになっている! 


「あなたは草笛の神ですか? 私にその奥義を伝授してたもー!」


 と思わず叫んでいた。

 ルカなんて楽器は下手なのにな。おかしい……。




 ジーンたちと会話したっていうのは、その後誰からも聞かれないなぁ――と、安心していたときに、キタ……。


「シャイン、魔物と会話したときの話を詳しく聞きたいのだけど」

「……ババさま、詳しくって?」


 ごまかしたいけど、無理そうだなぁ。


「魔物と会話したというのは、言葉で話したとは言ってなかったと思ってね」

「うん……。あのね、ツタが手のようでね、トントントンって叩くの」


 ごまかしたい気持ちで後ろめたさを感じたのか、うまく説明ができない……。


「トントンって叩いたのをどうやって理解したんだい?」


 ゆっくりと祖母が聞いていくれるので、私もゆっくりと説明を始める。


「えっとねぇ、そのトンとツーっていうのが規則正しかったの。だから、言葉を当てはめたら、意味が通じたの」

「法則性を分かったから、意味を理解することができたんだね?」

「……法則性? たぶん」

「今でもその言葉は覚えているかい?」

「分かると思うけど?」

「例えば、こんにちはだったら、どうなる?」

「こんにちは、だったら 『ツーツーツーツー トンツートンツートン ツートンツートン トントンツートン ツートントントン』かな」

「ふむ。……数字はあるかい?」


 数字は使ってなかったと思うけど、どうしようか……


「うーん、たぶんだけど、ゼロならツーが五回だと思う」

「思う? 数字ははっきり分からなかったのかい?」

「数字はあまり出てこなかったから、はっきりしない。適当にこうかなって思ったら合ってただけみたい」


 これは本当だ。

 日本語とアルファベットのモールス信号は別にある。今回はそのまま日本語のモールス信号が通じてた。でも、もしアルファベットの方だったなら、SOSしか記憶が出てこないから魔物との会話は出来なかったかもしれない。


 祖母は分かるだけの信号を書き出してほしいと言い、私は了承した。

 ただ、全部は書かないようにしないと。あの時に話をした言葉は入れるけど……、うーんほとんど入るかなぁ。覚えてない、で通そう。当てはめたって言ったから大丈夫だよね……。


 その後は誰からも、聞かれなかったからすっかり忘れて過ごしていた。ルカたちとジーンに再会するまでは……。

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